オリンピック選手金メダリストが転生後、最高の武器屋のマスターになった

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【第8章:炎の継承と暁の鍛造師】 第2話「二人の鍛造、始まりの一打」

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セリナが工房の炉に薪をくべると、くすぶっていた火が小さく唸りを上げて跳ねた。

「“白霧木”を使った炉は、最初に火を怒らせると後が楽なの。ハヤト様がそう言ってた」

ユウリは工房の隅で埃まみれの革エプロンを手に取った。サイズは少し小さかったが、着けると不思議と背筋が伸びる。

「……まるでこの場所が生きてるみたいだな」

「生きてるわよ。マスターの“残した意志”が、そこかしこにあるから」

セリナが金属の延べ棒を火の中に入れる。鉄ではない、それは――ハヤトの遺産でもある希少鉱“暁鋼(ぎょうこう)”。

霧の谷でわずかしか採れないそれは、鋼でありながら心を映す性質を持つ。未熟な者が打てば、脆く砕ける。強い想いがあれば、刃となる。

「ユウリ。あなたが鍛える意味って、何?」

不意に、セリナが問いかけた。

ユウリは火を見つめたまま、少し考えて答えた。

「……あの人が“この剣を託したい”って言ってくれたから、かな。
 ハヤトさんは、オレに折れた刃を渡して、言ったんだ。
 “もうお前の刃は、誰かを守るものになる”って」

セリナは目を細めた。

「……なら、あなたもきっと“打てる”。今の火なら、応えてくれるはず」

鉄が赤くなったのを確認すると、彼女は金床へと移す。

「一本だけよ。これを一緒に仕上げてみせて。そうすれば……あなたがここにいる理由、私に証明できる」

ユウリは頷いた。

「……鍛えるぞ。世界を変えた男の“魂の続きを”」

 

鉄槌が上がる。
その一打目は重く、鈍く、けれど確かなリズムで鳴った。

ガンッ。

セリナが続く。
その動きは小さく、だが繊細に熱を読む。

カンッ。

鉄が語り始める。火が歌い始める。二人の呼吸が一致した瞬間、鋼は確かに“目覚めた”。

「……きた、共鳴してる!」

セリナの額から汗が滴り落ちる。
暁鋼が赤から白に、白から青へと色を変え始めた。

「この色……魂の青炎(そうえん)!」

ユウリもまた気付く。

「ハヤトさんの剣と、同じ色……!」

金槌を重ねるごとに、鋼は意志を帯びてゆく。
迷いのない一打。願いのこもった一打。信頼の一打。

二人の異なる鼓動が、一本の刃へと形を変えた。

最後の一打が落ちるその瞬間――

カァン!

火花が青く舞い上がり、鋼は刃へと変貌した。

工房に静寂が戻る。

セリナが震える手でそれを持ち上げた。

「……見事よ。文句なし。これは、“継承”に値する刃だわ」

ユウリが微かに息をついた。

「……お前の言葉、重いな」

「当然よ。この工房は、マスターの“遺志”そのものなんだから」

ふと、炉の奥に飾られた一冊の書が目に入る。

『世界鍛造理論・最終稿』

そこには、未完の項目がいくつもあった。

――“願いを鍛える技術”
――“神鋼”の再現
――“忘却された大地で眠る竜骨の掘り起こし”

セリナはそのページを指さした。

「これからが本番よ。マスターがやり残した“世界の鍛造”を、私たちがやるの」

ユウリも頷いた。

「炎はまだ、消えてなんかいない。……なら、行こうぜ、セリナ」

「ええ、“二代目ハヤト”さん」

「それはやめろ」

 

少年と少女は笑った。
かつて伝説の鍛冶屋が残した“火”は今、二人の手で再び燃え上がる。

 

――そして世界はまた、打ち直される。
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