上 下
30 / 34
第二章 乙女ゲームの舞台、それはルミワ魔法学園!!

6

しおりを挟む
 レイン様はこのまま離してくれなさそうなので、このまま話を続けることにする。け、けしてレイン様にずっと抱きしめててほしいからとか、そんなやましい思いじゃないよ!? 本当に、本当にレイン様が離してくれないから、仕方な~く・・・・・・いや、正直に言おう。私はできるだけこの状態を引き延ばしたいだけである。
 う、うん。まあ、あれだよ。大好きな人に抱きしめられたらうれしくない? 私の場合は前世からだよ、前世!! いや、乙女ゲームレインと今ここにいるレイン様は全然別人だけどさ・・・・・・。そういえば、レイン様、背が伸びたな~。出会ったときはもう少し低かったと思うんだけど・・・・・・今は160センチくらい? 私が150センチだからな~。目線が同じくらいだったんだけど、今は私が少し上を向かなくちゃいけないんだよね。
「レイン様、学科申請に行こうか!!」
「申請?」
 私はぐるりと回転しレイン様に背中を向け、アイテムボックスから申請書類を取り出した。
「これだよ、これこれ!!」
「ああ、さっき入り口でもらった・・・・・・」
「そう!」
 レイン様は、グッと私を引き寄せて書類を覗き込むように見た。
「うん。この書類に必要事項を記入して、入りたい学科の科長さんに提出するの」
「ふ~ん、なるほど。ありがとう、エリシア」
「い、いえいえ」
 ・・・・・・と、吐息が! 耳に!! うわぁぁ、これは全然考えてなかった! な、何だろう。正面から抱きしめられるのとは、また違った感じがする・・・・・・。
「じゃあ、行こうか。錬金術科」
「うん!」
 レイン様は私を離して、私と手をつなぎ、錬金術科のあるほうへ向かう。え、待って・・・・・・またこの状態で歩くの!?
「レイン様!?」
「どうしたの?」
「手、手!!」
「うん? 嫌じゃないんでしょ?」
「そうだけど! 人が見てて!!」
「大丈夫大丈夫」
「大丈夫じゃないよ~!!」
 さっきみたいにたくさんの人に見られるってことでしょ!! 私が恥ずか死するわ!! それに、それに!!
「このままだと、レイン様が私の婚約者だって、誤解されちゃうよ!?」
 レイン様は私の言葉に反応したけど、足は止めずに人がいるほうへと向かう。
「別にいいよ」
「え?」
 今、なんと?
「僕がエリシアの婚約者だって勘違いされても、それで何か変わるわけではないし・・・・・・」
「いやいやいや、このままだと、レイン様に婚約者はできないし、結婚もできなくなっちゃうよ!?」
 自分で言っといてなんだけど、そうなんだよねぇ。このまま私と一緒にいたら、マジでレイン様に奥さんができない。私はレイン様のことが好きだし、私の家族は私の恋を成就させようとして外堀を埋めていたけど・・・・・・私はレイン様が幸せになってくれたらそれでいいし・・・・・・。
「僕、婚約の話は全部断ってるよ?」
 ・・・・・・え? 婚約の話は・・・・・・断ったぁーーーー!?
「なんで・・・・・・」
「僕、そんなに人とかかわるの好きじゃないし、今みたいに生活できなくなるし・・・・・・なにより、僕に婚約者ができたら、エリシアと一緒に入れないでしょ?」
「っ!?」
 っっ・・・・・・レイン様、半端ないです!! キュンって、キュンってした!! ときめいちゃったじゃないですか!! 惚れなおしちゃったじゃないですか!! 
「あ~、もう! わかったわ。なら私も腹をくくる!! だから、レイン様!!」
「なあに?」
 くっ!! その小首をかしげるポーズ、いつ見てもかわいい!! じゃなくて!!
「変な噂が出まわったら・・・・・・ちゃんと、責任取ってくださいね?」
「ん・・・・・・わかってるよ。エリシアも、その言葉、忘れないでね?」
「忘れないよ!!」
 むう、レイン様は、私のことを何だと思っているんだか・・・・・・。私がレイン様の手をぎゅっと握っった時、レイン様はふと足を止めて振り返った。
「レイン様?」
「いや、何でもないよ・・・・・・行こうか」
「はい!!」

 私たちは手をつないで、錬金術科へと向かうのだった。





++++++++++



 時間は少しさかのぼる。
 エリシアたちのいる庭を覗きやすい、高めの建物の室内に、2つの人影があった。

「あらあら。少し見ない間に、ずいぶんかわいい顔をするようになちゃったわねぇ。恋する乙女の表情だわ。相手の方は・・・・・・まあまあ、シアちゃんが好きそうなお顔の子ね。ずいぶんとかわいらしい顔立ちの・・・・・・」
「見るべきなのはそこじゃない」
「あらあら、うふふ。そんなにせかさないでほしいわぁ。シアちゃんのあんな顔、見るのは初めてなんだから・・・・・・もう少し、堪能させなさいよぅ~」
「確かにそうだが・・・・・・お前は心配じゃないのか、メリア」
 少年は自身の隣に立つ少女を見た。艶やかな黒髪に、長いまつ毛に縁どられた少したれ目がちなワインレッドの瞳。白磁の肌に血のように赤い唇。成長期であるはずなのに見る者の目を奪うような、豊かな体つきと美しい顔立ち。まだ少女であるのに大人の色気を漂わせている。
「あら、私が心配していないように見えて?・・・・・・メルト」
 メリアと呼ばれた少女は、隣に立つ少年を見た。艶やかな黒髪に、長いまつ毛に縁どられた少し釣り目勝ちのワインレッドの瞳。白磁の肌に血のように赤い唇。成長期であるはずなのに見る者の目を奪うような、整った体つきと美しい顔立ち。こちらも、まだ少年であるはずなのに大人の色気を漂わせている。そして・・・・・・少年と少女はまとう色だけでなく、その顔立ちも、とても似ていた。
「心配に決まっているでしょう? 私の知っている限り、あれがシアちゃんの初恋よぉ~」
 メリアはそう言って、再び双眼鏡を目に当てた。それを見てメルトも双眼鏡を手に取る。
「『変な噂が出まわったら・・・・・・ちゃんと、責任取ってくださいね?』、ですって! ああ、やっぱり。シアちゃんはかわいいわねぇ~。そこで、『じゃあ、私と婚約してください!』って言わないところがシアちゃんらしいわ~」
「それがシアさんだろ? メリアとは違うんだ・・・・・・というか、読唇術を使って会話を探るのはやめろ。それは本来の使い道ではない」
「でも~・・・・・・メルトだって使ってるじゃなぁい?」
「・・・・・・レイン・クライシス。俺たちと同年代。国から正式に認められた賢者。今までは学園に通っていなかった。森に引きこもっているって聞いていたが・・・・・・出てきたのは、おそらくシアさんがきっかけだ」
「話をそらしたわねぇ~? まあいいわ。彼、レイン君っていうのねぇ。見た感じ、シアちゃんのことが好きみたいに見えるけどぉ~?」
「たぶん、両片思いってやつだな」
「あらあら、なんというか・・・・・・ふふ、これからが楽しみねえ」
「そうだな・・・・・・ん? あいつ、いきなり立ち止まってどうし、ッッ!?」
 突然、二人の背筋が冷えた。双眼鏡越しに、レインがこちらを見ていた。その瞳は先ほどまでエリシアを見ていた瞳とは全く違う、禍々しい赤色だった。
 ヒュッと、二人は息をのんだ。しばらくするとその瞳はそらされ、元の穏やかな色に戻りエリシアを見ていた。
 二人はその場に腰を落とし、はっと息をついた。
「何よ、あいつ」
「俺たちのこと、間違いなく気づいていた・・・・・・」
「そうね。あんなにばっちり目が合うなんて、思わなかったわぁ~」
「シアちゃんは・・・・・・」
「シアさんは・・・・・・」
「「厄介なのに恋したわね(な)」」

 二人の言葉は、二人以外に聞かれることなく、消えていった。

しおりを挟む

処理中です...