オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

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【第8章:炎の継承と暁の鍛造師】第1話「少女セリナと“ハヤトの弟子”」

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午前の陽が、霧の中から顔を覗かせる。
谷にある小さな工房の屋根に、ぱらぱらと雨が降り始めた。

その工房の裏庭で、少女は黙々と鉄槌を振っていた。

「……違う、まだ甘い。こんなんじゃ、マスターの刃には届かない……!」

セリナは、唇を噛んだ。

何度叩いても、鉄は素直に形を成してくれない。
握った柄は汗で滑り、腕はもう痺れていた。

「ハヤト様だったら……こんな時、どうしただろう」

記録に残された彼の鍛冶理論、彼の言葉、彼の“在り方”。
すべてを学び、受け継ごうとしても、どうしても届かない壁がある。

 

その時だった。工房の戸が軋んで開いた。

「……ここが、“英雄の工房”か。ずいぶんとひっそりしてるじゃないか」

見知らぬ少年が一人、軒先に立っていた。

赤みがかった短髪、鋭くも澄んだ瞳。背中には折れた剣を背負っている。

セリナは手を止め、警戒心を露わにした。

「……誰?」

「オレはユウリ。かつてのハヤトの弟子……だった者だ」

その言葉に、セリナの目が見開かれた。

「……ハヤト様に弟子なんて、いたなんて……聞いてない……!」

「そりゃそうだ。オレが弟子になったのは……死の直前、ほんの一週間だけだからな」

ユウリは苦笑した。

「だが、あの人の背中を一度見た者なら、わかるんだよ。
 “この人は、世界を変えられる”ってな。だから、オレも鍛冶師を目指した」

 

セリナは、黙って鉄槌を握りしめた。

「……だったら、帰って。ここは私の工房。マスターから、火を預かったのは私……!」

「オレも、お前を試しに来たわけじゃない。
 一緒に打たないか? “あの人”が残した鉄の意志を……二人で受け継ごう」

セリナの瞳に、揺らぎが生まれた。

目の前の少年が嘘を言っていないことは、彼女自身が一番わかっていた。
鍛冶師には、嘘がつけない。

鉄は、すべてを映す。

 

「……一度だけよ。一振りだけ。一緒に作って、あんたの腕を見てから決める」

「上等だ、炎の継承者」

ユウリが微笑んだ。

 

工房に、二人分の足音が響く。
新たな“刃”が、そこから生まれようとしていた。

 

――世界はまだ、終わってなどいない。
遺された炎は、次の物語を紡ごうとしている。
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