ホウセンカ

えむら若奈

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母へと贈るエーデルワイス

10

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 愛茉が予約してくれた旅館は、古いながらも隅々まで清掃が行き届いている、気持ちのいい空間だった。館内は畳敷きで、レイアウトや家具などにもこだわりが感じられる。

 部屋は10帖と4帖の二間続きの和室。現代的ではあるが、どことなく大正浪漫の雰囲気を感じさせる装飾で、なかなかセンスが良い。

 食事前に大浴場でひと風呂浴びることにした。潔癖な愛茉は大浴場が好きではないようだが、どういう所なのか見たいからとりあえず行くらしい。部屋にも露天風呂がついているし、後でまたゆっくり入るか。

「可愛い浴衣選んだな」

 風呂から出ると、愛茉は洗柿あらいがきの生地に牡丹の花をあしらった浴衣を着ていた。

 レンタル浴衣が選べるプランらしく男物の浴衣も置いてあるが、オレ好みの物はなかった。とりあえず黒地に濃淡のある格子模様の浴衣にしてみたものの、地味だし袖が短い。

「桔平くん、シックなのも似合うね。すごくかっこいい」
 
 顔を赤らめながら言われると、せっかく着ている浴衣も早く脱がせたくなる。いや、その前に腹を満たさないとな。
 
「東京に来て思ったのが、お魚があんまり美味しくないってことなんだよね」

 風呂から戻ると、部屋に夕食が運ばれてきた。さすがは北海道といった感じの海の幸が、ずらりと並んでいる。見た目も鮮やかだ。

「まぁ東京は、それなりに金出さねぇとウマいもんは食えねぇからな」
「やっぱりお魚は北海道に限るなぁ。美味しい~」
 
 愛茉は今日、相当食ってるような気がする。でもまぁ、東京では味わえないものばかりだしな。ちなみに明日はジンギスカンを食べに行くらしい。

 食事を終えた後は、館内を見て回る。売店には酒もたくさん売っていたので、お父さんへの手土産に日本酒を買った。愛茉はお父さんと恋人のためにペアグラスを選んでいる。再婚話がようやく具体的になってきたらしく、今回の帰省で紹介してもらうことになっていた。

「はぁ、今日たくさん歩いたね」

 部屋に戻ると、愛茉は4帖の部屋に敷いてある布団の上に寝転がった。早起きしたにも関わらず一日中はしゃぎっぱなしだったし、相当疲れているはずだ。

「もう寝るか?疲れただろ」
「えっ、寝ちゃうの?」

 ……こういう発言は、無自覚なのだろうか。時々分からなくなる。

「……疲れてねぇの?」
「疲れてるけど……でも……ギュッとしてほしいし……」

 オレの理性も自制心も、愛茉は簡単にぶち壊す。分かってんのかよ。普段どれだけ抑えているのか。
 
「言ったことの責任は、ちゃんと持てよ」

 襖を閉めて、常夜灯を灯す。頬に触れると、愛茉が一気に女の顔を見せた。飽きることなんてない。心も体も、重ねる度に馴染んでくる。

 温泉のおかげか、それとも浴衣効果なのか。愛茉は、いつも以上に綺麗だった。
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