オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

N.PROJECT

文字の大きさ
43 / 117

【第5章:聖都リュヴァーン編】第8話「天の祝祭と影の宴――“選ばれし者”の証」

しおりを挟む
大会六日目。
今日のリュヴァーンは、朝から華やかな鐘の音に包まれていた。聖都の広場では、聖火の舞が行われ、市民たちは祝祭を楽しみ、神官たちは神に祈りを捧げていた。

だが、その賑やかさの裏で――
密かに集められた者たちがいた。

「“選ばれし者”にのみ許される、裏儀式。か――」

 

リュヴァーンの奥、かつて大聖堂の地下に封じられた“灰の礼拝堂”。
そこは、王族と聖騎士団にしか知らされていない禁忌の領域。

隼人とヴァルトは、公式の命令によってそこへ招かれていた。

「ヴァルト=ガルダ。第五日目の試練を魂で制し、“冥喰の双刃”の暴走を止めた者――その証として、“選定者の鍵”を授ける」

そう宣言したのは、白銀のローブを纏う女司祭・セリナ。
彼女の背後には、神殿騎士団の数人が控えていたが、その目は妙に冷ややかだった。

 

ヴァルトが受け取ったのは、黒曜石に近い色合いの金属片。
中央には「刻印」が浮かび、魂に直接響くような“ざわめき”を放っていた。

 

「……これ、なんだ?」

 

「“灰の刻印”です。これを持つ者のみが、王都の地下にある“試練の間”に入る資格を得ます。そこに辿り着ける者は、ただ一人――神々の武を継ぐ、“真の継承者”のみです」

セリナはそう言いながらも、目を伏せた。

「だがご安心を。この試練を乗り越えた者は、公式に“聖都の守護者”として迎えられます。あなたのような方にこそ、ふさわしい」

 

――その瞬間、隼人は違和感を覚えた。

(この流れ、どこかで……)

灰の刻印、魂に響く呪印、そして“冥喰の双刃”の異常な力――
全ては、ある“体系”の上に成り立っていた。

 

(あれは……“灰の楽園”の、術式構造と同じ……!?)

かつて、隼人が戦った“呪術師の集団”――灰の楽園。
その残党が使っていた禁呪の儀式に酷似している。
表向きは祝祭の賛美、だがその裏では、再び“呪い”が動いていた。

 

「……隼人、どうした?」

ヴァルトが問うと、隼人はわずかに眉をしかめ、声を低くした。

 

「気づいてないフリをしろ。こいつら、“何か”を隠してる。たぶん、あの儀式はただの選定じゃない」

 

ヴァルトは一瞬、訝しんだが――彼は隼人を信じていた。

(あいつの感覚は、外れねえ。だからこそ、今は動かずに情報を集める)

 

その夜。祭の最中、街では行方不明者の噂がささやかれ始めていた。

「素材調達に出た職人が戻ってこない」
「魔力枯渇で倒れたのに、治癒院に搬送されていない」

市民の口には出せぬ“異変”が、少しずつ広がっていた。

 

――そして深夜。

隼人はヴァルトと共に、密かに“灰の礼拝堂”を再訪した。だが、そこに神官たちの姿はなく、代わりにあったのは、地下へと続く隠し通路。

不穏な気配が漂っていた。

 

「……行くか、隼人」

 

「おう。真実を掘るなら、地下しかねえ」

 

二人は、祝祭の喧騒を背に、静かに暗闇の奥へと歩みを進めた――。

 

 

◇ ◇ ◇

 

地下迷宮は冷たく、空気は重く澱んでいた。壁には封呪文字が刻まれており、そこかしこから“意識”のようなものが這い寄ってくる。

ヴァルトはあの“冥喰の双刃”と再会したときと同じ、いや、それ以上の圧を感じていた。

 

「……この先に何がある?」

 

「たぶん、“本体”だ。あの呪われた武器の、始まりが」

 

その先――地底の大空洞。

そこには、巨大な石棺が安置されていた。
中には、人とも獣ともつかぬ異形の存在が眠っている。

だがそれは、まだ“目覚めていない”。

 

「ヴァルト、例の“刻印”、取り出してくれ」

「これか?」

隼人が指示すると同時に、空洞全体が鈍く脈打った。

石棺の上部が、わずかに動く。

「ッ――やっぱり、“鍵”だったか……!」

 

そのとき、上階から鈴の音が響いた。

現れたのは、白銀のローブを脱ぎ捨てたセリナ――
だがその姿はもう“神官”ではなかった。血のように赤い法衣。左目には灰の刻印。

 

「歓迎します、選ばれし者。あなたの魂、そしてその武器……我らの神に捧げましょう」

 

その背後に現れる、異形の使徒たち。

“灰の楽園”――ついに、その正体が姿を現した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...