やる気が出る3つの DADA

Jack Seisex

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赤い泉⇔子供たちの地下街⇔夢見る羊の夢

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「ジュニア、ついてこいよ」
 兄貴が歩き出した。
 ホログラムの兄貴には、もう影が無かった。
「兄貴、すっかり影が薄いなぁ」倉橋が笑う。
 極力、冗談めかしたつもりだったが、変わり果てた兄貴の姿に胸が傷んだ。
 涙は出なかったが、『悲しい』という感情は、まだ消えて無かった。
「……俺は」倉橋が呟く。
「俺は?」
「まだ、完全に機械になったわけじゃないぞっ」倉橋が叫んだ。
 倉橋は、土俵に投げ捨てられたままのフンドシを拾うと、反対側の升席に向かって投げた。
(?)
 フンドシは、恐ろしい勢いで飛んでいき、天井にぶつかって、真っ二つに裂けた。
(マジかよ)
 舞い散るフンドシの残骸を眺めながら、倉橋はため息をついた。
「ははははは。アンドロイドの腕力を軽んじちゃ駄目だよ」
 兄貴の笑い声が響く。
 兄貴は、もう会場の外に出たようだ。

 廊下に出ると、兄貴の姿を探した。見つからない。
 倉橋は、ドアが空いていたエレベーターに駆け込んだ。
 廊下を走った時、息が白くて驚いた。手を翳すと、一枚の雪がふわりと載った。ここは、外だろうか?
 エレベーターのドアが閉まる。
(停電か)
 エレベーターの中は、真っ暗だった。
 すぐに、エレベーターは下降を始めた。かなりのスピードだ。倉橋を乗せた四角い箱が、真っ暗闇のまま落ちていく。
「ヤバイ、ぶつかる!」
 倉橋が叫んだ。
 倉橋は目を瞑った。
「ガガガガ」
 一瞬、暗闇が、真っ赤に燃える幻覚を見た気がした。
 だが、予想したほどの衝撃は無かった。その代わり、倉橋は気を失った。まるで永遠の眠りについたかのようだった。

 ――次に気が付いた時には、どこかの部屋の中だった。まだ、電気はついていない。
 倉橋は寝転がったまま、隣に兄貴の存在を感じていた。
「兄貴」
「目を覚ましたか、ジュニア」
「さっきのエレベーターは?」
 倉橋が聞く。
 どうやら、兄貴もあのエレベーターに乗っていたようだ。
「雪像(夢見る羊の夢)の胎内だよ」
「胎内?」
「うん。札幌のもう一つの地下街に繋がっているエレベーターの中ってこと」
「つまり?」 
「つまり、ここはDADAの王国だよ」 
 兄貴の声が響いた。
 同時に、部屋の明かりがついた。
(こ、こ、これは)
 倉橋は、あまりのことに声が出なかった。
 そこは、学校の男子トイレだった。雰囲気からいって、小学校のようだ。
 赤く塗られた小便器が逆さまに、数十個、置いてあった。
「何だ、あの便器っ」
 倉橋が指差した。
「シッ」
 兄貴が両手を使って、倉橋の口封じをした。どうやら(黙っていろ)ということらしい。
 兄貴の姿は、やたらと滑稽だった。
 兄貴は、完全に小学校の2、3年生に戻ってしまっていた。
「DADAの王国は、子供しか入場できないんだ」
 兄貴が言った。
 倉橋は、自分の姿を確認した。確かに、子供の姿に戻っていた。
 兄貴と同じ位の年代である。

「で、さっき口封じをした理由は?」
 倉橋が聞く。
「ジュニア。アレは、唯の小便器では無い…マルセル・デュシャンの代表作(泉)の幻の続編(赤い泉)シリーズだ。あの作品について、下手なことをいうと、この国では重罪に処される」
 兄貴は、囁くように言った。
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