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【第5章:聖都リュヴァーン編】第8話「天の祝祭と影の宴――“選ばれし者”の証」
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大会六日目。
今日のリュヴァーンは、朝から華やかな鐘の音に包まれていた。聖都の広場では、聖火の舞が行われ、市民たちは祝祭を楽しみ、神官たちは神に祈りを捧げていた。
だが、その賑やかさの裏で――
密かに集められた者たちがいた。
「“選ばれし者”にのみ許される、裏儀式。か――」
リュヴァーンの奥、かつて大聖堂の地下に封じられた“灰の礼拝堂”。
そこは、王族と聖騎士団にしか知らされていない禁忌の領域。
隼人とヴァルトは、公式の命令によってそこへ招かれていた。
「ヴァルト=ガルダ。第五日目の試練を魂で制し、“冥喰の双刃”の暴走を止めた者――その証として、“選定者の鍵”を授ける」
そう宣言したのは、白銀のローブを纏う女司祭・セリナ。
彼女の背後には、神殿騎士団の数人が控えていたが、その目は妙に冷ややかだった。
ヴァルトが受け取ったのは、黒曜石に近い色合いの金属片。
中央には「刻印」が浮かび、魂に直接響くような“ざわめき”を放っていた。
「……これ、なんだ?」
「“灰の刻印”です。これを持つ者のみが、王都の地下にある“試練の間”に入る資格を得ます。そこに辿り着ける者は、ただ一人――神々の武を継ぐ、“真の継承者”のみです」
セリナはそう言いながらも、目を伏せた。
「だがご安心を。この試練を乗り越えた者は、公式に“聖都の守護者”として迎えられます。あなたのような方にこそ、ふさわしい」
――その瞬間、隼人は違和感を覚えた。
(この流れ、どこかで……)
灰の刻印、魂に響く呪印、そして“冥喰の双刃”の異常な力――
全ては、ある“体系”の上に成り立っていた。
(あれは……“灰の楽園”の、術式構造と同じ……!?)
かつて、隼人が戦った“呪術師の集団”――灰の楽園。
その残党が使っていた禁呪の儀式に酷似している。
表向きは祝祭の賛美、だがその裏では、再び“呪い”が動いていた。
「……隼人、どうした?」
ヴァルトが問うと、隼人はわずかに眉をしかめ、声を低くした。
「気づいてないフリをしろ。こいつら、“何か”を隠してる。たぶん、あの儀式はただの選定じゃない」
ヴァルトは一瞬、訝しんだが――彼は隼人を信じていた。
(あいつの感覚は、外れねえ。だからこそ、今は動かずに情報を集める)
その夜。祭の最中、街では行方不明者の噂がささやかれ始めていた。
「素材調達に出た職人が戻ってこない」
「魔力枯渇で倒れたのに、治癒院に搬送されていない」
市民の口には出せぬ“異変”が、少しずつ広がっていた。
――そして深夜。
隼人はヴァルトと共に、密かに“灰の礼拝堂”を再訪した。だが、そこに神官たちの姿はなく、代わりにあったのは、地下へと続く隠し通路。
不穏な気配が漂っていた。
「……行くか、隼人」
「おう。真実を掘るなら、地下しかねえ」
二人は、祝祭の喧騒を背に、静かに暗闇の奥へと歩みを進めた――。
◇ ◇ ◇
地下迷宮は冷たく、空気は重く澱んでいた。壁には封呪文字が刻まれており、そこかしこから“意識”のようなものが這い寄ってくる。
ヴァルトはあの“冥喰の双刃”と再会したときと同じ、いや、それ以上の圧を感じていた。
「……この先に何がある?」
「たぶん、“本体”だ。あの呪われた武器の、始まりが」
その先――地底の大空洞。
そこには、巨大な石棺が安置されていた。
中には、人とも獣ともつかぬ異形の存在が眠っている。
だがそれは、まだ“目覚めていない”。
「ヴァルト、例の“刻印”、取り出してくれ」
「これか?」
隼人が指示すると同時に、空洞全体が鈍く脈打った。
石棺の上部が、わずかに動く。
「ッ――やっぱり、“鍵”だったか……!」
そのとき、上階から鈴の音が響いた。
現れたのは、白銀のローブを脱ぎ捨てたセリナ――
だがその姿はもう“神官”ではなかった。血のように赤い法衣。左目には灰の刻印。
「歓迎します、選ばれし者。あなたの魂、そしてその武器……我らの神に捧げましょう」
その背後に現れる、異形の使徒たち。
“灰の楽園”――ついに、その正体が姿を現した。
今日のリュヴァーンは、朝から華やかな鐘の音に包まれていた。聖都の広場では、聖火の舞が行われ、市民たちは祝祭を楽しみ、神官たちは神に祈りを捧げていた。
だが、その賑やかさの裏で――
密かに集められた者たちがいた。
「“選ばれし者”にのみ許される、裏儀式。か――」
リュヴァーンの奥、かつて大聖堂の地下に封じられた“灰の礼拝堂”。
そこは、王族と聖騎士団にしか知らされていない禁忌の領域。
隼人とヴァルトは、公式の命令によってそこへ招かれていた。
「ヴァルト=ガルダ。第五日目の試練を魂で制し、“冥喰の双刃”の暴走を止めた者――その証として、“選定者の鍵”を授ける」
そう宣言したのは、白銀のローブを纏う女司祭・セリナ。
彼女の背後には、神殿騎士団の数人が控えていたが、その目は妙に冷ややかだった。
ヴァルトが受け取ったのは、黒曜石に近い色合いの金属片。
中央には「刻印」が浮かび、魂に直接響くような“ざわめき”を放っていた。
「……これ、なんだ?」
「“灰の刻印”です。これを持つ者のみが、王都の地下にある“試練の間”に入る資格を得ます。そこに辿り着ける者は、ただ一人――神々の武を継ぐ、“真の継承者”のみです」
セリナはそう言いながらも、目を伏せた。
「だがご安心を。この試練を乗り越えた者は、公式に“聖都の守護者”として迎えられます。あなたのような方にこそ、ふさわしい」
――その瞬間、隼人は違和感を覚えた。
(この流れ、どこかで……)
灰の刻印、魂に響く呪印、そして“冥喰の双刃”の異常な力――
全ては、ある“体系”の上に成り立っていた。
(あれは……“灰の楽園”の、術式構造と同じ……!?)
かつて、隼人が戦った“呪術師の集団”――灰の楽園。
その残党が使っていた禁呪の儀式に酷似している。
表向きは祝祭の賛美、だがその裏では、再び“呪い”が動いていた。
「……隼人、どうした?」
ヴァルトが問うと、隼人はわずかに眉をしかめ、声を低くした。
「気づいてないフリをしろ。こいつら、“何か”を隠してる。たぶん、あの儀式はただの選定じゃない」
ヴァルトは一瞬、訝しんだが――彼は隼人を信じていた。
(あいつの感覚は、外れねえ。だからこそ、今は動かずに情報を集める)
その夜。祭の最中、街では行方不明者の噂がささやかれ始めていた。
「素材調達に出た職人が戻ってこない」
「魔力枯渇で倒れたのに、治癒院に搬送されていない」
市民の口には出せぬ“異変”が、少しずつ広がっていた。
――そして深夜。
隼人はヴァルトと共に、密かに“灰の礼拝堂”を再訪した。だが、そこに神官たちの姿はなく、代わりにあったのは、地下へと続く隠し通路。
不穏な気配が漂っていた。
「……行くか、隼人」
「おう。真実を掘るなら、地下しかねえ」
二人は、祝祭の喧騒を背に、静かに暗闇の奥へと歩みを進めた――。
◇ ◇ ◇
地下迷宮は冷たく、空気は重く澱んでいた。壁には封呪文字が刻まれており、そこかしこから“意識”のようなものが這い寄ってくる。
ヴァルトはあの“冥喰の双刃”と再会したときと同じ、いや、それ以上の圧を感じていた。
「……この先に何がある?」
「たぶん、“本体”だ。あの呪われた武器の、始まりが」
その先――地底の大空洞。
そこには、巨大な石棺が安置されていた。
中には、人とも獣ともつかぬ異形の存在が眠っている。
だがそれは、まだ“目覚めていない”。
「ヴァルト、例の“刻印”、取り出してくれ」
「これか?」
隼人が指示すると同時に、空洞全体が鈍く脈打った。
石棺の上部が、わずかに動く。
「ッ――やっぱり、“鍵”だったか……!」
そのとき、上階から鈴の音が響いた。
現れたのは、白銀のローブを脱ぎ捨てたセリナ――
だがその姿はもう“神官”ではなかった。血のように赤い法衣。左目には灰の刻印。
「歓迎します、選ばれし者。あなたの魂、そしてその武器……我らの神に捧げましょう」
その背後に現れる、異形の使徒たち。
“灰の楽園”――ついに、その正体が姿を現した。
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