隣の席の徳大寺さん

えむら若奈

文字の大きさ
24 / 25

第24話

しおりを挟む
 隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 そんな徳大寺さんが入部してくれたおかげで、錦鯉クラブは同好会から部へと昇格した。部長としてすごく嬉しいし、これまで以上に有意義な活動をしなければと身が引き締まった。

硬骨魚網こうこつぎょこうコイ目コイ科コイ属……コイの嵐ね」

 学校の中庭にある池で気持ち良さそうに泳ぐ鯉たちを眺めながら、徳大寺さんが呟いた。
 僕たち錦鯉クラブの活動内容は、この立派な錦鯉たちの世話をすること。そして品評会に出して、賞を獲得するのが目標だ。

「錦鯉クラブに入部したおかげでここへ入れたけれど、とても落ち着く場所よね」
「そうでしょ。池作りから始めて、ようやくここまで環境を整えたんだ」

 中庭へ続くドアには、通常カギがかかっている。入れるのは、先生達と錦鯉クラブのメンバーだけ。高価な錦鯉が盗まれたり悪戯されたりしないための対策だった。

「謙介くん、ひとりで頑張ったのね」
「僕だけじゃないよ。鯉川先生の情熱があったからなんだ」

 そう。この錦鯉クラブは、錦鯉をこよなく愛する鯉川先生と僕の、たった2人で立ち上げた。
 入部する人が誰もいなくてずっと鯉川先生とマンツーマンで活動していたけれど、これからは徳大寺さんも一緒だ。そう考えると、僕の胸は高鳴るばかりだった。

「鯉川先生の錦鯉にかける情熱は、もはや大きな愛だからね」
「鯉が……恋が、愛に変わったのね……わ、私たちの関係もいつか……」
「鯉が鮎に?徳大寺さんは、鮎も好きなの?」
「え?そ、そうね。鮎は“清流の女王”ですもの」
「そっかぁ。でも錦鯉と鮎の混泳は難しいと思うんだよね。それに鮎は遊泳範囲が広くて活発だから、狭い場所だとストレスになるだろうし……一旦、鯉川先生に相談を」
「け、謙介くん。いいのよ。鮎を飼ってほしいわけじゃないから。忘れないで。私達は、錦鯉クラブなのよ」

 徳大寺さんが、右手を力強く握りしめる。
 仲間ができたことを改めて嬉しく感じて、僕は思わず徳大寺さんの右手に自分の両手を重ねた。

「そうだね、そうだよね。僕達は、錦鯉クラブだもんね。錦鯉だけに愛と情熱を注がなきゃね」

 やっぱり、徳大寺さんは変わっている。
 その真っ赤に染まった頬は、池の中を元気に泳いでいる紅白の錦鯉「二階堂べにまる」にそっくりだと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...