オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

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【第3章:王都編】第1話「王都からの使者」

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朝の陽射しが鍛冶屋《プロメテア》の屋根瓦を照らし、店内の炉の赤い光と溶け合っていた。
隼人は鋳型に溶鉄を流し込みながら、耳元の汗を袖でぬぐう。炉の熱も、金属の叫びも、すべてが彼にとって心地よい“日常”となっていた。

「はい、できたぞ、クロード。あとは柄の仕上げだけだ」

「了解。こいつは……王都の近衛団からの依頼のやつだな」

受け取った剣の重量を確かめながら、クロードが唸る。

「剣そのものは軽いのに、芯がぶれねえ。まさに“精鋼の意志”って感じだ」

「魂を込めたからな。持ち主が命をかけて振るうなら、それに応える剣でなきゃ、意味がない」

「ま、あいつらの魂がこもってりゃ、だけどな」

クロードの皮肉に、隼人は軽く笑って肩をすくめた。

そんな穏やかな会話の中、表の扉が重く開いた。

カラン――と鳴る来客用の鈴が、どこか冷たく響く。

現れたのは、銀の軍服を纏い、鋭い目をした青年だった。
鍛冶屋の熱気とは対照的な、氷のような空気を纏っている。

「ハヤト=ミカヅチ殿。貴殿に、王都より通達がある」

声に感情はなかったが、ひとつひとつの言葉が硬質だった。金属を刃でなぞるような音。

「……で、お前は誰だ?」

クロードが眉をひそめる。隼人は炉の火を落としながら、男の目を見た。

「ディラン=アルヴェイン。王国直属の監査騎士にして、鍛冶技術管理局執行官。以後、お見知りおきを」

彼は懐から羊皮紙を取り出した。王国の紋章が押されたそれには、はっきりとこう記されていた。

王国鍛冶局より通達
ハヤト=ミカヅチ殿を、王都直属の鍛冶師として迎え入れたい。
本人の意志に関わらず、武器製造および技術資料の一部は“王国財産”として登録される。

「……つまり、“黙って国に従え”ってことか?」

隼人の声は落ち着いていたが、その奥にある火種は、炉よりも熱かった。

「王国は、あなたの技術を“個人の資産”として扱えない立場にあります。国家の安全と安定のため、貴殿の武器は必要です」

「必要ってのは、誰にとってだ? 俺じゃねえな」

「正しく管理されなければ、武器は災厄になります。貴殿は大会でそれを示した。ゆえに……制御されるべきだと判断されました」

クロードが堪らず机を叩いた。

「なんだそりゃ、脅しか? おい、ハヤト、こいつら本気で――」

「いいから」

隼人は静かに首を振った。

「俺の答えは決まってる」

彼はまっすぐにディランの目を見据える。

「俺は“鍛冶師”だ。魂を削って刃を打つのが、俺の仕事だ。
魂のこもった武器を“国の財産”だなんて言われたら、俺の魂まで奪われる気分になる」

沈黙。
店の中の空気が張りつめ、鍛冶場の余熱すら冷たく感じるほどだった。

「……理解できませんね。感情論で国に逆らうというのは、愚かです」

ディランは羊皮紙を机に置き、その場を去ろうとした。

「最後に忠告を。王都には、貴殿のような“不従順な鍛冶師”を好まぬ者も多い。
彼らは“説得”より“排除”を好む」

その言葉を残して、彼は去った。

扉が閉じると同時に、リリィが店の奥から駆けてきた。
彼女の顔は青ざめ、目には涙が浮かんでいた。

「隼人さん……! さっきの人、危ない匂いがします……! 王都の人たち、本気であなたを……“消しに来る”かもしれません……!」

隼人は、炉の中に視線を落としながら、彼女の頭にそっと手を置いた。

「心配すんな。俺は、戦うさ。武器で殺すためじゃない。守るために――」

「……鍛冶師としてな」

クロードがニヤリと笑って、傍らの剣を肩に担ぐ。

「そろそろ本気で戦わねえと、火花じゃすまねえかもな」

「だからこそ、俺たちの武器に、魂がいるんだ」

外はもう、昼を過ぎていた。だが、鍛冶屋の中には、決意の火が新たに灯っていた。
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