3 / 3
3.もう一人の聖女
しおりを挟む
炎と光、雷光が荒野の戦場を無数に飛び散った。
小さな花火のようなパチン、パチンという爆発音がして大聖堂とは比にならない黄金の光が戦場に降り注ぐ。
聖堂と同じ広範囲に及ぶ強化魔法だが、その効力は聖堂とは比にならないほどに強力だった。
「聖女さまのお力だ!」
「あぁ……身体が治ったぞ!」
「いまだ!押せえええ!!」
活力を取り戻し士気を上げる兵士たちの間を一人の壮麗な女性が走り抜けた。
「聖女さまだ!」
「前をあけろ!」
女性騎士の簡易的な装飾に魔力で作り出した長杖を変形させた剣を携え兵士たちが作った道を一直線に走り抜ける。その脚はほっそりと華奢なのに走り抜ける速度は熟練の兵士にも勝る。装束も装備もこの戦場で生き抜くには頼りないことこの上ないが、彼女にはそれで十分だった。
精霊たちの祝福によって強化されたドレスはどんな甲冑よりも彼女の身を守る。自身の魔力によって作り出した剣はどんな名刀よりも彼女の意思に呼応する。重い防具はその動きを阻害するだけだった。
「はああああ!!」
戦場に響くには高い声が大地を、空気を揺らし一閃放つ。黄金の斬撃が戦場を切り裂き魔族たちが散り散りに消え去った。
「やった……ティカ様の……聖女さまの勝利だ!」
「我々が勝ち取った勝利だ!」
「わあああああ!!」
劣勢を判断した魔族たちは次々に撤退、戦場には人間たちの歓喜の声が響き渡った。
最後の最後、聖女の奇襲が功を奏し人間たちは勝利を収めたのだった。
「なんという……」
その歓喜を遠くから眺める新米兵士がいた。
この地獄の入口とも言われる基地に送り込まれてたったの三日で彼は戦場に立つことなった。目の前には肘から先の腕がなくなった重症人が血の匂いを放ち、気を抜けば昏倒してもおかしくない状況で辛うじて立っているだけだった。
「……今のは魔法、なのですか?」
彼は魔法に明るくない。
この国で魔法について学べるのは一部の貴族くらいだ。人間が放つ魔法ですら彼は初めて間のあたりにした。
唖然と呟いた疑問に隣に立つ男が答える。
「あぁ。あれはティカの魔法で強化した魔力を斬撃にして放っただけだ」
「そう言いますが……あれほどの広範囲で放てるものなんですかね?」
「それが聖女、ミスティカ・エヴァンスなんだよ」
曖昧にうなづきながら隣の男の顔を伺った。
男は兵士でもない黒いローブを纏っているが何者なのかわからない。ただ部隊長や聖女とも親し気でここに残った救護班の警護を任されている。
配属されて三日。彼が何者か検討もつかない。
「さて、おおかたけが人は治したな」
「え、はい……」
「ならえーと……」
「あ、ヨシュアです」
「ヨシュアくん。きみにここを任せる。俺はティカのところに行くから」
「は?自分はまだそのような……」
「いいって!俺が許可したって言っておいて!」
「誰にですか!?あの……ていうか貴殿の名前は?!」
「固いなー、俺はレヴィ!とくに敬語とかいいからさ!」
そう言いながらレヴィと名乗った男はヨシュアの返事も待たずに文字通り魔法で飛び去った。進行方向には白銀に輝きで魔族を蹴散らす聖女、ティカがいて本当に聖女様のところへ向かったんだと、唐突に思った。
「いてて……レヴィは?」
「聖女さまのところに行くとかなんとか……」
「あぁよかった。アイツにおれたちの世話をさせるなんてもったいないからな」
「あの、怪我は?」
「もう大丈夫だ。ほら」
「わぁ……」
ひょいと腕を上げるとさっきまでたしかに無くなっていたはずの肘から先には綺麗な腕が繋がっていた。まるで腕は千切れたことなどなかったようになんの違和感もない日焼けした腕が繋がっている。
「アイツ、元の腕よりきれいに腕作りやがったな」
「え、ダメなんですか?」
「そんな芸当できるやつなんか国中探しても聖女さまくらいだ」
「聖女?あぁ、セレナ様の聖魔法なら……」
「ばーか。セレナ様はわからないがここじゃ聖女様といえばだいたいティカ様のことだよ」
「ティカ様?」
「ほら、あちらで魔族の残党を蹴散らして負傷者の救助までしているあのかただ」
指さした先には先ほどレヴィがミスティカ・エヴァンスと呼んだ聖女様がいた。白銀の光は増々強く輝いてその光を浴びただけで魔族は燃え尽きた塵のように消え去っていく。
「あのかたが……聖女さま……」
「おれたちの希望の光だ。よくみておけ」
「は、はい」
死と隣合わせの戦場で聖女と呼ばれるその女性、しかし王都では彼女は侮蔑の目でみられ別の女性が聖女として崇められているのだった。
小さな花火のようなパチン、パチンという爆発音がして大聖堂とは比にならない黄金の光が戦場に降り注ぐ。
聖堂と同じ広範囲に及ぶ強化魔法だが、その効力は聖堂とは比にならないほどに強力だった。
「聖女さまのお力だ!」
「あぁ……身体が治ったぞ!」
「いまだ!押せえええ!!」
活力を取り戻し士気を上げる兵士たちの間を一人の壮麗な女性が走り抜けた。
「聖女さまだ!」
「前をあけろ!」
女性騎士の簡易的な装飾に魔力で作り出した長杖を変形させた剣を携え兵士たちが作った道を一直線に走り抜ける。その脚はほっそりと華奢なのに走り抜ける速度は熟練の兵士にも勝る。装束も装備もこの戦場で生き抜くには頼りないことこの上ないが、彼女にはそれで十分だった。
精霊たちの祝福によって強化されたドレスはどんな甲冑よりも彼女の身を守る。自身の魔力によって作り出した剣はどんな名刀よりも彼女の意思に呼応する。重い防具はその動きを阻害するだけだった。
「はああああ!!」
戦場に響くには高い声が大地を、空気を揺らし一閃放つ。黄金の斬撃が戦場を切り裂き魔族たちが散り散りに消え去った。
「やった……ティカ様の……聖女さまの勝利だ!」
「我々が勝ち取った勝利だ!」
「わあああああ!!」
劣勢を判断した魔族たちは次々に撤退、戦場には人間たちの歓喜の声が響き渡った。
最後の最後、聖女の奇襲が功を奏し人間たちは勝利を収めたのだった。
「なんという……」
その歓喜を遠くから眺める新米兵士がいた。
この地獄の入口とも言われる基地に送り込まれてたったの三日で彼は戦場に立つことなった。目の前には肘から先の腕がなくなった重症人が血の匂いを放ち、気を抜けば昏倒してもおかしくない状況で辛うじて立っているだけだった。
「……今のは魔法、なのですか?」
彼は魔法に明るくない。
この国で魔法について学べるのは一部の貴族くらいだ。人間が放つ魔法ですら彼は初めて間のあたりにした。
唖然と呟いた疑問に隣に立つ男が答える。
「あぁ。あれはティカの魔法で強化した魔力を斬撃にして放っただけだ」
「そう言いますが……あれほどの広範囲で放てるものなんですかね?」
「それが聖女、ミスティカ・エヴァンスなんだよ」
曖昧にうなづきながら隣の男の顔を伺った。
男は兵士でもない黒いローブを纏っているが何者なのかわからない。ただ部隊長や聖女とも親し気でここに残った救護班の警護を任されている。
配属されて三日。彼が何者か検討もつかない。
「さて、おおかたけが人は治したな」
「え、はい……」
「ならえーと……」
「あ、ヨシュアです」
「ヨシュアくん。きみにここを任せる。俺はティカのところに行くから」
「は?自分はまだそのような……」
「いいって!俺が許可したって言っておいて!」
「誰にですか!?あの……ていうか貴殿の名前は?!」
「固いなー、俺はレヴィ!とくに敬語とかいいからさ!」
そう言いながらレヴィと名乗った男はヨシュアの返事も待たずに文字通り魔法で飛び去った。進行方向には白銀に輝きで魔族を蹴散らす聖女、ティカがいて本当に聖女様のところへ向かったんだと、唐突に思った。
「いてて……レヴィは?」
「聖女さまのところに行くとかなんとか……」
「あぁよかった。アイツにおれたちの世話をさせるなんてもったいないからな」
「あの、怪我は?」
「もう大丈夫だ。ほら」
「わぁ……」
ひょいと腕を上げるとさっきまでたしかに無くなっていたはずの肘から先には綺麗な腕が繋がっていた。まるで腕は千切れたことなどなかったようになんの違和感もない日焼けした腕が繋がっている。
「アイツ、元の腕よりきれいに腕作りやがったな」
「え、ダメなんですか?」
「そんな芸当できるやつなんか国中探しても聖女さまくらいだ」
「聖女?あぁ、セレナ様の聖魔法なら……」
「ばーか。セレナ様はわからないがここじゃ聖女様といえばだいたいティカ様のことだよ」
「ティカ様?」
「ほら、あちらで魔族の残党を蹴散らして負傷者の救助までしているあのかただ」
指さした先には先ほどレヴィがミスティカ・エヴァンスと呼んだ聖女様がいた。白銀の光は増々強く輝いてその光を浴びただけで魔族は燃え尽きた塵のように消え去っていく。
「あのかたが……聖女さま……」
「おれたちの希望の光だ。よくみておけ」
「は、はい」
死と隣合わせの戦場で聖女と呼ばれるその女性、しかし王都では彼女は侮蔑の目でみられ別の女性が聖女として崇められているのだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる