オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

【第7話】──第三炉「精神の試練」──折れぬ心、叩けぬ時を越えて

王都鍛冶ギルド、第三の審査会場は、まるで異質な場所だった。

案内された部屋は、音のない密閉空間。壁も床も天井も黒い石で覆われ、炉も作業台もどこか“歪んで”見える。

「第三炉。ここは“静寂の工房”と呼ばれる場所だ」

試験監督の男が、仮面越しに口を開く。

「この試練で問うのは、お前の精神の強度――
　音も熱も魔力も通じない空間で、“己の信じた作業”を貫けるかどうか」

隼人の前に差し出されたのは、一本の折れた剣。

刃は半分に裂け、柄の部分も歪み、鞘は焦げ付いていた。

「この剣を“修復”せよ。ただし、この部屋には“炉の火”が存在しない。音も魔力も反応しない。
　頼れるのは、自分の手と、記憶と、感覚のみだ」

「……まるで、“見えない工房”かよ」

まさに精神試験。その言葉通り、五感が封じられる“異空間”だった。


【試験開始】

隼人は、沈黙の空間に立ち尽くす。

（……熱を感じない。ハンマーの音も、打撃の反響もない。いつもの“リズム”がつかめない）

音で仕上がりを判断していた彼にとって、それは致命的だった。

（こういう時……昔の俺だったら、パニくってただろうな）

拳を見つめる。

（でも、違う。オリンピックの時もそうだった。音がないからこそ、見えたものがあった）

彼は、折れた剣を手に取り、かすかな振動を指で探る。

（この剣……戦った者の“震え”が残ってる。信念も、恐怖も、全部ここにある）

炉の温度は“記憶”で再現する。
火が見えなくても、指先の湿度と鉄の変化で判断する。

一打ごとに、心で音を感じる。

一削りごとに、素材の流れを“空気の抵抗”で読む。

目を閉じて、ただひたすらに――“打つ”。

（俺は……鍛冶屋だ。音も火もない？ だからなんだよ）

（俺自身が、炉であり、槌であり、職人そのものなんだ）


時間終了の鐘が鳴る――はずだったが、音はない。
静寂の中、審査官が近づく。

彼の目が、一振りの剣に止まる。

折れていた剣は、見事に“再生”されていた。

だがそれは単なる修復ではない。

再鍛成された刃には、幾何学的な魔紋が走り、
新たな“跳躍魔法陣”が内蔵されていた。

「これは……再現ではなく、“進化”だ」

【修復武器：跳躍魔剣・リフォルジュ】
【効果：使用者の“戦い方”を感知し、刃の重心を自動調整】
【技能開花：「無の中に火を見る者」】

仮面の審査官が、そっと面を外した。

「……認めよう。お前は、職人としての“軸”を持っている」

その目には、かすかな笑みと――

「かつて、私が“折れた時”に欲しかったものが、お前の中にある」

そう言って、第三炉通過が告げられた。