オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

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第6章:鋼竜と忘却の工房 第8話「リセルの過去――灰の詩と名もなき村」

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 風が鳴いていた。

 廃れた村の跡地に立つリセルの横顔は、どこか遠くを見るような目をしていた。
 隼人とミィナは、その静けさを破ることなく、ただ彼女の背を見守っていた。

 「……ここが、わたしの故郷。灰の詩《はいのうた》が生まれた場所」

 少女は振り返ることなくそう言った。
 足元には崩れた家の基礎。焼け落ちたままの井戸。
 村の名は、もう誰も覚えていない。
 地図からも、王国の記録からも消された“灰の村”。

 「十年前、この村は“願詩狩り”に遭って……」

 その言葉に、隼人は眉をひそめた。

 「願詩狩り……?」

 リセルは静かに頷く。

 「かつて、この国のある派閥が、“想いを宿す武器”を危険視した。
 人の心を力に変える武器が、争いを生むと恐れたの。
 だから、詩文具を所持していた者たちは――“願いを鍛えた者”たちは、処刑された」

 ミィナが小さく息を呑む。

 「そんなこと……!」

 「わたしの両親も、鍛冶師だった。
 想いを刻む詩文具《しぶんぐ》を、密かに打ち続けていた。
 ……でもある日、それが役人に見つかって、村ごと……灰にされた」

 リセルの指先が、瓦礫の隙間に伸びる。
 そこにあったのは、黒焦げになった小さな短剣。
 柄に掠れた文字が刻まれている――《いつか、笑って》。

 「これが……母が最後に鍛えた短剣。わたしだけが生き残った理由も、これを持っていたから」

 隼人はその刃を見つめ、静かに目を閉じた。
 形は粗く、鍛冶技術としては未完成。けれど、確かに宿っていた。

 ――生きろ。想いを、受け継げ。

 それは、刃に託された祈りだった。

 「それから、私は願いの言葉を集める旅に出た。
 消された武器たちの声を、ひとつでも多く、もう一度……この世界に伝えるために」

 彼女の声は震えていなかった。
 過去を語るその姿は、悲しみではなく、意志に満ちていた。

 「リセル」
 隼人は短剣を受け取り、火を入れる準備を始めた。

 「これを、もう一度鍛え直させてくれ。
 願いがこもった武器は、ちゃんと応えようとしてる。なら……俺たちが応えなきゃならない」

 ミィナが微笑んで頷く。

 「きっと、その刃はもう一度“言葉”を取り戻せるよ。私たちの手で」

 リセルの瞳が揺れる。だが、今度は涙ではない。

 「ありがとう……でも、ひとつだけ約束してほしい」

 「なんだ?」

 「わたしが“最後の言葉”を見つけるまで、絶対に途中で離れたり、諦めたりしないって」

 隼人はにやりと笑い、右拳を差し出した。

 「この拳が、諦め方を知らねぇ。覚えておけ、リセル。俺はな――“想い”だけで五輪を獲った男だ」

 拳を、リセルがそっと重ねる。

 ここに、新たな旅が始まった。
 “魂を宿す鍛冶師”と、“言葉を集める少女”。
 二つの願いが交わり、物語は次なる“詩文具”へと進んでいく。
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