オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

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【第5章:聖都リュヴァーン編】 第19話「魂を込める時――覚醒の鍛冶」

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 聖都の片隅、かつて聖騎士団の工房として栄えた《白銀の炉(しろがねのろ)》に、今はもう火を灯す者はいなかった。

 だが今夜、その静寂を破り、ふたたび神鉄の炉に命が吹き込まれる。

 ヴァルトの紹介で特別に解放されたその場所に、隼人は慎重に三つの素材を並べる。

 《灰喰い》――魂を喰らい、災いを断つ呪鉄。
 《氷霊の涙》――凍てついた精霊の核、限界の冷たさを内包する蒼き結晶。
 そして――《聖樹の芯鉄》――命と記憶の宿る、世界の心臓とも呼ばれる聖なる金属。

「……これが揃っても、ただの素材だ。魂がなきゃ、剣にはならない」

 隼人は一人、鍛冶場の中央に立ち、かつて自分が死の間際まで鍛え上げた拳の感覚を思い出す。

 オリンピック金メダリストとして、人類の限界を越えた自負。
 だが今ここで求められているのは、“力”ではない。
 それを“どう使うか”――魂の在り方だ。

「ヴァルト。始めるぞ。もう手は抜かない」

「ああ。俺も準備はできている。炎の制御と冷却の魔術は任せろ」

 ヴァルトが詠唱を開始し、白銀の炉に神聖な火が灯る。
 燃え上がる紅蓮の魔焔は、ただの火ではない。聖属性と精霊術が組み合わされた“魂を焼き、鍛える”ための特別な術式だった。

 隼人はその前に立ち、布を脱ぎ、上半身をさらけ出す。筋肉は無駄なく引き締まり、拳には再び火傷のような痕が浮かび上がる。

 それは、かつて命を賭けて戦った“証”だった。

「いくぞ……!」

 隼人がまず、芯鉄を炉へと投入する。
 聖樹の芯鉄は、通常の火では溶けぬ。だが、魂を持って臨めば、金属は共鳴し、変化を見せる。

 じゅううう、と音が鳴った。

 芯鉄が、まるで鼓動のように赤く明滅を始める。

「共鳴してる……隼人、芯鉄がお前の魂を受け入れてるぞ!」

「次は……灰喰いだ!」

 黒き呪鉄を慎重に重ねると、赤と黒の火花が飛び散り、空気が裂ける。
 灰喰いは自らにふさわしき魂を選ぶ鉄。意思を持つ鉄だ。

 その暴走を抑え込むように、隼人は拳を炉の前に突き出す。

「俺が選んだ道だ。お前が俺を試すってんなら、魂ごと打ち込んでやる!!」

 掌から溢れ出す魔力が、熱と一つになる。
 灼熱の気流の中、金属同士が火花をあげて融合を始める。

 最後の素材――《氷霊の涙》が、慎重に投入された。

 蒼い光が炉の内部で炸裂し、一瞬で温度が極限まで下がる。
 蒸気と冷気とがぶつかり、天井にまで火花が飛んだ。

「温度差が……! 大丈夫か、隼人!」

「――まだだ、ここからが本番だ!」

 炎と氷。呪と祝福。命と記憶。

 全てがぶつかり、混ざり合い、一つの“鉄”に還ろうとしていた。

 そして――隼人はその炉の奥から、真紅と蒼銀に染まった未成の刀身を、静かに取り上げた。

「これが……俺が打つべき、“魂の剣”だ」

 最後の仕上げ。

 隼人は、深く息を吸い込み、炉の奥から引き抜いた《魂打ちの槌(たまうちのつち)》を手にした。

 それは聖都に伝わる秘具。魂を素材に宿すために存在する、神話級の鍛冶道具だった。

 ごおおおん――。

 一打。
 まるで世界が共鳴するような、重く、静かな音が響く。

 二打。
 鍛冶場の壁に刻まれた紋章が、淡く輝き始める。

 三打。
 剣の内部に宿る力が目覚め、微かに脈を打った。

 隼人の瞳に、炎の光が映る。

(もう、迷わない……これは、誰かを“守る”ための剣だ)

 そして十打目。

 刀身が赤く輝き、風が巻き上がり、炉が沈黙する。

 その手に握られていたのは――

 一振りの、奇跡の剣だった。

 刀身は赤と青、相反する色が流れるように混ざり合い、刃には微細な紋様が走っている。
 それはまるで、魂そのものが刻まれているようだった。

「……できたな。これは……」

「“誰かのために、戦う剣”だ」

 隼人はゆっくりと剣を掲げ、刃先を空へ向けた。

 次なる戦いに備え、彼の鍛えた魂が、新たなる《希望》として形になった。

 その瞬間――聖都リュヴァーンに、新たなる伝説が生まれた。
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