夢でしか会えない君

N.PROJECT

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【第3章】忘却と真実

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図書館の静けさが、妙に居心地よかった。
 ページをめくるたびに紙の匂いが立ちのぼり、それがなぜか懐かしく感じられた。
 自分の記憶は信じられなくても、本の中に書かれた事実は嘘をつかない。

 新聞の縮刷版、地域の記事。
 心当たりもないまま、僕は「過去の事故」や「未解決事件」の見出しを追い続けた。

 なぜそうしているのか、自分でも説明ができなかった。
 けれど――

 あるページで、手が止まった。


「心中未遂か 女性死亡、男性は重体」
 小さな記事だった。日付は、ちょうど5年前。
 場所は、僕の住んでいる市内の小さなアパート。

 『発見されたのは20代の男女。女性は死亡、男性は昏睡状態で病院に搬送された』
 『男性は現在も記憶障害を抱えているが、命に別状はないという』

 添えられたぼやけた写真。そこに写る彼女の姿を、僕はすぐに認識した。
 ――夢に出てくる、彼女だ。

 白黒の写真の中でも、彼女の微笑みははっきりと見えた。

 心がぐらりと傾いた。

 それが“ただの夢”じゃなかったこと。
 僕は、彼女と本当に一緒にいたこと。
 そして――彼女が僕の代わりに命を落としたこと。


 病院にも向かった。
 当時、意識不明で運ばれた男性のカルテを尋ねるのは難しかったが、
 受付で名前を言うと、担当者は一瞬だけ目を伏せた。

「ご自身のこと……ご記憶にないのですね?」

 僕は何も答えられなかった。ただ、小さくうなずいた。
 その表情に、すべてが詰まっていた。


 帰り道、ふと見上げた空が曇っていた。
 風が強く吹き、どこか遠くで木の枝が揺れる音がした。

 彼女の最期の言葉が、夢の中で響いてきた気がした。

 ――「思い出してくれて、ありがとう」


 その夜、僕はいつものように夢の中で彼女と再会した。
 場所は湖だった。月が鏡のような水面に映り、彼女はその前に立っていた。

「もう、あなたが思い出してくれたから……私、ここにいられなくなるの」

 彼女の言葉は、静かな水音に溶けていった。

「君を……忘れたくなかった」
 僕は震える声で言った。
「なのに、どうして……記憶なんか、消えてたんだよ……!」

 彼女は小さく笑った。

「記憶が消えても、想いは残ってた。だから、私はここにいられたんだと思う」

 そして彼女は、僕の頬にそっと手を添えた。

「次に会うときは――現実でね」
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