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【第9章:光なき剣、暁の終わり】 第1話「焔を継ぐ者たち」
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王都ヴァルミスが燃えていた。
それは噂でも予兆でもなく、現実として空を焦がす紅だった。
「これは……もう、ただの火災なんかじゃない」
王都を遠巻きに見下ろす《雲嶺の丘》に立つメルは、空を覆う煙の黒さに息を呑んだ。
王都の中心地――魔法省と軍政庁が集中する“白塔区”から伸びる黒煙。
その中で、紫と赤が交じる火柱がいくつも爆ぜている。
「……これは、魔術戦だわ」
そう呟いたのはセリナ。隣で結界石を握りしめながら、沈痛な面持ちを崩さない。
一行は王都に向かう途中だった。
魂喰いとの戦いの報告、そして“工房跡地の封印任務”を終えた後、王都からの命に従って召集されていた。
だが、その王都が、今や戦場と化していた。
「隼人、リリス! 前方偵察を頼む!」
メルの声に、軽やかに駆け出す二つの影。
影術を使いこなすリリスと、かつての五輪金メダリストである隼人の脚は、人の限界を超えて丘を駆け下りる。
「メル、私たちはどうする?」
セリナの問いに、メルはゆっくりと頷いた。
「進もう。私たちが持っているのは、“願いを鍛える刃”。誰かが使ってる間に、止めなきゃ」
「まさか、魂喰いが復活した……?」
「それは、まだわからない。でも……感じるの。あの鋼の気配が」
――鋼。
それは鍛冶師であるメルにしか感じ取れない、“意志ある金属”の波動。
魂喰いの“核”である【黒鋼の魂核】に似た、けれど違う、歪みを孕んだ金属の気配が、王都の中央から滲んでいた。
やがて、リリスと隼人が戻ってくる。
「王都、外郭壁は突破されてない。でも――内側で反乱が起きてる。魔導兵士の制御が効かなくなってるの!」
「加えて、奇妙な兵がいた。黒鎧の無言の兵士たち――自律人形か、あるいは……」
「まさか、“鋼獣”かもしれない」
セリナの言葉に、空気が凍った。
《鋼獣》――それは、かつて錬金術師たちが失敗作として遺した金属生命体。
生きた鋼とも呼ばれ、制御不能になったものは王国によって全て破壊されたはずだった。
「それが、まだ生きていたってことか……」
「違う」
メルは目を閉じ、胸元のペンダントに触れた。
そこに埋め込まれているのは、ミゼラの工房跡から拾い上げた“銀の破片”――魂喰いの断片だ。
「これは、呼び水。私たちが戦った魂喰い、それが新しい器を探していたのなら……この騒動は“次の魂喰い”の誕生なのかもしれない」
一瞬、誰もが言葉を失った。
だが次の瞬間、隼人が肩を回しながら笑った。
「ならさ、行くしかねぇな。おれたちはもう知ってる。“鍛えられた刃”は、使われるだけじゃ終われないって」
「“意志ある刃”は、誰のものにもならない……!」
リリスが続け、セリナが頷いた。
「この戦火の中にあるのは、かつて私たちが見つけた“可能性”よ。メル、私たちの武器屋の名にかけて――止めましょう」
メルは、剣を腰に差した。
それは、初めて自分の“意志”で鍛え上げた一本。
《鍛冶魔法》という新たな力のもと、生まれたばかりの刃。
「行こう。願いを砕くものを、願いで打ち直すために」
一行は、王都へと駆け出す。
彼らが辿るのは、かつての“終焉”――そして、“始まり”の地。
燃え盛る王都の中、誰かが叫んでいた。
「――“黒の鍛冶師”が帰ってきた!」
その声が意味するものは、まだ誰も知らなかった。
ただ一つだけ確かなのは――
この戦いが、“武器屋”の戦いであり、かつて誰よりも強く、誰よりも速かった男の“戦い”であるということ。
それは噂でも予兆でもなく、現実として空を焦がす紅だった。
「これは……もう、ただの火災なんかじゃない」
王都を遠巻きに見下ろす《雲嶺の丘》に立つメルは、空を覆う煙の黒さに息を呑んだ。
王都の中心地――魔法省と軍政庁が集中する“白塔区”から伸びる黒煙。
その中で、紫と赤が交じる火柱がいくつも爆ぜている。
「……これは、魔術戦だわ」
そう呟いたのはセリナ。隣で結界石を握りしめながら、沈痛な面持ちを崩さない。
一行は王都に向かう途中だった。
魂喰いとの戦いの報告、そして“工房跡地の封印任務”を終えた後、王都からの命に従って召集されていた。
だが、その王都が、今や戦場と化していた。
「隼人、リリス! 前方偵察を頼む!」
メルの声に、軽やかに駆け出す二つの影。
影術を使いこなすリリスと、かつての五輪金メダリストである隼人の脚は、人の限界を超えて丘を駆け下りる。
「メル、私たちはどうする?」
セリナの問いに、メルはゆっくりと頷いた。
「進もう。私たちが持っているのは、“願いを鍛える刃”。誰かが使ってる間に、止めなきゃ」
「まさか、魂喰いが復活した……?」
「それは、まだわからない。でも……感じるの。あの鋼の気配が」
――鋼。
それは鍛冶師であるメルにしか感じ取れない、“意志ある金属”の波動。
魂喰いの“核”である【黒鋼の魂核】に似た、けれど違う、歪みを孕んだ金属の気配が、王都の中央から滲んでいた。
やがて、リリスと隼人が戻ってくる。
「王都、外郭壁は突破されてない。でも――内側で反乱が起きてる。魔導兵士の制御が効かなくなってるの!」
「加えて、奇妙な兵がいた。黒鎧の無言の兵士たち――自律人形か、あるいは……」
「まさか、“鋼獣”かもしれない」
セリナの言葉に、空気が凍った。
《鋼獣》――それは、かつて錬金術師たちが失敗作として遺した金属生命体。
生きた鋼とも呼ばれ、制御不能になったものは王国によって全て破壊されたはずだった。
「それが、まだ生きていたってことか……」
「違う」
メルは目を閉じ、胸元のペンダントに触れた。
そこに埋め込まれているのは、ミゼラの工房跡から拾い上げた“銀の破片”――魂喰いの断片だ。
「これは、呼び水。私たちが戦った魂喰い、それが新しい器を探していたのなら……この騒動は“次の魂喰い”の誕生なのかもしれない」
一瞬、誰もが言葉を失った。
だが次の瞬間、隼人が肩を回しながら笑った。
「ならさ、行くしかねぇな。おれたちはもう知ってる。“鍛えられた刃”は、使われるだけじゃ終われないって」
「“意志ある刃”は、誰のものにもならない……!」
リリスが続け、セリナが頷いた。
「この戦火の中にあるのは、かつて私たちが見つけた“可能性”よ。メル、私たちの武器屋の名にかけて――止めましょう」
メルは、剣を腰に差した。
それは、初めて自分の“意志”で鍛え上げた一本。
《鍛冶魔法》という新たな力のもと、生まれたばかりの刃。
「行こう。願いを砕くものを、願いで打ち直すために」
一行は、王都へと駆け出す。
彼らが辿るのは、かつての“終焉”――そして、“始まり”の地。
燃え盛る王都の中、誰かが叫んでいた。
「――“黒の鍛冶師”が帰ってきた!」
その声が意味するものは、まだ誰も知らなかった。
ただ一つだけ確かなのは――
この戦いが、“武器屋”の戦いであり、かつて誰よりも強く、誰よりも速かった男の“戦い”であるということ。
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