オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

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【第5章:聖都リュヴァーン編】第7話「魂と呪い――決戦、冥喰の双刃」

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聖都リュヴァーンの鍛冶大会――第五日目。

会場は朝からざわめいていた。昨日の対戦では、他国からの実力者が“呪われた武器”に敗れ、意識を失うという事件が起こったばかりだ。

だが、主催者は告知した。

「本日より、“新たな試練”が開始される。参加者たちには、それに相応しい“対価”が求められる」と。

その言葉の裏に潜む意図を、観客の誰一人として知ることはなかった。

だが、隼人は感じ取っていた。

――“誰かが、意図的に仕組んでいる”。
そしてその中心にあるのは、あの“冥喰の双刃”という、魂を喰らう呪いの武器。

 

 

「これが……決戦か」

 

試合前の控室。ヴァルトは、静かに立っていた。彼の前には、隼人が丹精込めて仕上げた新たな武器が横たわっている。

二つの環――魂導双環(こんどうそうかん)。古代遺跡に伝わる技術をベースに、魂の共鳴を通じて一体化する仕組みを備えた試作品だった。

 

「すごいな……握っただけで、手が熱い。まるで、こいつが“生きてる”みたいだ」

 

「そいつはお前の“魂”に反応している。魂で打ち、魂で制御する。それが“魂導武具”だ」

隼人は頷きながら、ヴァルトの背中に言葉を投げる。

「だが気をつけろ。あっちは、お前の“魂”を喰らい尽くす武器を使ってくる。お前が立ち止まったら、即死する」

 

「……分かってる。だから、逃げねぇ」

 

ヴァルトは振り返らずに、ゆっくりと武器を背負った。

目には、決意の炎が灯っていた。かつて自分の未熟さを呪ったあの日。仲間を救えなかった悔しさ。全ての痛みを、今こそこの一撃に込める。

 

 

やがて、コロッセオのように造られた会場の中心――決戦の舞台に立つ。

地鳴りのような歓声の中、ヴァルトは静かに歩みを進める。対する相手は、“仮面の職人”ヴェルトが選出した謎の刺客だった。

漆黒の布を纏い、両手に宿るのは、黒き双剣。
その刃は“息をしている”かのように、脈動し、血のような光を帯びていた。

 

「冥喰の双刃……魂を削り、形を変える“生きた呪い”」

 

「……面白い」

 

ヴァルトは構えた。左右に輪を展開し、構えを低くする。

そして開始の鐘が鳴った――

 

「――来い!」

 

刹那、双刃が疾駆する。速度は常軌を逸していた。鋭く、正確で、まるで人間ではない。

ヴァルトはギリギリのところで一閃を交わし、双環で受け止めた。

 

「クッ……重い、だけじゃない……!」

まるで、“意志”そのものが押し付けられているかのような威圧感。刃がぶつかるたびに、精神がえぐられる。

だが――彼は、押し返した。

「……だったら、こっちも“本気”を見せてやる!」

 

双環が回転する。風を切り、力を受け流し、弧を描いて斬り裂く。

冥喰の双刃が攻撃を仕掛ければ、それを打ち払い、回避し、反撃する。

だが、そのたびに、“刃”は姿を変えていく。

直剣から双鎌へ。鎌から槍へ。まるで“戦いの記憶”を吸い上げるかのように、武器が進化していく。

 

「これが……冥喰の力……!?」

 

観客席では、隼人が額を押さえていた。

「……まずいな。あの武器、ヴァルトと戦うことで進化してやがる。今のままじゃ、“魂”ごと喰われる」

 

その瞬間――

 

ヴァルトの肩を、刃がかすめた。血が飛び、観客がどよめく。

だが、彼は下がらなかった。傷を負いながらも、踏み出す。

「お前が、“魂を喰う武器”なら……俺は、“魂で打たれた武器”だ!」

 

双環が光を帯びる。

隼人が込めた“魂導の印”が発動し、ヴァルトと武器の“意志”が完全に一体化する。

二つの輪が蒼白い光を描きながら回転し、一直線に敵へと放たれた。

 

「魂導・裂環斬ッ!!」

 

凄まじい衝撃が走る。

冥喰の双刃が初めて“怯んだ”。

まるで、喰らおうとした魂の熱さに、焼かれたかのように。

そして――武器を握っていた敵の手から、黒き双刃が滑り落ちる。

観客が静まり返る中、冥喰の双刃は、ついにその動きを止めた。

 

 

ヴァルトは、肩で息をしながら、最後に呟いた。

「……これが、俺の“鍛冶”だ」

 

 

◇ ◇ ◇

 

戦いの後。控室で隼人が彼の傷を手当てしながら、ふと聞いた。

「……お前、あの一撃で、何を想って打ったんだ?」

ヴァルトは、笑って答える。

「俺が……“誰かのために打った”最初の武器。それを信じた。……それだけさ」

 

隼人は、少し黙ってから、小さく頷いた。

「――それなら、お前はもう、立派な“職人”だよ」

 

その言葉に、ヴァルトの目が、少しだけ熱を帯びた。

 

 

――魂と呪いの戦いは、終わった。
だが、リュヴァーンの闇は、まだ全てが明かされたわけではない。

次なる試練は、さらに深い闇からやってくる。

 
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