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【第9章:光なき剣、暁の終わり】プロローグ
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――それは、静寂に包まれた夜明けだった。
風の音も、獣の遠吠えもない。ただ、凪のような世界。
光なき曙。
それは、何かが始まる前触れではなく――何かが終わりを告げる気配。
魂喰いの封印が解かれた《封呪の工房》の崩落から、数日が過ぎた。
メルたちはゼィレアの街へ戻り、王都より派遣された魔術審問官と一時的な調査団に合流していた。
魂喰いの残骸、ミゼラの遺した工房の記録、そして“想刃レイヴ”に宿った新たな刻印――それらすべては、王都において「特級封鎖対象」として扱われることとなった。
「……なのに、どうして私たちが“監視付きの保護”なんだろうねぇ」
そう口を尖らせたのは、リリスだった。
彼女の足には包帯が巻かれ、魔力制御の手枷が嵌められている。
「当然よ」
と、セリナは淡々と言葉を返す。
「あなたの“影術”は王都の術式封印法に反応しない。つまり、あなただけでも抜けられるということ。今のあなたを“自由”にはできない。それは、私も同じ」
セリナの瞳もまた沈んでいた。
封呪の工房で得た術式の断片は、彼女の体に未だ残響をもたらしていた。
ふと指先をかざせば、霧のような文字が浮かび上がる――古の鍛冶神文字《ルーン》。それはもう、“魔導”ではなかった。
「……メル、あなたは平気?」
「うん、大丈夫」
そう答えるメルの声には、一つの覚悟が宿っていた。
魂喰いとの戦いの中で見たもの。ミゼラの最後に感じた想い。そして、あのとき願った“私自身の剣”の形。
王都から呼び出された“審問官”たちの目は、彼女に鋭く注がれていた。
まるで、彼女が何かを隠しているとでも言いたげに。
――だが、事実として彼女は一つ、封呪の刃を“封じた”。
それは功績であり、同時に危険性の証でもあった。
審問官の一人が、メルに告げる。
「《鍛冶術》そのものに変化が生じつつある。君の使った技は、ただの鍛冶技術ではない。“鍛冶”という名の……新たな魔法体系だ」
魔導でも、錬金術でもない。剣と魔力、そして魂を繋ぐもの。
それを“誰か”が制御できるようになる前に――王都は封じねばならなかった。
「君に求められているのは“選択”だ。従属か、反旗か。答えは、遠くないうちに必要になるだろう」
メルは、ただ静かにうなずいた。
だが、心の奥底でひとつだけ確信していた。
――自分の剣は、誰かの指図ではなく、自らの意志で振るう。
それが、鍛冶師としての“矜持”。
夜が明けていく。
けれど、その光はどこか鈍く、翳りを孕んでいた。
遠く、王都から黒煙が立ち昇っている。
誰かが言った。
「――“王都ヴァルミス”が、燃えている」
それは、世界の終わりの始まりだった。
魂喰いの力が目覚めたとき、《光なき剣》もまた蘇る。
そして、メルは知ることになる。
かつて、自らの手で“鍛えた”刃が、世界に滅びをもたらすことを――
風の音も、獣の遠吠えもない。ただ、凪のような世界。
光なき曙。
それは、何かが始まる前触れではなく――何かが終わりを告げる気配。
魂喰いの封印が解かれた《封呪の工房》の崩落から、数日が過ぎた。
メルたちはゼィレアの街へ戻り、王都より派遣された魔術審問官と一時的な調査団に合流していた。
魂喰いの残骸、ミゼラの遺した工房の記録、そして“想刃レイヴ”に宿った新たな刻印――それらすべては、王都において「特級封鎖対象」として扱われることとなった。
「……なのに、どうして私たちが“監視付きの保護”なんだろうねぇ」
そう口を尖らせたのは、リリスだった。
彼女の足には包帯が巻かれ、魔力制御の手枷が嵌められている。
「当然よ」
と、セリナは淡々と言葉を返す。
「あなたの“影術”は王都の術式封印法に反応しない。つまり、あなただけでも抜けられるということ。今のあなたを“自由”にはできない。それは、私も同じ」
セリナの瞳もまた沈んでいた。
封呪の工房で得た術式の断片は、彼女の体に未だ残響をもたらしていた。
ふと指先をかざせば、霧のような文字が浮かび上がる――古の鍛冶神文字《ルーン》。それはもう、“魔導”ではなかった。
「……メル、あなたは平気?」
「うん、大丈夫」
そう答えるメルの声には、一つの覚悟が宿っていた。
魂喰いとの戦いの中で見たもの。ミゼラの最後に感じた想い。そして、あのとき願った“私自身の剣”の形。
王都から呼び出された“審問官”たちの目は、彼女に鋭く注がれていた。
まるで、彼女が何かを隠しているとでも言いたげに。
――だが、事実として彼女は一つ、封呪の刃を“封じた”。
それは功績であり、同時に危険性の証でもあった。
審問官の一人が、メルに告げる。
「《鍛冶術》そのものに変化が生じつつある。君の使った技は、ただの鍛冶技術ではない。“鍛冶”という名の……新たな魔法体系だ」
魔導でも、錬金術でもない。剣と魔力、そして魂を繋ぐもの。
それを“誰か”が制御できるようになる前に――王都は封じねばならなかった。
「君に求められているのは“選択”だ。従属か、反旗か。答えは、遠くないうちに必要になるだろう」
メルは、ただ静かにうなずいた。
だが、心の奥底でひとつだけ確信していた。
――自分の剣は、誰かの指図ではなく、自らの意志で振るう。
それが、鍛冶師としての“矜持”。
夜が明けていく。
けれど、その光はどこか鈍く、翳りを孕んでいた。
遠く、王都から黒煙が立ち昇っている。
誰かが言った。
「――“王都ヴァルミス”が、燃えている」
それは、世界の終わりの始まりだった。
魂喰いの力が目覚めたとき、《光なき剣》もまた蘇る。
そして、メルは知ることになる。
かつて、自らの手で“鍛えた”刃が、世界に滅びをもたらすことを――
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