オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

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第6章:鋼竜と忘却の工房 第9話「忘却の工房、起動――静かなる鉄の心臓」

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 廃墟と化したかつての工房は、まるで巨大な鉄の墓標のようだった。

 地中深くまで続く坑道、重たい鉄扉、苔と錆に包まれた制御盤。
 それらを一つひとつ、隼人たちは手で払い、火打ち金で灯りをともして進んでいく。

 「……ここの地下、何層にも分かれてる。まるで要塞だな」

 隼人が額の汗をぬぐいながら言うと、リセルがうなずいた。

 「この工房は、“願いを鍛える”ためだけに築かれた秘密の炉。
 帝国時代の遺構で、詩文具に関する膨大な技術と記録が眠っているはず。
 でも、稼働には……“鉄の心臓”が必要なの」

 「鉄の心臓?」

 ミィナが首をかしげると、リセルは一冊の古びた設計書を開いた。
 そこには複雑な構造図とともに、“生命炉”という文字が刻まれていた。

 「――願いを原動力に変換する中枢装置。
 鍛冶師の魂を核とする、詩文具工房の心臓部。
 失われた技術……でも、再現できれば、この工房は再び目を覚ます」

 隼人はその設計図をのぞきこみながら、にやりと笑う。

 「面白いじゃねえか。魂と願いで動くエンジンか。まるで心臓そのものだな」

 「でも、その“核”には――“魂喰い”の素材が必要なの」

 その名を聞いた瞬間、ミィナの顔がこわばった。

 「魂喰い……あの灰獣の素材? こないだようやく倒せたのに……」

 「だけど、それがなければ――この工房は動かない。
 そしてこの場所が、灰に消された願いを取り戻す唯一の鍵」

 沈黙が落ちる。

 だが、隼人の目には迷いはなかった。

 「なら、やるしかねぇな。鍛冶ってのは、結局、そういうことだろ。
 火を入れ、打ち、魂を込める。その繰り返しだ」

 リセルは目を見開き、微笑む。

 「……やっぱり、あなたたちを選んでよかった」

 その言葉と同時に、坑道の最深部の扉が軋みをあげて開いた。

 そこにあったのは――静かに横たわる、巨大な鉄の炉。
 冷え切ったその心臓に、火を戻す時が来た。

 「リセル、準備はいいか?」
 「ええ……始めましょう、“生命の鍛造”を」

 彼らは炉に火をくべ、灰獣の素材を慎重に配置する。
 その炎は、かつて失われた願いの残響に呼応するように、ゆらりと立ち上がった。

 隼人が金槌を握る。ミィナが精霊結晶を構える。
 リセルが両手を合わせ、詩文を口にした。

 「――生きよ。名を持たぬ願いのために」

 その瞬間、鉄の炉が低くうなった。
 まるで眠っていた龍が、夢の底で息を吹き返したように。

 詩文具工房《しぶんぐこうぼう》が、目覚めの時を迎える。
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