オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

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【第5章:聖都リュヴァーン編】第9話「地底の胎動――灰の神と血の契約」

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薄暗い地下空洞に広がる重苦しい空気。
石棺の蓋がゆっくりと軋みを立てて動き始めた。隼人とヴァルトは互いに背中を預け合うように身構え、その瞬間を見つめていた。

「これが……“灰の神”の封印か……」

隼人の指先には黒曜石のように黒く光る“灰の刻印”がしっかりと握られていた。刻印が反応して、空洞の奥底から微かな呪術の波動が伝わってくる。

やがて、石棺の蓋は完全に開かれ、中から異様な気配を放つ存在がゆっくりと姿を現した。

その姿は人の形をしているが、肌は灰色に変色し、瞳は深紅に輝いていた。胸部には無数の刻印が浮かび、そこから黒煙のような霧がたゆたっている。

「灰獣――いや、これは灰の神そのもの……?」

ヴァルトが呟く間もなく、その異形は静かに声を放った。

「我が名はアシュリオス。灰の神として、かつてこの地を裁きし者。お前たちの覚悟を試すべく、血の契約を望む」

その声は地の底から響くように重く、隼人の全身を震わせた。けれど、彼の瞳は揺らがない。

「俺たちはお前の力を封じるために来た。契約なんていらない」

隼人は落ち着いて言い放つ。

「力を得ることよりも、失うものの方が多い。俺はもう、その痛みを知っているからな」

ヴァルトも力強く頷いた。

「お前の呪いを解き、灰の楽園の残党を完全に封じる」

その時、アシュリオスの胸部の刻印が閃き、黒煙が激しく渦巻き始めた。

「ならば――試練だ」

巨大な黒煙はたちまち形を変え、数体の灰獣となって二人を包囲した。

隼人は剣を抜き、ヴァルトは魔法陣を描く。

「ここからが本当の勝負だ」

灰獣たちの鋭い爪が空を切り、激しい攻防戦が始まる。

隼人はオリンピック金メダリストとして鍛え抜いた身体能力と戦術眼で動き、敵の攻撃をかわしながら的確に刃を振るった。灰獣の皮膚は硬く、普通の武器では傷が浅い。

「この素材……武器の材料として最高だ」

隼人は心の中で呟きながら、相手の隙を見つけて刃を深く突き刺す。

一方ヴァルトは魔力を込めた符術で灰獣たちの動きを封じ、時には炎の呪文で一体ずつ倒していく。

激戦の中で、隼人はかつてのオリンピックでの経験が甦った。
「集中、呼吸、そして瞬発力」――それらが今の戦いにも役立っていた。

戦いは長引いたが、ついに最後の灰獣を倒したとき、アシュリオスは静かに微笑んだ。

「お前たちの強さは認めよう……だが、この試練は終わらない。灰の楽園の真の黒幕は、まだ姿を現していない」

隼人は息を整えながら答えた。

「ならば、俺たちが探し出してやる。ここから先も、全力でな」

ヴァルトも力強く同意した。

「俺たちは、世界を守るためにここにいる」

その夜、二人は地下空洞を後にした。
街の灯りが遠くに揺れ、静かな祝祭の余韻が漂っていた。

隼人はふと呟く。

「最高の武器は、最高の素材と最高の覚悟から生まれる。俺はその両方を手に入れる」

ヴァルトは笑いながら応えた。

「さあ、次はどこに行く?」

 

彼らの戦いはまだ始まったばかりだった。

 
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