ニャン・マジック

ハムパッチ

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始まりのほにゃらら

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 俺が魔物であることを知ったのは、母親からこの世界のことをたくさん教わったときだ。

 世界には多くの生き物が生きている。バカだが心優しいゴブリン。空中を漂う精霊たち。気高く、面倒見の良いドラゴンなどだ。その中でも特に覚えろと言われた生き物がいた。

 人間だ。

 奴らは、どこにでもいるという。そして最も怖い生き物だという。多くの生き物を食べ、また意味もなく殺す。さらに人間同士で殺しあうのだ。

 魔物はそのようなことはしない。同じ魔物だろうが、違う魔物だろうが、皆共生している。

 ドラゴンが住む土地は豊かになる。だから他の魔物たちが集まって来たりする。だが、ドラゴンは何かをするわけではない。むしろ、地震などが起こった時に助けてくれたりもする。だから皆、ドラゴンを敬うのだ。

 ゴブリンだってそうだ。彼らは頭があまり良くない。だから、いろんな魔物に助けてもらう。そして心優しいゴブリンは、何か敵が近づくとそれをみんなに知らせる役目を果たしている。人間による被害はゴブリンが一番大きいのだ。

 おっと、話が逸れた。つまりは人間が怖い生き物だということだ。

 これが俺の抱いていた人間、という生き物だ。


 ◇


 その人間が今、追いかけてきている。

 なぜこんなに落ち着いているのかと言うと、俺は母親にくわえられているのだ。つまり俺は子供だ。

 母親は強くて、早い。しかし、今は怪我をしていてあまりスピードが出ていない。俺をかばって受けた傷だ。

 なんだか胸がモヤモヤした。

 母親がいきなり俺に念話をしてきた。

(化けの術はつかえるわね?)

 俺はなんだかその感覚に安心しながらも、頷くことにする。化けの術とは俺たちの秘術である。思い描く生き物に化けることができるのだ。その効果は強いが、欠点がある。化けているとき、魔力があまり使えないのだ。魔法で戦う俺たちには大きな痛手だ。

(人間の赤ん坊に化けなさい)

 はて?なぜだろうか。俺は不思議に思いながらも、母親の言う通りにした。体が根本から変わっていく。不思議な感覚だが悪くは無い。赤ん坊は小さく、くわえていた母親の口の中にすっぽりと収まってしまう。

(ごめんね?どうか、幸せに……)

 一体なぜ謝るのだろうか。わからなかったが、そこで俺の意識は途切れてしまう。おそらく母親の魔法だと思い、静かに目を閉じた。

(どうか。どんな形であれ、生きて。私はいつまでも、あなたが大好きだわ)

 そこから子持ちの神猫は風のように加速した。そして、一軒の家の前に口にくわえていたものを出して、そこからさらに移動した。

 しかし、追いかけていたハンターに見つかってしまった。すでに満身創痍だ。

 それから先は……


 ◇

 俺が目を覚ますと木出てきた檻のようなものの中で、ふわふわの何かの上にいた。

 一体ここはどこだろうか。それに母親はどこにいるのだろうか。いろんな疑問があるが、まずは元の姿に戻らなければいけない。この姿では無防備すぎるからな。

 …………あれ?

 戻れない。身体がこの状態で、固まってしまったようにこの姿からは変わらないのだ。

 考えられる理由は、二つ。何か魔力を阻害する結界の中にいるか。眠る時に母親がかけた魔法かだ。後者はほぼ無いだろう。だって母親が俺にそんな魔法をかける意味が無いだろう。

 突如。俺の視界に思ってもいなかったものが入る。

 今まで上しか見ていなかったので、横を見た時初めて気がついたのだ。

 俺の横に人間の赤ん坊いる。

 だが、不思議と怖くは無かった。俺は赤ん坊が怖いのでは無い。ここが、人間の巣であることが怖いのだ。

「ーーーー、ーーーーーー」

 私が隣の赤ん坊を観察していると、上から音が聞こえた。もちろんのこと、そちらの方を見た。

 人間がいた。

 成熟した人間だ。母親から聞いている通りの姿だった。おそらくメスだろう。

 私は怖かった。あの追いかけてきた人間が、今目の前にいるのだ。しかもこんな無防備な状態で!

 自然と体に力が入ってしまう。今から私はどうなるのだろうか。食べられてしまうのか、もてあそばれて殺されてしまうのか。ああ、これがドラゴンに睨まれた羊の気持ちなのか。

「ーーーーー、ーーーーーーー」

 人間が鳴き声をあげながら俺に手を伸ばす。やめろ、近づくなあ!だが、何も出来ない。

 そして、その手は俺の頭を撫でた。

 はっきり言って怖い。だがその撫で方は、母親が毛づくろいしてくれている時と同じようだった。なんだか懐かしくてつい目を細めてしまう。

 人間は撫でるのをやめると、どこかは離れていった。

 あれが隣の赤ん坊の母親だろうか。人間にもそのようなものがいたことを、俺は初めて知った。


 ◇


 それから5年経った。私が人間として6歳になったのだ。

 俺は森を走っている。あの、親と思われる人間に、外で遊んでくるように言われたからだ。

 俺が人間の言葉に規則性があることに気づいたのは、つい最近だ。それから、それが人間の意思疎通手段であると気づいた。俺は生きるために覚えなければいけないと思い、覚えた。なぜなら私は、人間から変わらないのだから。私の体は順調に成長している。これでは母親に気づかれないだろう。まずは、戻る方法を探す。

 そして私がいつも遊んでいる森の広場にたどり着いた。あの親の人間は群れで暮らしており、村というものを作っていた。その近くでは、落ち着かない。なので少し離れたのだ。

 俺はここでただ遊ぶのでは無い。

 体を鍛えるのだ。俺は弱い。もし、神猫であることがバレたら、人間どもに襲われるだろう。その時に備えるためだ。

 俺はお手製の短刀を振る。俺が木で作ったものだ。両手に二本持ち、相手の急所を狙うため、柔軟に素早く動くことを意識している。

 人間の筋肉は硬い。俺が神猫だった時はとてもしなやかな筋肉をしていたため、どうしても違和感があった。最近は慣れてきたのだか。

 ガサガサと茂みが揺れる。

 俺は隠し持っているナイフを持つ。魔物だろうか?確かに、こんな森の奥に人間がいれば警戒して出てくるだろう。

 今の私は人間だ。意思疎通が出来ない。おそらく敵とみられるだろう。なるべくなら戦いたく無いが、命がかかるなら仕方がない。

 全身の力を抜いて、どこからでの攻撃もかわせるようにする。

 すると、茂みから俺の妹《•》が出てきた。正確には妹ではない。血が繋がっていないのだから。

「お兄ちゃん。何してるの?」

 俺はこの妹が苦手だ。俺が移動すると近くに来る。俺が何かするごとに何故か聞いて来るのだ。敵意はないと思うのだが、よくわからないから苦手だ。

 妹に何も言わずに俺は訓練をスタートした。今の私では何も出来ないのだから、休んでいる暇はない。

「ねえ、遊ぼ?」

 その言葉に俺の体は固まる。私で俺には妹とじゃれあっている暇はないのだ。しかし、以前遊んでやらなかった時に、親の人間にすごく怒られたのだ。

 いわく、お兄ちゃんでしょ。妹の面倒を見なさいと。

 その時の顔は母親ととても似ていて、困るのだ。

「お兄ちゃん、遊んでくれないの?」

 妹が泣きそうになっている。妹は泣くと、とても意地を張り出すので面倒臭い。

 俺は近づいていって、頭を撫でた。親がいつもそうやっていたように。

「わかった。俺と遊ぼう」

 妹は嬉しそうに笑っていた。

 そしてその後、妹は遊び疲れたのか、俺に背負われている。

 一体何故。俺は人間になって、こんなことをしているのだろう。

 ◇

家に帰ると、母親の人間と父親の人間がいた。

「あらあら、お兄ちゃんしてるわね」
「そうだな。兄弟の仲がいいことは良いことだ」

俺が妹を背負って帰って来ると大体こんなことを言う。ちなみに妹は俺の背中で幸せそうに眠っている。

「着いたぞ。起きろ」

俺がそう言って揺すると、すぐに目を覚ました。

「家?お兄ちゃんが運んでくれたの?」

その通りだが、それは言わなくてもわかっているだろうから言わないことにした。そんなことよりも、他の人間が食事をしようと椅子についているので我々も行かなくては。

「ご飯だ。早く食べるぞ」

「ありがとう!お兄ちゃん!」

二人で同時に席に着く。いつも思うのだが、人間は一度の食事で様々なものを食しすぎだと思うのだ。顔には出さないが。

「お兄ちゃん。今日も美味しいね!」

妹が俺に言ってくる。何故俺にばかり話しかける。ここで美味しくないというわけにはいかないだろう。美味しいからいいけど。

「おいおい、そういうのは作った人にまず言うもんだろ。どれだけお兄ちゃんっ子なんだ」
「良いのよ。二人が仲良くしてくれるのはとても嬉しいわ。少し仲良しすぎるけれどね?」

やはり親もそう思うらしい。しかし勘違いしないでもらいたいのは、俺は別に仲良くしているわけではない。

そんなことを考えているうちに俺はご飯を食べ終わった。

「なあ、お前はもうすでに独り立ちしそうな雰囲気だが、どこかに行く気はあるのか?学校とか」

同じく食べ終わった父親が聞いてきた。

学校。それは人間たちが知識を身につけるための場所らしい。魔物は自ら学ぶのだが、人間は教えられるらしい。

だが、学校にはいろんな種類がありその中に、魔法学都市と言われるものがある。

そこでなら、神猫に戻る方法が見つかるかもしれない。だから

「ああ、俺は魔法学都市に行きたい」

その言葉に親も妹も固まった。

魔法学都市。それは魔法を抑えるための都市だ。人間たちの最も強い力は魔法だ。そのため世界中の優秀な人たちは魔法学都市でさらに力をつけ、人間たちの発展に役に立つ。

しかし

「お前、魔法がそんなに使えるのか?いや、使えるだけでは入学できないのは知っているだろう?」

その通り。あそこは完全に実力主義だ。少し魔法が使えるくらいでは入れない。平均以上の魔力。平均以上の魔法。平均以上の知識が必要だ。

しかし、俺は神の名を冠する猫。魔力と魔法に関する知識には自信がある。しかし忘れてはいけないのが今は化けの術を使っている最中だと言うこと。

「魔法はいまいちだが、魔力と知識には自信がある。大丈夫だ。親に迷惑はかけない」

「いや、確かにあそこはお金がかからないが、遠いだろ?寮があるにしても、心配になる」

はあ……。この人間は一体何を言っているのだろうか。俺は彼らの子供ではない。

「まあまあ、あなた。良いじゃない。自分がやりたいことがあるのでしょう?それにすぐに出発するわけじゃないのだから」

そうだな。まだ自分を鍛えなければならない。

「そうね……。あなたが14歳になったら行っても良いわよ?」

なぜ、人間に決められなければいけないのだ。だが……あと8年か。そのくらいか?母親をこの近辺で探しながら、自らを鍛えればそれくらいはかかるだろう。

「わかった。8年待とう」

「いい子ね。それまでは甘えてもいいのよ?あなたは私たちの子供なんだから」

人間は自分の子供だろうとなかろうと愛せると言う。……人間のそんなところは尊敬できる。

「お兄ちゃん。どこか行くの?」

俺と親が話している間、静かにしていた妹が口を開く。その声は少し震えていた。

「ああ、ここから遠いところだ」

おそらくわからなかっただろうから、説明しておくことにした。妹のことだからついてくるとか言うんだろうか。

「……いや。絶対いや!」

そして、いきなり泣き出したのだ。わけがわからない。魔物だっていずれは巣立つ。それと何が違うのだろうか。

すると母親が妹の肩を持った。

「お兄ちゃんと離れたくない?」

「……離れたくない!」

なぜだ。妹にもやりたいことがあるだろう。俺にそばにいることによるメリットがない。

「なら、お母さんと魔法の勉強をしましょう!魔法学都市の卒業生なんだから!絶対にお兄ちゃんと離れさせないわ!」

はい?!この人間が魔法学都市の卒業生だと?!初めて知ったぞ。しかも魔法が使えたとは、すぐ近くにこんな脅威がいたとは。

「うん!頑張る!絶対に魔法使いになるから、お兄ちゃん応援しててね!」

妹のことは俺にはよくわからん。おそらく世界で一番謎な生き物だろう。

「あ、ああ。応援している」

俺はそう答えることしかできなかった。





「兄さん。早く行きましょう。馬車が待っていますよ?」

あれから8年。俺は母親を探したがついに見つからなかった。だから、今は元に戻ることを優先することにする。明日は魔法学都市の試験だ。試験が終わり次第、合格者が発表されそのまま入学式だ。

俺と妹は今から馬車で、魔法学都市へと向かうところだ。妹は8年で魔法が使えるようになった。それも相当。きっとあの人間の教え方が良かったのだろう。

それに成長した。わがままも言わなくなったし、俺の呼び方も変わったのだ。相変わらずいつも俺につきまとってはくるのだか、それは慣れた。青色の髪は伸び、体も人間のメスだと一目でわかるようになった。

俺も成長した。身体はかなり成長して人間としてはそれなりに強い力を持っていると思っている。ちなみに髪の色は黒だ。これは神猫の頃から変わらない。

そういえばあの人間の、父親に勝てなかった。父親が俺にたまに模擬戦を挑んでくるのだが、強かった。

まだまだ、若いと言うことだろうか。

色々考えていると馬車にはすぐについた、馬車の先頭にいる人間に挨拶をして、俺から馬車に乗った。8年でこのような、マナーと言われることが人間として生きる時に必要だと学んだ。少し入り口が高かったので、妹に手を貸すとしよう。俺は手を差し出した。

「兄さん……。ありがとう」

俺の手を取り、妹が馬車に乗る。だが、手を離さない。

「なあ、離してくれないか?」

「嫌です」

先ほど、わがままは言わないと言ったがそれは訂正する。昔からこの妹の不思議な行動には手を焼いている。

「いや、離せよ。動きづらいだろ?」

俺は正直にそう言った。しかし、妹は手を繋いだまま、席に座った。

「そろそろ動きますよ?ほら。ここに座ってください」

そう言って自分の横に座るようにいう。まあ……別に座ってもいいだろう。

「そろそろ離せ。いつまで手を握っているんだ」

「……わかりました」

渋々といった感じに手を離す。一体何がそんなに気に入らないのだ。8年経っても俺は妹のことがよくわからない。

それからは特に何もなく、馬車はガタガタと走る。

「……うぅ。くるしい」

隣で妹が気分が悪そうにしている。おそらく馬車で酔ったのだろう。馬車はよく揺れる。慣れていなければ苦しくなっても仕方ない。俺は大丈夫だったが。

「大丈夫か?少し横になれ、魔法をかけてやろう」

最近、俺は変わってきている気がする。昔の俺なら放っておいただろう。

「……え?兄さん?」

「いいから。俺の膝を枕にして少し横になれ」

妹は意外そうな顔をしながら俺の膝に頭を乗せて横になった。

馬車はには他に客がいないため迷惑にはならない。

「あまり心配させるな」

俺はそう言いながら、妹の頭に魔法をかける。確かこれは酔いに効くと思うのだが。

どうやら少し楽になったようだ。妹の顔色が良くなった。少し赤いか?

「兄さんは、卑怯だよ……」

一体何が卑怯だというのだ。せっかく介抱してやっているのに。だが、少しおかしくて笑ってしまう。最近は妹のわけがわからないところが面白く感じてきたのだ。やはり俺も変わっているのだろう。

「……わざとなの?」

妹は俺のことを睨んできた。何か気に障ったのだろうか。

「いや?俺の妹は面白いと思っていただけだ」

俺がそういうと、妹はそっぽを向いた。

「……お兄ちゃんのバカ」

そうぼそりと言って、しばらくすると妹は寝息を立て始めた。

全く、俺は妹より頭はいいはずなのだが。やはり俺の妹は不思議だ。

それから1日ほど経って俺たちの乗った馬車は、魔法学都市の入り口についた。

妹と一緒に馬車を降りた。そして、お礼を言い。馬車を見送った。

俺は妹と一緒に魔法学都市へ歩く。さあ、入学試験を受けに行こうか。










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