異世界終着点《アナザーワールドラストピリオド》

ポチ山

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19話


 突然走ったからか、陽光が気持ちいいからか知らないけど、僕は知らぬ間に瞼を閉じていた。

 色々考えすぎた、疲れが生じたのだろう。

 五十鈴は一人、湖畔のベンチで眠った。


 ーーっ。

 また…か。

『おい五十鈴‼︎早く来い!』

 只でさえ短い僕の髪の毛を、思いっきり引っ張る大男。

 髪は引っ張られているのだが、夢だからか全く痛みは無い。

 …だが、どこかが物凄く痛い…

 蹴られるよりも、殴られるよりもきっと痛い。

 一体…どこが痛いんだ…?

『ほら、早く脱ぐんだ。』

 その大男に引っ張られながら連れてこられた部屋には、素っ裸の中年男性が一人、タバコをふかしていた。

 その部屋に僕は投げ入れられる。

『おいおい、皆川さーん。この娘大丈夫ぅ?』

『だ、大丈夫ですよ!えっと…しっかり言い聞かせますから。しょ、少々お待ちを…』

 そして再び大男に髪を引っ張られて、部屋の外に出された。

『おい五十鈴、父さんはお前の生活費のために、頑張ってるんだ…ほら、そうだろぉ?だからさ、五十鈴も頑張ってくれるな?』

 なんで僕……私は、こんな男の娘なんだろう…?

 私の世界は何でこんなにも…理不尽なんだろう…

 スルルっと着ていた制服をいつも通り脱ぎ、スカートも脱いで…そして最後に下着も脱いだ。

 ドアを開け、一人中年の男の元へと歩み寄る。

 真っ白な肌が晒され、少し寒い。

 そんな敏感な身体を中年の男はそのたばこ臭さを漂わせながら、あちこち舐めながら触ってくる。

 目の前にはモノクロの世界。

 皆川五十鈴…悲劇のヒロイン…いや、決められた不幸の道を一人歩く、アマゾネス。

 強いと、私は屈強なのだと、勘違いしていた。

 自分の目の前の世界が普遍的なものなのだと、ただその普遍的なものに立ち向かってるだけなのだと、変な錯覚を覚えてしまった。



「っ…」

 また…あの夢を僕は見ていたのか?

 最近は伊坂くんが隣で寝てくれてたから久しぶりだったな…

 安堵のない状況で眠ると、僕は過去の夢を見てしまう。

 それは決して良いものではないが、かといって忘れてはならない過去だ。

「傷は…覚えてなければ傷で無くなるのだから。」

「へぇ、五十鈴クン、良いこと言うねぇ。」

「⁈」

 黒髪と猫耳…僕の隣に座っていたのは第3教室副教室長ラック・フィルトスだった。

 黒い線が入った白と黒のロング丈のTシャツに黒スキニー、足のスマートさが際立っている。

「ラックさん…」

「いやー、偶々ここに来たら五十鈴クンがお昼寝中だったんで寝顔を拝みにって思ったんだけど…中々良い夢みてたりしたのかな?」

 やっぱり聞かれてたのかぁー!

 恥ずかしさのあまり、赤面してしまう。

「ち、ちちっ違くて!ぼ、僕は至って健全な男子学生ですし!」

「分かってるって、俺もよくあるし、でも俺は絶対しないんだぜ、夢せ」

「あーあー言わないでください!僕だってしてませんから!」

「ふーーん。まぁ、そうだよな。五十鈴クンは強い男だもんな。」

 ラックは耳をピクピクさせながら言った。

 強い…

「なぁ五十鈴クンよぉ。伊坂と何かあったのか?」

「…!」

「さっき伊坂の野郎に会ってさ、五十鈴くん見てないかーって、聞かれたんだけどよ。」

「…」

 伊坂くんに心配させちゃったかな。

「喧嘩かなんか知んないけど、仲直りは早めにしとくべきだと思うぜ。」

 変に飛び出して行ったから心配かけてるだけだと思う…でも、喧嘩じゃないにしろ、ちょっと会いにくい。

「僕は…」

 ラックを見た時だった。

 ラックの背後に、大きな槍先が向けられている。

「っあの、ラックさん。」

「うん…俺も薄々気づいてる。なぁ、教室長、何のつもりだー?」

 教室長…⁈まさか、槍持ってるこの人が噂の第3教室教室長…

「ふふふっ、待ち合わせ場所自分で決めといて見せつけてくれるじゃなーい?」

 返り血の赤髪ツインテさんんんっ…⁉︎

「別に見せつけて無い!それにこっちの子は」

「ラックくんは黙っててくれるかしら?そこの君、名前は?」

 突然その蔑むかの様な眼差しが僕に向けられた。

「ひぇっ?ぼ、ぼぼ僕は皆川五十鈴っていいま」

「へぇ、ラックくんはぁ…ボクっ娘が好みだったのね、分かったわ。」

「いや、だから人の話聞けっての!こいつは男だから」

「…ごほんっ、訂正するわつまりラックくんは男の娘好きだったのね。だから私のこと見てくれないのねよく分かりました!」

「せめて句読点くらい付けて話したらどうなんだ…」

 返り血の赤髪ツインテは中々面倒な人なのだと…思った。



「おいおい機嫌なおしてくれよ。…っはぁ、今日も教室長の私服は可愛いなぁー」

 お世辞下手すぎっ⁈

「お世辞下手なのっ⁈」

 見事にツッコミが被った。

 まぁ、お世辞じゃ無くてもこの人…綺麗だなぁ。

 気取らないカジュアルなファッションに、スリムな体質がとても噛み合っている。

「…で、君はズバリ、ラックくんの何なの?」

 またもや突然、五十鈴に振ってくる。

「…はい?いや、別にただの友達なんですけど」

「出ました~それ何回目?ねぇラックくん、何回目?」

「…5回目、だけど今回は違う!本当に友達だし、男だし!」

 5回目なんだ…

「…まぁ、いいわ。」

 天音は五十鈴を見た。

「どうやら本当に何も無いようだし。」

 最初からそう言ってるのに。

 相当ラックさんに想いを寄せてる人なんだなぁ。

 その恋の重さを感じながら、五十鈴は二人の会話を傍観していた。

 きっと二人は、本当はとても仲が良いのだろう。

 そうでもなきゃ、相手の内情に深くまで付け込もうとはしない。

 僕は…自分のことを話してもなければ、伊坂くんのことも聞けてない…

「なぁ、五十鈴クンも来るか?」

 ラックは気を利かせたのか、五十鈴も誘った。

 五十鈴はチラッと天音を見た。

 まぁ、だいたい察しはついた。

「ぼ、僕は遠慮しておくよ、二人の邪魔しても悪いし。」

「…そうか?じゃあ、俺たちは行くよ。あと…伊坂によろしく言っといてくれ。」

 嵐が去って行った。

 そしてまた一人になってしまった。




 湖に浮かぶ白鳥のようなモンスターをぼんやり眺めていた。

 野鳥観察のつもりだったが、そんな気分にもなれなかった。

 もう二度と交わることはないと思っていた姉からの突然の交信。

 それも僕に直接では無く、伊坂くんの元に…

 一体何が起ころうとしているのだろうか…

 そう、五十鈴はこの時からある程度は予期していたのだ…台風の前触れを。

「ちょっと歩こうかな。」

 気分転換…とはいかないものの、身体が止まっていると、何もかもが止まっているような気がしてならなかったので、近くの街まで行ってみることにした。



 街は、とても明るかった。特に市場はとても盛り上がっていた。

「新鮮な薬草ありますよー!」

 新鮮な薬草って何だろう…。

 色んな店が建ち並ぶ中、一つの店に人だかりが出来ていた。

 何をやってるのかな…?って

「おいご主人!本当に沢庵は無いのか⁉︎」

「だから、そう言った野菜は仕入れてないと」

「野菜だが、野菜ではない!沢庵だぁっ!」

 目を疑った。

 いや、間違えないこの迷惑客、ラルス・ロッケレイト最高司令官だ。

 この前のガイダンスの時とは打って変わってクールさの欠片もない、ラルス。

「なぁにあの人?」

「あーあの人確か、討伐集団のリーダーとか言ってなかったか?」

 不味い…これは完全に街からのイメージダウンに繋がるっ!

 ってか、ラルス最高司令官自身がこの前のガイダンスで…

『この学園の下のアルベヘイムの街からの材料確保は勿論、情報の共有など、連携が、これから重視される。』

 とか言ってたのにこの人、なんて事を!

 五十鈴は人混みをかき分けて、一番前に来ると、ラルスを呼びかけた。

「ら、ラルス最高司令官。」

「んぁ?…君は?」

「第35教室の皆川って言います。沢庵なら寮で用意しますから辞めてください!」

「……」

 ラルスは呆然としていた。

「あ、あの。ラルス最高司令官?」

「ご、こほんっ。分かった、君の言う通り、今日の所はこれくらいにしておかねば他者の迷惑になるからな。さぁ、皆川くん、君の部屋に案内したまえそして、沢庵を喰わせろ。」

「お、、仰せのままに。」

 そうして二人は一旦その場から離れた。

「あ、あの最高司令官。」

「…どうやら、君には情けない姿を見せてしまったようだ。」

 …まぁ、でしょうね。

「私は、えっと何だ?その…調査をしていたのだ、沢庵という病み付きになる食べ物が売っていないかどうか。」

「調査…。」

「いや、あれ食ったら誰でも働きたく無くなるでしょ絶対!仕事とか全く手がつかなく……また、情けない姿を見せてしまったようだ。」

 …あぁなんだ、この人の素はこんな感じなのか。

 クールキャラはあくまで上に立つ上での面だったって訳か。

「じゃ、じゃあとりあえず、寮に行きましょうか。」

「うむ。」

 なんか大変なことになってきた。

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