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みをつくし
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「今日ね」
澪が、壱弥の手を握ってきた。
「買い物をしている間も、料理をしているときも、すごく幸せだったの。壱弥くん喜ぶかな、美味しいって言ってくれるかなって想像して。料理していてこんなに幸せだったの、初めてかも。壱弥くんの誕生日なのに、私のほうがプレゼントを貰っちゃった感じ」
壱弥は澪の手を握り返し、指を絡ませる。毎日料理や洗い物をする割に、なめらかで綺麗な手だった。
「ありがとね、壱弥くん」
穏やかに笑いながら、澪が見上げてくる。壱弥は握っていた手を離して澪の肩を抱き、そのまま唇を重ねた。
「あっち、行く?」
寝室のほうをちらりと見て、澪が言った。壱弥は頷き、もう一度澪に唇を寄せる。
東京に来て初めて迎えた誕生日は、澪の体温を感じながら過ぎていった。
それから、澪との付き合いは順調そのものだった。心配していた元カレの訪問はなく、澪はいつも明るく笑っている。
互いの家を行き来したり、壱弥の早朝トレーニングに澪が付き合ってくれたり、ふたりで過ごす時間はかなり増えた。
そうしているうちに、自分と澪は正反対の部分も多くあることに壱弥は気がついた。
澪は几帳面で、壱弥が無意識に散らかした本や洋服を、いつの間にか整えてくれている。初めて入る飲食店でもメニューを即決する壱弥に対して、澪はあれこれと悩む。壱弥が洗濯物を大雑把に畳めば、完璧主義者の澪は端をそろえてしっかり形を整えながら畳んでいる。
「陰陽相対の原理ってあるでしょう? 相反するものが同時に存在することで、お互いを補い合ってバランスを取っているっていうやつ」
「じゃあ、澪先輩と俺はバランスいいってこと?」
「そういうこと」
澪と、そんな会話をしたことがある。
正反対な部分が多くても上手くいっているのは、それぞれの違いを受け入れて尊重しているからだろうと壱弥は思った。澪は決して、自分のやり方や意見を押しつけない。それは壱弥も同じだ。
加えて金銭感覚、生活リズム、衛生観念、そしてなにより食の好みが合いすぎるぐらいに合っている。たとえ性格や行動が正反対であっても、これらの価値観が同じだからこそ、ストレスなく一緒にいられた。
付き合いはじめて二か月が過ぎるころには、澪がマンションの合鍵を渡してくれた。壱弥のマンションは合鍵を作成して第三者に渡すことは禁止されていたが、澪の部屋は親戚の持ち家で、二つ返事で了承してくれたらしい。
「持っているの、壱弥くんだけだからね」
合鍵を渡されたとき、澪が嬉しそうに言った。
澪が、壱弥の手を握ってきた。
「買い物をしている間も、料理をしているときも、すごく幸せだったの。壱弥くん喜ぶかな、美味しいって言ってくれるかなって想像して。料理していてこんなに幸せだったの、初めてかも。壱弥くんの誕生日なのに、私のほうがプレゼントを貰っちゃった感じ」
壱弥は澪の手を握り返し、指を絡ませる。毎日料理や洗い物をする割に、なめらかで綺麗な手だった。
「ありがとね、壱弥くん」
穏やかに笑いながら、澪が見上げてくる。壱弥は握っていた手を離して澪の肩を抱き、そのまま唇を重ねた。
「あっち、行く?」
寝室のほうをちらりと見て、澪が言った。壱弥は頷き、もう一度澪に唇を寄せる。
東京に来て初めて迎えた誕生日は、澪の体温を感じながら過ぎていった。
それから、澪との付き合いは順調そのものだった。心配していた元カレの訪問はなく、澪はいつも明るく笑っている。
互いの家を行き来したり、壱弥の早朝トレーニングに澪が付き合ってくれたり、ふたりで過ごす時間はかなり増えた。
そうしているうちに、自分と澪は正反対の部分も多くあることに壱弥は気がついた。
澪は几帳面で、壱弥が無意識に散らかした本や洋服を、いつの間にか整えてくれている。初めて入る飲食店でもメニューを即決する壱弥に対して、澪はあれこれと悩む。壱弥が洗濯物を大雑把に畳めば、完璧主義者の澪は端をそろえてしっかり形を整えながら畳んでいる。
「陰陽相対の原理ってあるでしょう? 相反するものが同時に存在することで、お互いを補い合ってバランスを取っているっていうやつ」
「じゃあ、澪先輩と俺はバランスいいってこと?」
「そういうこと」
澪と、そんな会話をしたことがある。
正反対な部分が多くても上手くいっているのは、それぞれの違いを受け入れて尊重しているからだろうと壱弥は思った。澪は決して、自分のやり方や意見を押しつけない。それは壱弥も同じだ。
加えて金銭感覚、生活リズム、衛生観念、そしてなにより食の好みが合いすぎるぐらいに合っている。たとえ性格や行動が正反対であっても、これらの価値観が同じだからこそ、ストレスなく一緒にいられた。
付き合いはじめて二か月が過ぎるころには、澪がマンションの合鍵を渡してくれた。壱弥のマンションは合鍵を作成して第三者に渡すことは禁止されていたが、澪の部屋は親戚の持ち家で、二つ返事で了承してくれたらしい。
「持っているの、壱弥くんだけだからね」
合鍵を渡されたとき、澪が嬉しそうに言った。
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