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11.Sungria
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はぁ、と吐き出す息は白い。空を見上げると、昼間の曇り空のせいか星は一つも見えない。
ポケットから取り出した携帯。受信メールは……無し。
はぁ、と再び息を吐く。白い煙は瞬く間に消えていく。
最後にメールをしたのは一週間前。それっきり、連絡は無し。
学生の自分と、社会人の彼。流れていく時間が違うのはわかっているし、一週間連絡が来ないからって不安になるような性格じゃ無かった。そんな、可愛らしい女の子、じゃなかったはずなのに。
はぁ、と今日何度目かわからないため息を吐く。ふと前方を見やると、小さなネオンが光る看板。 Bar Night と小さく記されている。いつも同じ道を通って帰るのだけど、こんな店があるのは始めて知った。最近出来た店なのだろうか……
携帯の時計は丁度二十時を示している。明日の授業は二限からだし、一杯呑んでいくのもたまには悪くない。そう思い、そっとその扉を押した。
カランカラン
入口の扉に取り付けられた古めかしいベルが鳴る。狭い店内には、数えられるほどのカウンター席しかない。
「いらっしゃいませ、」
声をかけて来たのは、おそらくこのBarのバーテンダー。すらりとした長身に、斜めに流された長めの前髪。肩より少し長めの髪は後ろで一つに結わえられている。白のワイシャツに黒のスラックス、ベスト。黒のサロンを腰に巻いているバーテンダーはふわり、と微笑んだ。
案内されたのはカウンターの丁度真ん中の席。斜め左前に立つバーテンダーは、チョコレートやナッツが乗った小皿を出してくれる。
店内を見回してみる。薄暗く、ランプの灯りのみでカウンターは照らされ、壁に散りばめられたステンドグラスが木の床に色を映し出している。
それからカウンター席に目を落とす。普通、店にはあるはずの物が……ない。
「あの、メニューありますか」
マフラーとコートを脱ぎ、ハンガーに掛けながら問う。けれどバーテンダーは小さく首を横に振った。
「申し訳ありません、当店にメニューはございません。お客様のお好みの物をお作りしております」
「え」
思いがけない返答に言葉が詰まる。Barに一人で来たことはないし、そもそもどんなメニューがあるかなんて……よくわからない。
ギュルルルル
そうして同時に……お腹の音が、鳴った。
「っ……ごっ、ごめんなさいっ……」
は、恥ずかしい! こんなに格好良いバーテンダーの前で。確かに、お昼以降何も食べてお腹がすいているのはあったけれど……
「お腹もすかれているのですね。空腹にお酒では……酔いが回るでしょう。少々お待ちください」
にこり、と笑ったバーテンダーは奥へと下がり……しばらくして、白いお皿を持って戻ってきた。
「こちらをどうぞ」
ことん、と置かれたのは……ローストビーフ。
「多少は……お腹にたまるでしょうから」
「ありがとうございます。あ……じゃぁ、お肉に合うお酒、でもいいでしょうか」
「かしこまりました」
小さく一礼すると、バーテンダーは背を向けて後ろの棚に手を伸ばした。
カウンターの上に置かれた携帯の画面は、相変わらず変わらない。
はぁ、と息を吐いて……出されたローストビーフに手を伸ばす。
「あ、美味しい」
思わず口にする。柔らかくて、甘い。
「お気に召していただけで良かったです」
「これ、本当美味しいです」
バーテンダーはにこり、と笑って目の前にグラスを置いてくれる。
「……サングリア」
「えぇ、今日は寒いでしょう」
湯気の立つサングリア。赤ワインの中に、オレンジや林檎などの果物が揺れている。
一口、口に含む。甘い香りと、赤ワイン独特の渋さが冷たい身体に染み渡る。
「美味しい……」
「こちらもお気に召していただけたようで幸いです。ところで……何かあったのでしょうか、お店に来た時からため息を吐かれていたので」
何だか……全てを見透かされている気がして。グラスをカウンターに置く。
「社会人の、彼氏がいるんです。私はまだ学生で、学生と社会人の時間が違うっていうのは始めからわかってたんですけど……」
ぽつり、ぽつりと語り出す。
ずっと憧れていた、六つ年上の彼氏。見ているだけで幸せだった彼と……はれて恋人同士になれた。社会人の彼氏と学生の自分。年齢差、何より生活の時間の流れが違う。そんなことは始めからわかっていたはずなのに。
「すぐ、不安になっちゃうんです。今まで私、恋愛してもそんな……可愛いキャラじゃ無かったんですよ。メールとかしなくても全然大丈夫で」
「元彼に言われたことがあるんです。可愛げがない、って。メールとか電話とか……そんなしなくてもいいっていうか、疑うのも悪いしって」
今思い返せばわかる。きっと今までの彼氏は、つまらなかったんだろう。ヤキモチを焼いたり、側にいたいと可愛く甘えてくる彼女じゃなかったから。
「でも何か、今の彼氏は……これまでとちょっと違って……」
「これまでは、自分が優位に立っていた」
「うっ……」
バーテンダーの言葉に、詰まる。
でも、当たっている。自分の方が……大人だと。そう、余裕があると思いたかったのだ。そうしないと、いちいちいろいろな事に不安になりそうで。
「その、とおりです。今の彼氏は六つも上で、やっぱり余裕があって……私より恋愛経験も多いだろうし、もっと綺麗な彼女もいたかもしれないし。仕事でどんな人と関わっているかもわからないし……それに……」
つい先日のことを思い出す。
始めて、彼の家にお邪魔させて貰った。職業柄か、家のあちこちに本棚があって……辺りを見回していると、彼の携帯電話が鳴った。
「あぁ、レイか。悪い、人が来てて……あ、なんだそれか。わかってるわかってる、何言ってんだよ……」
私には見せないような笑い顔で、電話の主と話していて。
「ったくしょうがねぇなぁ……レイの頼みじゃ聞いてやるよ。あぁ、じゃぁ明日またな。わかってるって」
電話を切ってからはまた私に話しかけてくれたけれど……何だか、変な胸騒ぎがして。
心のモヤモヤは、それ以降連絡が途絶えてしまったことに拍車をかけてしまっている。
「仕事が忙しいのかなっていうのは、思うんです。でも……その、最後に会った時、電話してた人のことが気になって」
温かいサングリアを喉に流し込む。じわり、じわりと心に染み渡る甘酸っぱさ。
「でも、忙しいのに連絡したら迷惑かなって思って……」
「それに、負けた気がする」
「うっ……鋭い、ですね」
「すみません。強がっているようにお見受けして」
バーテンダーの笑顔に、思わずくらりと来てしまう。
そう、いつも余裕があるのは彼の方で。私は、彼の掌で転がされている気がして。
「何だか、悔しいんです。自分だけ、好きみたいで」
メールや電話をするのはいつも自分から。会っても、わりと淡泊な彼で……自分ばっかり、好きみたいで。
「言葉を紡ぐ人が口下手とは……現実と想像の世界は違うのでしょうかね」
「わかりません。でも……甘い言葉を囁いてくれるような人ではないのかな、っていうのは何となくわかるんです」
「そうなんですか」
「はい。付き合いだしてから、好きって言葉を言って貰ったのもすごく少ないですし……」
そう、それもちょっと寂しい。好きって言って貰えるだけで、少し心が軽くなるのに。
「もしかしたら、相手も待っているのかもしれませんよ」
「え」
「六つも年上、ですが……本心はわかりません。待っているのかもしれませんよ、玲奈レイナさんからの連絡を。自分から連絡したらがっついているとか変な年上のプライドが邪魔しているのかもしれませんね。恋は、難しいですから」
彼も、待ってくれているのだろうか。私の連絡を。
「……連絡、してみてもいいと思いますか」
「えぇ。年下だから、なんですか。だったらそれを逆手にとって、思い切り甘えてしまえばいいんですよ。そうして素直に自分の気持ちを伝えてみてはいかがですか。彼にも、気持ちを教えて欲しいと伝えれば……何か変わるかもしれません」
小さく頷いて、携帯を手に取る。あの人に、一通のメール。送信ボタンを押して……残ったローストビーフに手を伸ばす。
「彼、お肉が好きなんです。これ、好きかも」
「それでは、レシピ教えましょうか。簡単ですよ」
「ぜひ、お願いします」
ふわり、とバーテンダーが笑う。
「え」
「此処に来て、始めて笑いましたね。彼の前でも、そうやって笑ってあげてくださいね」
何だかすごく恥ずかしくなって……2,3度頷いて、サングリアにも手を伸ばす。
ブー、ブー、というバイブ音。メールの送信者は……彼。
「あ……仕事、一段落したから明日なら会えるって」
「そうですか、良かったですね。ぜひ、素直な気持ちを伝えてみてください。これ、レシピです」
手書きで記されたレシピ。それを手帳に挟み、残りのローストビーフとサングリアを頬張る。
「ありがとうございます。あの、いくらですか」
「五百円です。当店ではチャージ料はいただいておりませんので……あぁ、ローストビーフは私からのサービスです」
「っ……ありがとうございます」
財布から五百円玉を取り出してバーテンダーに手渡し、店を出る。
明日、久しぶりに会える。そうだ、この教えて貰ったレシピでローストビーフを作って持って行こう。それに一段落終えたということは、一作品書き終えたのだろう。お祝いに、赤ワインも一緒に買っていこうか。
「あれ」
そこでふと思い出す。あのバーテンダーは言っていた。言葉を紡ぐ人が、と。確かに私の彼は小説家で……でもそんなこと、口にしていない。
「ま、いっか」
そうだ、話のネタにはなるかもしれない。明日会ったら話してみよう。
電話の相手のレイさんのことも、聞いてみよう。変な誤解は、したくないから。
薄暗い店内。カウンターに置かれた、一冊の古びた本。椅子に座るバーテンダーは、湯気のたつグラス……サングリアをそっと口に含む。
「ちょっと甘すぎたかなぁ……まぁ、女の子には丁度いいか」
言葉にしてバーテンダーは微笑む。
Hot Sungria そう本に記し、静かに本を閉じた。
ポケットから取り出した携帯。受信メールは……無し。
はぁ、と再び息を吐く。白い煙は瞬く間に消えていく。
最後にメールをしたのは一週間前。それっきり、連絡は無し。
学生の自分と、社会人の彼。流れていく時間が違うのはわかっているし、一週間連絡が来ないからって不安になるような性格じゃ無かった。そんな、可愛らしい女の子、じゃなかったはずなのに。
はぁ、と今日何度目かわからないため息を吐く。ふと前方を見やると、小さなネオンが光る看板。 Bar Night と小さく記されている。いつも同じ道を通って帰るのだけど、こんな店があるのは始めて知った。最近出来た店なのだろうか……
携帯の時計は丁度二十時を示している。明日の授業は二限からだし、一杯呑んでいくのもたまには悪くない。そう思い、そっとその扉を押した。
カランカラン
入口の扉に取り付けられた古めかしいベルが鳴る。狭い店内には、数えられるほどのカウンター席しかない。
「いらっしゃいませ、」
声をかけて来たのは、おそらくこのBarのバーテンダー。すらりとした長身に、斜めに流された長めの前髪。肩より少し長めの髪は後ろで一つに結わえられている。白のワイシャツに黒のスラックス、ベスト。黒のサロンを腰に巻いているバーテンダーはふわり、と微笑んだ。
案内されたのはカウンターの丁度真ん中の席。斜め左前に立つバーテンダーは、チョコレートやナッツが乗った小皿を出してくれる。
店内を見回してみる。薄暗く、ランプの灯りのみでカウンターは照らされ、壁に散りばめられたステンドグラスが木の床に色を映し出している。
それからカウンター席に目を落とす。普通、店にはあるはずの物が……ない。
「あの、メニューありますか」
マフラーとコートを脱ぎ、ハンガーに掛けながら問う。けれどバーテンダーは小さく首を横に振った。
「申し訳ありません、当店にメニューはございません。お客様のお好みの物をお作りしております」
「え」
思いがけない返答に言葉が詰まる。Barに一人で来たことはないし、そもそもどんなメニューがあるかなんて……よくわからない。
ギュルルルル
そうして同時に……お腹の音が、鳴った。
「っ……ごっ、ごめんなさいっ……」
は、恥ずかしい! こんなに格好良いバーテンダーの前で。確かに、お昼以降何も食べてお腹がすいているのはあったけれど……
「お腹もすかれているのですね。空腹にお酒では……酔いが回るでしょう。少々お待ちください」
にこり、と笑ったバーテンダーは奥へと下がり……しばらくして、白いお皿を持って戻ってきた。
「こちらをどうぞ」
ことん、と置かれたのは……ローストビーフ。
「多少は……お腹にたまるでしょうから」
「ありがとうございます。あ……じゃぁ、お肉に合うお酒、でもいいでしょうか」
「かしこまりました」
小さく一礼すると、バーテンダーは背を向けて後ろの棚に手を伸ばした。
カウンターの上に置かれた携帯の画面は、相変わらず変わらない。
はぁ、と息を吐いて……出されたローストビーフに手を伸ばす。
「あ、美味しい」
思わず口にする。柔らかくて、甘い。
「お気に召していただけで良かったです」
「これ、本当美味しいです」
バーテンダーはにこり、と笑って目の前にグラスを置いてくれる。
「……サングリア」
「えぇ、今日は寒いでしょう」
湯気の立つサングリア。赤ワインの中に、オレンジや林檎などの果物が揺れている。
一口、口に含む。甘い香りと、赤ワイン独特の渋さが冷たい身体に染み渡る。
「美味しい……」
「こちらもお気に召していただけたようで幸いです。ところで……何かあったのでしょうか、お店に来た時からため息を吐かれていたので」
何だか……全てを見透かされている気がして。グラスをカウンターに置く。
「社会人の、彼氏がいるんです。私はまだ学生で、学生と社会人の時間が違うっていうのは始めからわかってたんですけど……」
ぽつり、ぽつりと語り出す。
ずっと憧れていた、六つ年上の彼氏。見ているだけで幸せだった彼と……はれて恋人同士になれた。社会人の彼氏と学生の自分。年齢差、何より生活の時間の流れが違う。そんなことは始めからわかっていたはずなのに。
「すぐ、不安になっちゃうんです。今まで私、恋愛してもそんな……可愛いキャラじゃ無かったんですよ。メールとかしなくても全然大丈夫で」
「元彼に言われたことがあるんです。可愛げがない、って。メールとか電話とか……そんなしなくてもいいっていうか、疑うのも悪いしって」
今思い返せばわかる。きっと今までの彼氏は、つまらなかったんだろう。ヤキモチを焼いたり、側にいたいと可愛く甘えてくる彼女じゃなかったから。
「でも何か、今の彼氏は……これまでとちょっと違って……」
「これまでは、自分が優位に立っていた」
「うっ……」
バーテンダーの言葉に、詰まる。
でも、当たっている。自分の方が……大人だと。そう、余裕があると思いたかったのだ。そうしないと、いちいちいろいろな事に不安になりそうで。
「その、とおりです。今の彼氏は六つも上で、やっぱり余裕があって……私より恋愛経験も多いだろうし、もっと綺麗な彼女もいたかもしれないし。仕事でどんな人と関わっているかもわからないし……それに……」
つい先日のことを思い出す。
始めて、彼の家にお邪魔させて貰った。職業柄か、家のあちこちに本棚があって……辺りを見回していると、彼の携帯電話が鳴った。
「あぁ、レイか。悪い、人が来てて……あ、なんだそれか。わかってるわかってる、何言ってんだよ……」
私には見せないような笑い顔で、電話の主と話していて。
「ったくしょうがねぇなぁ……レイの頼みじゃ聞いてやるよ。あぁ、じゃぁ明日またな。わかってるって」
電話を切ってからはまた私に話しかけてくれたけれど……何だか、変な胸騒ぎがして。
心のモヤモヤは、それ以降連絡が途絶えてしまったことに拍車をかけてしまっている。
「仕事が忙しいのかなっていうのは、思うんです。でも……その、最後に会った時、電話してた人のことが気になって」
温かいサングリアを喉に流し込む。じわり、じわりと心に染み渡る甘酸っぱさ。
「でも、忙しいのに連絡したら迷惑かなって思って……」
「それに、負けた気がする」
「うっ……鋭い、ですね」
「すみません。強がっているようにお見受けして」
バーテンダーの笑顔に、思わずくらりと来てしまう。
そう、いつも余裕があるのは彼の方で。私は、彼の掌で転がされている気がして。
「何だか、悔しいんです。自分だけ、好きみたいで」
メールや電話をするのはいつも自分から。会っても、わりと淡泊な彼で……自分ばっかり、好きみたいで。
「言葉を紡ぐ人が口下手とは……現実と想像の世界は違うのでしょうかね」
「わかりません。でも……甘い言葉を囁いてくれるような人ではないのかな、っていうのは何となくわかるんです」
「そうなんですか」
「はい。付き合いだしてから、好きって言葉を言って貰ったのもすごく少ないですし……」
そう、それもちょっと寂しい。好きって言って貰えるだけで、少し心が軽くなるのに。
「もしかしたら、相手も待っているのかもしれませんよ」
「え」
「六つも年上、ですが……本心はわかりません。待っているのかもしれませんよ、玲奈レイナさんからの連絡を。自分から連絡したらがっついているとか変な年上のプライドが邪魔しているのかもしれませんね。恋は、難しいですから」
彼も、待ってくれているのだろうか。私の連絡を。
「……連絡、してみてもいいと思いますか」
「えぇ。年下だから、なんですか。だったらそれを逆手にとって、思い切り甘えてしまえばいいんですよ。そうして素直に自分の気持ちを伝えてみてはいかがですか。彼にも、気持ちを教えて欲しいと伝えれば……何か変わるかもしれません」
小さく頷いて、携帯を手に取る。あの人に、一通のメール。送信ボタンを押して……残ったローストビーフに手を伸ばす。
「彼、お肉が好きなんです。これ、好きかも」
「それでは、レシピ教えましょうか。簡単ですよ」
「ぜひ、お願いします」
ふわり、とバーテンダーが笑う。
「え」
「此処に来て、始めて笑いましたね。彼の前でも、そうやって笑ってあげてくださいね」
何だかすごく恥ずかしくなって……2,3度頷いて、サングリアにも手を伸ばす。
ブー、ブー、というバイブ音。メールの送信者は……彼。
「あ……仕事、一段落したから明日なら会えるって」
「そうですか、良かったですね。ぜひ、素直な気持ちを伝えてみてください。これ、レシピです」
手書きで記されたレシピ。それを手帳に挟み、残りのローストビーフとサングリアを頬張る。
「ありがとうございます。あの、いくらですか」
「五百円です。当店ではチャージ料はいただいておりませんので……あぁ、ローストビーフは私からのサービスです」
「っ……ありがとうございます」
財布から五百円玉を取り出してバーテンダーに手渡し、店を出る。
明日、久しぶりに会える。そうだ、この教えて貰ったレシピでローストビーフを作って持って行こう。それに一段落終えたということは、一作品書き終えたのだろう。お祝いに、赤ワインも一緒に買っていこうか。
「あれ」
そこでふと思い出す。あのバーテンダーは言っていた。言葉を紡ぐ人が、と。確かに私の彼は小説家で……でもそんなこと、口にしていない。
「ま、いっか」
そうだ、話のネタにはなるかもしれない。明日会ったら話してみよう。
電話の相手のレイさんのことも、聞いてみよう。変な誤解は、したくないから。
薄暗い店内。カウンターに置かれた、一冊の古びた本。椅子に座るバーテンダーは、湯気のたつグラス……サングリアをそっと口に含む。
「ちょっと甘すぎたかなぁ……まぁ、女の子には丁度いいか」
言葉にしてバーテンダーは微笑む。
Hot Sungria そう本に記し、静かに本を閉じた。
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