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【第8章:炎の継承と暁の鍛造師】第11話「封呪の刃、試練の扉」
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前線村を後にし、メルたちは東方の山岳地帯――《ヴェルドラの断層》へ向かっていた。
そこはかつて、古代王国が《封呪の工房》を築いたとされる禁域。数百年前の大戦で破壊され、今もなお封印術の残滓が漂う地。だが今、その封印に変化が起きているという報告が入った。
「“黒喰い”を目覚めさせたミゼラの目的が、この断層の封呪と関係してるって?」
メルが険しい表情で尋ねると、セリナは頷きながら羊皮紙を拡げる。
「うん。この地点――断層の裂け目の中心に、禁断の工房跡があるって記録されてる。問題は、その手前に“試練の扉”があるってこと」
「試練の扉?」
リリスが低く問いかけた。セリナは深く頷く。
「“封呪の刃”と呼ばれる武具を生み出した遺構。その最奥には、かつて世界を滅ぼしかけた《焔竜の心核》が保管されていたと言われてる。そしてそれを守る扉が、持ち主の心を試す仕掛けになっているの」
「つまり、通るには試されるってことか……」
メルは自らの剣――“想刃レイヴ”を見つめた。
あの日の出会い。鍛冶神の残響。師匠の手。母の言葉。すべてが、今の自分に繋がっている。けれど――
(私は、まだ“迷ってる”のかもしれない)
焔竜。黒喰い。仮面の女。そして、失われた願いの数々。自分が守りたいものは、まだ“形”になっていない。だが、それでも進まなければならない。
山腹に入り、霧が濃くなるにつれて、空気が重くなった。
ほどなくして、彼らはそれを見つけた。
断層の裂け目の最奥、灰色の岩に彫り込まれた巨大な門。
高さはゆうに十メートルを超え、中央には一振りの剣が浮かび上がるように刻まれている。
「……これが、《試練の扉》」
門の前に立った瞬間、空間が歪む。
風が止み、音が消え、代わりに――“声”が響いた。
「問う。汝は、何を以てその刃を振るうか」
「問う。汝は、何を護り、何を断ち切るか」
「問う。汝の願いは、誰のためにあるか」
メルの瞳が揺れる。剣が、震えていた。
(私は……)
幼き頃、母に手を引かれながら見た鍛冶場の炎。初めて握った木刀。剣を振るうたび、父の背中を思い出した。仲間と笑い合った瞬間、命を賭して守った約束、すべてがこの手にある。
「私は……この刃で、誰かの“願い”を守る。過去に失われた希望を、もう一度灯すために」
彼女が一歩踏み出した瞬間、剣紋が光を放ち、門がゆっくりと開いていく。
同時に、強烈な熱風が吹きつけ、三人の前に“炎の影”が現れた。
「く……っ!?」
それはかつて、焔竜の意思を受け継いだとされる“炎の番犬”――《ヴォルフ=イグニス》。灼熱の鎧をまとい、長く鋭い鉤爪と牙を持つ獣の姿だった。
「この番犬を倒さなければ、先へは進めない……!」
リリスが素早く双剣を抜き、セリナは後方から魔力の詠唱を始める。
だがメルは、剣を手にその獣をじっと見つめていた。
「……戦いたくない。でも、進まなきゃいけないなら」
彼女の中に、また“誰かの声”が響く。
(メル……願いを込めろ。お前の剣は、まだ完全ではない)
「行くよ!」
メルの叫びと同時に、“想刃レイヴ”が紅く輝き、彼女の足元から紅蓮の魔法陣が展開された。
それは剣に宿る“記憶の魔術”――かつて鍛冶神が遺した唯一の奥義。
「焔穿の型、《刃炎裂波》ッ!」
一閃。
灼熱の奔流がヴォルフの胸を裂き、紅い光の波が山腹を照らした。
断末魔を上げ、炎の番犬は消えた。
残された空間に、再び静寂が戻る。
三人は互いに頷き合い、ゆっくりと門の奥へと歩みを進めた。
その奥に、ミゼラの手が伸びようとしている“何か”があるのだと、確信して――
そこはかつて、古代王国が《封呪の工房》を築いたとされる禁域。数百年前の大戦で破壊され、今もなお封印術の残滓が漂う地。だが今、その封印に変化が起きているという報告が入った。
「“黒喰い”を目覚めさせたミゼラの目的が、この断層の封呪と関係してるって?」
メルが険しい表情で尋ねると、セリナは頷きながら羊皮紙を拡げる。
「うん。この地点――断層の裂け目の中心に、禁断の工房跡があるって記録されてる。問題は、その手前に“試練の扉”があるってこと」
「試練の扉?」
リリスが低く問いかけた。セリナは深く頷く。
「“封呪の刃”と呼ばれる武具を生み出した遺構。その最奥には、かつて世界を滅ぼしかけた《焔竜の心核》が保管されていたと言われてる。そしてそれを守る扉が、持ち主の心を試す仕掛けになっているの」
「つまり、通るには試されるってことか……」
メルは自らの剣――“想刃レイヴ”を見つめた。
あの日の出会い。鍛冶神の残響。師匠の手。母の言葉。すべてが、今の自分に繋がっている。けれど――
(私は、まだ“迷ってる”のかもしれない)
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山腹に入り、霧が濃くなるにつれて、空気が重くなった。
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高さはゆうに十メートルを超え、中央には一振りの剣が浮かび上がるように刻まれている。
「……これが、《試練の扉》」
門の前に立った瞬間、空間が歪む。
風が止み、音が消え、代わりに――“声”が響いた。
「問う。汝は、何を以てその刃を振るうか」
「問う。汝は、何を護り、何を断ち切るか」
「問う。汝の願いは、誰のためにあるか」
メルの瞳が揺れる。剣が、震えていた。
(私は……)
幼き頃、母に手を引かれながら見た鍛冶場の炎。初めて握った木刀。剣を振るうたび、父の背中を思い出した。仲間と笑い合った瞬間、命を賭して守った約束、すべてがこの手にある。
「私は……この刃で、誰かの“願い”を守る。過去に失われた希望を、もう一度灯すために」
彼女が一歩踏み出した瞬間、剣紋が光を放ち、門がゆっくりと開いていく。
同時に、強烈な熱風が吹きつけ、三人の前に“炎の影”が現れた。
「く……っ!?」
それはかつて、焔竜の意思を受け継いだとされる“炎の番犬”――《ヴォルフ=イグニス》。灼熱の鎧をまとい、長く鋭い鉤爪と牙を持つ獣の姿だった。
「この番犬を倒さなければ、先へは進めない……!」
リリスが素早く双剣を抜き、セリナは後方から魔力の詠唱を始める。
だがメルは、剣を手にその獣をじっと見つめていた。
「……戦いたくない。でも、進まなきゃいけないなら」
彼女の中に、また“誰かの声”が響く。
(メル……願いを込めろ。お前の剣は、まだ完全ではない)
「行くよ!」
メルの叫びと同時に、“想刃レイヴ”が紅く輝き、彼女の足元から紅蓮の魔法陣が展開された。
それは剣に宿る“記憶の魔術”――かつて鍛冶神が遺した唯一の奥義。
「焔穿の型、《刃炎裂波》ッ!」
一閃。
灼熱の奔流がヴォルフの胸を裂き、紅い光の波が山腹を照らした。
断末魔を上げ、炎の番犬は消えた。
残された空間に、再び静寂が戻る。
三人は互いに頷き合い、ゆっくりと門の奥へと歩みを進めた。
その奥に、ミゼラの手が伸びようとしている“何か”があるのだと、確信して――
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