ホウセンカ

えむら若奈

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色鮮やかなオオゴチョウ

おまけのおはなし「健康に長生き大作戦・途中経過」

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「桔平くん、もう結果出たんじゃないの?」

 ある日の夕食時、愛茉が言った。飯を咀嚼している顔が相変わらず可愛くて、いつもウサギを思い浮かべてしまう。

「……聞いてる?」

 黙って顔を凝視していると、愛茉が口を尖らせる。そういう顔も、たまらなく可愛い。

「聞いてなかった。なんだって?」
「だからぁ、健康診断の結果!この前受けたでしょ」

 そういえばそうだった。去年までそんなもの一切受けていなかったが、今年は必ず受けろと愛茉に言われて、仕方なく受診した。しかし大学の健康診断は項目も少ないし、血液検査もない。これで何が分かるんだと言いたくなる。

「あぁ、そんな通知来てたな」
「Webで見れるでしょ?」
「多分」
「見せて」
「えぇ……後でいいじゃん」
「見せて」

 妙な圧力を受けて、横に置いていたノートパソコンを渋々開く。そして大学の保険管理センターのページへアクセスすると、愛茉にパソコンを奪い取られた。

「ほらぁ!身長185.3だって。182って言ってたのにー」
「言ってたっけ」
「付き合う前に言ってましたー。私が153って言ったら、29cm差だなって」
「よく覚えてんな」

 ちなみに182cmを測定したのは高校3年の時。それ以降は測っていなかった。
 
「体重65.2……もう少しあってもいいよねぇ」
「今ぐらいでいいよ。増えたら服入んなくなるじゃん」
「視力1.2かぁ。いいなぁ。ていうか血圧ひくっ!88の52……」
「だって朝だったし」
「うーん、血圧計買おっかなぁ……」

 血圧計を買ったら、毎日決まった時間に計らないといけなくなるのだろう。

 “健康で長生き大作戦”を遂行中なので、愛茉はオレの健康にとても気を遣ってくれている。実際、同棲を始めてから明らかに体調が良くなった。毎日愛茉の手料理を食べて、ほぼ同じ時間に寝起きしているからだろう。以前のオレからすると、考えられない生活だった。

「あとは特に問題なしかぁ。血液検査ないから、あんまり分かんないけど」
「愛茉の結果は?」
「出てるよ」
「見せて」
「やだ」
「オレのは見たじゃん」
「やだ!体重書いてあるのに!」

 ほぼ毎日見て触っている体なのに、今更体重の数値を見たから何だって言うんだ。女のこういうところは、よく分からない。

「どうせ増えてたんだろ。そういや、健康診断後から食事のメニューが変わったもんな」
「そういうデリカシーのない発言はやめてくださいっ!」

 ……しまった。思いきり機嫌を損ねたようだ。

 女に体重の話題は禁忌である。その夜、指一本触れさせてもらえなかったオレは、この言葉を深く心に刻んだ。

 ちなみに、身長は0.5cm伸びていたらしい。
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