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第5章:地下室の叫び声
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霧崎町は冷たい霧に閉ざされ、2005年11月の夜が更けていた。佐藤悠真は宿の狭い部屋で、ベッドの端に腰を下ろしていた。窓の外では、雨がガラスを叩き、海の波音が低く響く。手に握る姉・美咲の日記は、10年間の後悔と執念の重みを背負っていた。ページの端に描かれた小さな星の落書きが、姉の笑顔を呼び起こす。あの日、15歳の悠真は美咲に「消えろ」と吐き捨て、それが最後の言葉になった。彼女が霧崎町で消えたのは、その数日後だった。
昨日、霧崎邸の地下室で見たもの――血痕、藤田彩花と霧島隆一の写真、漁協の帳簿、姉の星のペンダント――が頭から離れない。彩花の兄、村上晋の憎しみに満ちた声が耳に響く。「霧崎の娘、よくも生きてたな。」彼のナイフが光り、怜奈を「罪人」と呼んだ瞬間、悠真の心は締め付けられた。怜奈の震える手、彼女の絵に描かれた「赤い影」、そして海辺での約束――「美咲さんのためなら、行く。」彼女の決意が、悠真を突き動かす。
ポケットには、4通目の脅迫の手紙。「真相を暴くなら、命はない。」赤いインクは、まるで血が滲んだようだった。1通目から続く警告は、晋の復讐の執念を物語る。だが、悠真は怯まない。美咲の失踪、彩花の死、漁協の金の秘密――霧崎邸の地下室が全てを握っている。怜奈の曖昧な記憶、彼女の絵に描かれた叫び声が、真相への鍵だ。
悠真はガラケーを手に、怜奈の番号を押した。長い呼び出し音の後、彼女の声が聞こえた。「佐藤さん……こんな夜に、なに?」声は小さく、疲れと不安に震えていた。
「昨日、地下室で晋が言ったこと。君の記憶、もっと知りたい。彩花の叫び声、覚えてるか?」
怜奈の息が止まった気がした。「……怖いよ。でも、絵を描いてたら、なんか思い出した。地下室で、彩花さんが叫んでた。父が……何かしてた。」
「今、行く。話そう。」悠真はコートを掴み、宿を出た。霧が濃く、町は闇に沈む。海の匂いが鼻をつき、波の音が不気味に響く。
~怜奈の家:記憶の断片
漁港近く、怜奈の平屋は霧に沈んでいた。木の外壁は海風で色褪せ、庭の雑草が濡れている。玄関のチャイムを押すと、かすかな足音。怜奈が顔を出した。黒いスカーフを巻き、絵の具の匂いが漂う。灰色の瞳は、まるで霧の海を見ているようだった。
「佐藤さん、こんな時間に……」彼女はドアを開け、居間へ招いた。部屋はキャンバスと絵の具で埋め尽くされていた。壁には海、霧、岩場の絵。どれも暗い色調で、町の孤独を映す。新たなキャンバスが目に入った――地下室の階段、赤い影、彩花の顔が鮮明に描かれている。彩花の口は叫び、目は恐怖に歪む。
「この絵、いつ描いた?」悠真はキャンバスを指した。
「昨夜、海辺で話した後。寝れなくて……夢で見たの。彩花さんが、地下室で叫んでた。赤い影が、彼女を押さえつけてた。」怜奈の声が震えた。「子どもの頃、地下室で何か見た。怖くて、逃げ出したの。」
「君の父、霧島隆一。彩花とどう関わってた?」悠真は日記を手に、ページを開いた。「姉貴が書いた。彩花が漁協の金を追ってた。地下室に秘密があるって。」
怜奈は日記を受け取り、震える指で読んだ。「美咲さん……覚えてる。明るくて、絵を褒めてくれた。でも、彼女も消えた。父が……彩花さんを消したの?」彼女の瞳に涙が滲む。「父は漁協の金を管理してた。彩花さんが何か知って、父とケンカしてた夜、地下室で叫び声が……。」
「覚えてることを全部話してくれ。」悠真は彼女の肩に手を置いた。
怜奈は深呼吸し、目を閉じた。「5歳だった。夜、父の後を追って地下室へ行った。暗い部屋で、彩花さんが叫んでた。『隆一さん、約束が違う!』って。赤い影――血に濡れた服の男が、彼女を押さえつけてた。父の声がした。『黙れ、漁協の金は守る!』私は怖くて逃げた。その後、父と母が事故で死んだ。全部、ぼやけてた。」
悠真の胸が締め付けられた。怜奈の記憶は、美咲の日記と一致する。「姉貴も、同じことを追ってた。彩花の死と、漁協の金。君の父が関わってたなら、真相は地下室にある。」
怜奈は小さく頷いた。「佐藤さん、私、怖いけど……美咲さんのため、あなたのためなら、行く。明日、地下室に戻ろう。でも、約束して。危険になったら、逃げるって。」
「約束する。」悠真は彼女の手を握った。冷たい指が、彼の心に小さな光を灯した。「君のことは、記事にしない。信じてくれ。」
~美咲の最後の夏
悠真の脳裏に、10年前の夏が蘇った。1995年、20歳の美咲は大学生だった。明るく、正義感に溢れ、いつも星のペンダントを着けていた。「悠真、いつか一緒に海を見ようね。」彼女の笑顔が、霧崎町の海辺で揺らめく。だが、彼女が霧崎町へ旅立つ前、姉弟はケンカした。「お前、いつも正義ぶって! 消えろよ!」悠真の言葉に、美咲は悲しげに微笑んだ。「いつか、わかってくれるよ。」
美咲の日記は、彼女の最後の足跡だった。「霧崎町、彩花さんに会う。彼女、漁協の金の秘密を知ってる。霧崎邸の地下室、なんかあるって。怖いけど、放っておけない。」そのページの後、空白。美咲は二度と日記を書かなかった。
悠真は目を閉じ、ペンダントを握りしめた。地下室で拾った星の形は、姉の存在そのものだった。「美咲、必ず見つける。約束だ。」
~隠された部屋
翌朝、悠真と怜奈は霧崎邸へ向かった。霧が濃く、岬の坂道は視界を閉ざす。怜奈のスカーフが風に揺れ、まるで霧の一部。門前で、悠真は晋のナイフを思い出した。「気をつけろ。晋が近くにいる。」
洋館の中は、カビと湿気の匂い。1階のホールで、怜奈が立ち止まった。「ここ、父と歩いた場所。シャンデリアが光ってた頃、楽しかったのに。」彼女の声は、懐かしさと悲しみに満ちる。悠真は厨房へ向かい、地下室の扉を開けた。階段は暗く、湿った空気が重い。
「何か変な感じがする。」怜奈が腕を掴んだ。「子どもの頃、父が『絶対入るな』って言ってた。」
「大丈夫だ。一緒にいる。」悠真は彼女の手を握り、階段を下りた。
地下室はコンクリートの壁にひびが入り、床に水たまり。血痕のあった壁を照らし、奥へ進む。昨日見つけた鉄の扉――隠し部屋の入り口だ。悠真は力を込めて開けた。蝶番が軋み、中は狭い部屋。古い書類、写真、漁協の帳簿が散乱していた。帳簿には、1985年の記録。「霧島隆一、漁協資金移動、彩花調査。」
「彩花が漁協の金を追ってた。隆一が隠したかったんだ。」悠真は書類を手に取った。別の紙には、漁協の有力者リスト。高木刑事の名前もあった。「高木も関わってたのか?」
怜奈が写真を拾った。彩花、隆一、若い高木。裏に書かれた文字。「1985年夏、彩花と。漁協の金を守れ。」彼女の声が震えた。「高木さん、父の知り合いだった。彩花さんが死んだ夜、父と話してたのを覚えてる。」
床に、銀の鎖が落ちていた。星のペンダント――美咲のものだ。「姉貴の……!」悠真は拾い上げ、胸が締め付けられた。ペンダントの裏には、刻まれた文字。「美咲、1995。」
突然、ガタッと音。階段の上に、黒いフードの男――村上晋。ナイフが光り、目は憎しみに燃える。「霧崎の娘、佐藤。お前ら、彩花の仇だ。」
「待て! 怜奈は子どもだった! 何も知らない!」悠真は怜奈を庇い、叫んだ。
「知らなくても、霧崎の血だ。漁協の金を隠し、妹を消した。あの男の娘なら、同じ罪だ!」晋が一歩踏み出す。
怜奈が叫んだ。「やめて! 私、覚えてる! 彩花さんが叫んでた夜、父が地下室にいた! でも、全部じゃない!」
晋の目が揺れた。「なら、話せ。霧島隆一が何をした? 彩花をどうやって殺した?」
怜奈は涙を流し、崩れ落ちた。「わからない……父が彩花さんを押さえつけて、血が……赤い影だった。でも、私、逃げたの。次の日、父と母が事故で死んだ。」
悠真は怜奈を抱きしめた。「君のせいじゃない。晋、真相を俺が暴く。怜奈を巻き込むな。」
晋はナイフを握りしめ、吐き捨てた。「なら、霧崎の罪を全て暴け。でなきゃ、お前も消す。」彼は階段を駆け上がり、霧に消えた。
~彩花の最後の夜
怜奈の記憶が、霧の向こうで蘇った。1985年夏、5歳の怜奈は、霧崎邸の地下室へ忍び込んだ。暗い階段を下り、冷たいコンクリートの部屋。彩花の叫び声。「隆一さん、約束が違う! 漁協の金、裏で動かしてる!」隆一の怒声。「黙れ、余計なことを知るな!」赤い影――血に濡れた服の男が、彩花を押さえつける。怜奈は恐怖で逃げ出し、記憶を封じた。翌日、両親は事故で死に、怜奈は叔母に引き取られた。
「父が……彩花さんを?」怜奈は嗚咽した。「私、知らなかった。覚えたくなかった。」
悠真は彼女を強く抱いた。「君は被害者だ。姉貴も、彩花も、漁協の金のせいで消えた。俺が暴く。」
~高木との再会
夕方、悠真は高木刑事と漁港近くの喫茶店「海鳴り」で会った。煙草の匂いが漂う高木は、疲れた目で悠真を見た。「地下室の帳簿、見たんだろ? 深入りしすぎだ、佐藤。」
「彩花が漁協の金を追ってた。高木、あんたも隠蔽に加担したな?」悠真は帳簿を突きつけた。
高木は煙草を灰皿に押し付け、ため息をついた。「当時、俺は若造だった。漁協の圧力、霧島の力――逆らえなかった。家族が人質だったんだ。」
「家族? だから彩花を見殺しにした?」悠真の声が鋭い。
「証拠がなきゃ、ただの噂だ。気をつけろ、佐藤。晋は危険だ。彩花の死を、町全体に復讐してる。」
~海辺の絆
夜、悠真は怜奈を海辺に連れ出した。霧が薄れ、星が瞬く。波の音が二人を包む。「佐藤さん、私、父の罪を背負ってる?」怜奈の声は震えた。
「違う。君は被害者だ。姉貴も、彩花も、真相を暴くために俺がいる。」悠真は彼女の手を握った。
怜奈は微笑み、星のペンダントを手に取った。「美咲さんの、これ。持ってて。」彼女の指が、悠真の手に触れる。冷たいが、温かい。
二人は海を見つめ、沈黙した。霧の向こうで、黒い影が動いた。悠真は気づかなかったが、怜奈の瞳が一瞬揺れた。波の音が、叫び声のように響いた。
~町民の敵意
翌朝、悠真は漁協事務所を訪れた。50代の男が、冷たい目で迎えた。「よそ者がまた来たか。霧崎邸の詮索、やめろ。」
「霧島隆一と漁協の金、彩花の死。知ってるだろ?」悠真は帳簿のコピーを突きつけた。
男の顔が強張った。「出てけ。次はただじゃ済まねえ。」
事務所を出ると、町民の視線が刺さる。商店街の老女、漁港の男たち――全員が悠真を監視している。霧崎町は、秘密を守るために沈黙していた。
~晋の襲撃
その夜、悠真は宿に戻った。部屋の電気が点かない。懐中電灯で照らすと、机に新たな手紙。「今夜、霧崎邸で待つ。」赤いインクが滴る。
悠真はガラケーで怜奈に連絡した。「晋が動き出した。今夜、霧崎邸に行く。来るな、危険だ。」
「だめ! 一人じゃ危ない!」怜奈の声が叫ぶ。「私も行く。美咲さんのペンダント、持ってるから。」
霧崎邸に着くと、門は開いていた。霧が濃く、洋館は闇に沈む。怜奈が追いつき、息を切らした。「佐藤さん、一緒に。」二人は手をつなぎ、地下室へ向かった。
階段を下りると、晋が待っていた。ナイフを手に、目は狂気を帯びる。「霧崎の娘、佐藤。彩花の仇を、今ここで取る。」
「やめろ! 真相は漁協と隆一だ! 怜奈は関係ない!」悠真は怜奈を庇い、叫んだ。
晋が笑った。「関係ない? 霧崎の血は、罪そのものだ。」彼がナイフを振り上げる。
その瞬間、怜奈が叫んだ。「やめて! 彩花さんの叫び声、全部思い出した! 父が彼女を押さえつけて、血が……でも、父一人じゃなかった! 漁協の男たちがいた!」
晋の動きが止まった。「誰だ? 名前を言え!」
「わからない……でも、高木さんがそこにいた!」怜奈の声が地下室に響く。
突然、ガタンと音。高木刑事が階段に現れた。煙草の匂い、よれよれのスーツ。「佐藤、霧崎。もうやめろ。誰も得しない。」
「高木、あんたも彩花の死に関わったな?」悠真は帳簿を握りしめた。
高木は目を伏せた。「家族を守るためだ。霧島の命令、漁協の圧力――逆らえなかった。」
晋が咆哮し、高木に飛びかかった。「お前も罪人だ!」ナイフが光る。悠真は晋を押し倒し、怜奈を庇った。「逃げろ、怜奈!」
地下室は混乱に包まれた。波の音が、叫び声と混じる。霧が濃くなり、誰もが闇に呑まれた。
昨日、霧崎邸の地下室で見たもの――血痕、藤田彩花と霧島隆一の写真、漁協の帳簿、姉の星のペンダント――が頭から離れない。彩花の兄、村上晋の憎しみに満ちた声が耳に響く。「霧崎の娘、よくも生きてたな。」彼のナイフが光り、怜奈を「罪人」と呼んだ瞬間、悠真の心は締め付けられた。怜奈の震える手、彼女の絵に描かれた「赤い影」、そして海辺での約束――「美咲さんのためなら、行く。」彼女の決意が、悠真を突き動かす。
ポケットには、4通目の脅迫の手紙。「真相を暴くなら、命はない。」赤いインクは、まるで血が滲んだようだった。1通目から続く警告は、晋の復讐の執念を物語る。だが、悠真は怯まない。美咲の失踪、彩花の死、漁協の金の秘密――霧崎邸の地下室が全てを握っている。怜奈の曖昧な記憶、彼女の絵に描かれた叫び声が、真相への鍵だ。
悠真はガラケーを手に、怜奈の番号を押した。長い呼び出し音の後、彼女の声が聞こえた。「佐藤さん……こんな夜に、なに?」声は小さく、疲れと不安に震えていた。
「昨日、地下室で晋が言ったこと。君の記憶、もっと知りたい。彩花の叫び声、覚えてるか?」
怜奈の息が止まった気がした。「……怖いよ。でも、絵を描いてたら、なんか思い出した。地下室で、彩花さんが叫んでた。父が……何かしてた。」
「今、行く。話そう。」悠真はコートを掴み、宿を出た。霧が濃く、町は闇に沈む。海の匂いが鼻をつき、波の音が不気味に響く。
~怜奈の家:記憶の断片
漁港近く、怜奈の平屋は霧に沈んでいた。木の外壁は海風で色褪せ、庭の雑草が濡れている。玄関のチャイムを押すと、かすかな足音。怜奈が顔を出した。黒いスカーフを巻き、絵の具の匂いが漂う。灰色の瞳は、まるで霧の海を見ているようだった。
「佐藤さん、こんな時間に……」彼女はドアを開け、居間へ招いた。部屋はキャンバスと絵の具で埋め尽くされていた。壁には海、霧、岩場の絵。どれも暗い色調で、町の孤独を映す。新たなキャンバスが目に入った――地下室の階段、赤い影、彩花の顔が鮮明に描かれている。彩花の口は叫び、目は恐怖に歪む。
「この絵、いつ描いた?」悠真はキャンバスを指した。
「昨夜、海辺で話した後。寝れなくて……夢で見たの。彩花さんが、地下室で叫んでた。赤い影が、彼女を押さえつけてた。」怜奈の声が震えた。「子どもの頃、地下室で何か見た。怖くて、逃げ出したの。」
「君の父、霧島隆一。彩花とどう関わってた?」悠真は日記を手に、ページを開いた。「姉貴が書いた。彩花が漁協の金を追ってた。地下室に秘密があるって。」
怜奈は日記を受け取り、震える指で読んだ。「美咲さん……覚えてる。明るくて、絵を褒めてくれた。でも、彼女も消えた。父が……彩花さんを消したの?」彼女の瞳に涙が滲む。「父は漁協の金を管理してた。彩花さんが何か知って、父とケンカしてた夜、地下室で叫び声が……。」
「覚えてることを全部話してくれ。」悠真は彼女の肩に手を置いた。
怜奈は深呼吸し、目を閉じた。「5歳だった。夜、父の後を追って地下室へ行った。暗い部屋で、彩花さんが叫んでた。『隆一さん、約束が違う!』って。赤い影――血に濡れた服の男が、彼女を押さえつけてた。父の声がした。『黙れ、漁協の金は守る!』私は怖くて逃げた。その後、父と母が事故で死んだ。全部、ぼやけてた。」
悠真の胸が締め付けられた。怜奈の記憶は、美咲の日記と一致する。「姉貴も、同じことを追ってた。彩花の死と、漁協の金。君の父が関わってたなら、真相は地下室にある。」
怜奈は小さく頷いた。「佐藤さん、私、怖いけど……美咲さんのため、あなたのためなら、行く。明日、地下室に戻ろう。でも、約束して。危険になったら、逃げるって。」
「約束する。」悠真は彼女の手を握った。冷たい指が、彼の心に小さな光を灯した。「君のことは、記事にしない。信じてくれ。」
~美咲の最後の夏
悠真の脳裏に、10年前の夏が蘇った。1995年、20歳の美咲は大学生だった。明るく、正義感に溢れ、いつも星のペンダントを着けていた。「悠真、いつか一緒に海を見ようね。」彼女の笑顔が、霧崎町の海辺で揺らめく。だが、彼女が霧崎町へ旅立つ前、姉弟はケンカした。「お前、いつも正義ぶって! 消えろよ!」悠真の言葉に、美咲は悲しげに微笑んだ。「いつか、わかってくれるよ。」
美咲の日記は、彼女の最後の足跡だった。「霧崎町、彩花さんに会う。彼女、漁協の金の秘密を知ってる。霧崎邸の地下室、なんかあるって。怖いけど、放っておけない。」そのページの後、空白。美咲は二度と日記を書かなかった。
悠真は目を閉じ、ペンダントを握りしめた。地下室で拾った星の形は、姉の存在そのものだった。「美咲、必ず見つける。約束だ。」
~隠された部屋
翌朝、悠真と怜奈は霧崎邸へ向かった。霧が濃く、岬の坂道は視界を閉ざす。怜奈のスカーフが風に揺れ、まるで霧の一部。門前で、悠真は晋のナイフを思い出した。「気をつけろ。晋が近くにいる。」
洋館の中は、カビと湿気の匂い。1階のホールで、怜奈が立ち止まった。「ここ、父と歩いた場所。シャンデリアが光ってた頃、楽しかったのに。」彼女の声は、懐かしさと悲しみに満ちる。悠真は厨房へ向かい、地下室の扉を開けた。階段は暗く、湿った空気が重い。
「何か変な感じがする。」怜奈が腕を掴んだ。「子どもの頃、父が『絶対入るな』って言ってた。」
「大丈夫だ。一緒にいる。」悠真は彼女の手を握り、階段を下りた。
地下室はコンクリートの壁にひびが入り、床に水たまり。血痕のあった壁を照らし、奥へ進む。昨日見つけた鉄の扉――隠し部屋の入り口だ。悠真は力を込めて開けた。蝶番が軋み、中は狭い部屋。古い書類、写真、漁協の帳簿が散乱していた。帳簿には、1985年の記録。「霧島隆一、漁協資金移動、彩花調査。」
「彩花が漁協の金を追ってた。隆一が隠したかったんだ。」悠真は書類を手に取った。別の紙には、漁協の有力者リスト。高木刑事の名前もあった。「高木も関わってたのか?」
怜奈が写真を拾った。彩花、隆一、若い高木。裏に書かれた文字。「1985年夏、彩花と。漁協の金を守れ。」彼女の声が震えた。「高木さん、父の知り合いだった。彩花さんが死んだ夜、父と話してたのを覚えてる。」
床に、銀の鎖が落ちていた。星のペンダント――美咲のものだ。「姉貴の……!」悠真は拾い上げ、胸が締め付けられた。ペンダントの裏には、刻まれた文字。「美咲、1995。」
突然、ガタッと音。階段の上に、黒いフードの男――村上晋。ナイフが光り、目は憎しみに燃える。「霧崎の娘、佐藤。お前ら、彩花の仇だ。」
「待て! 怜奈は子どもだった! 何も知らない!」悠真は怜奈を庇い、叫んだ。
「知らなくても、霧崎の血だ。漁協の金を隠し、妹を消した。あの男の娘なら、同じ罪だ!」晋が一歩踏み出す。
怜奈が叫んだ。「やめて! 私、覚えてる! 彩花さんが叫んでた夜、父が地下室にいた! でも、全部じゃない!」
晋の目が揺れた。「なら、話せ。霧島隆一が何をした? 彩花をどうやって殺した?」
怜奈は涙を流し、崩れ落ちた。「わからない……父が彩花さんを押さえつけて、血が……赤い影だった。でも、私、逃げたの。次の日、父と母が事故で死んだ。」
悠真は怜奈を抱きしめた。「君のせいじゃない。晋、真相を俺が暴く。怜奈を巻き込むな。」
晋はナイフを握りしめ、吐き捨てた。「なら、霧崎の罪を全て暴け。でなきゃ、お前も消す。」彼は階段を駆け上がり、霧に消えた。
~彩花の最後の夜
怜奈の記憶が、霧の向こうで蘇った。1985年夏、5歳の怜奈は、霧崎邸の地下室へ忍び込んだ。暗い階段を下り、冷たいコンクリートの部屋。彩花の叫び声。「隆一さん、約束が違う! 漁協の金、裏で動かしてる!」隆一の怒声。「黙れ、余計なことを知るな!」赤い影――血に濡れた服の男が、彩花を押さえつける。怜奈は恐怖で逃げ出し、記憶を封じた。翌日、両親は事故で死に、怜奈は叔母に引き取られた。
「父が……彩花さんを?」怜奈は嗚咽した。「私、知らなかった。覚えたくなかった。」
悠真は彼女を強く抱いた。「君は被害者だ。姉貴も、彩花も、漁協の金のせいで消えた。俺が暴く。」
~高木との再会
夕方、悠真は高木刑事と漁港近くの喫茶店「海鳴り」で会った。煙草の匂いが漂う高木は、疲れた目で悠真を見た。「地下室の帳簿、見たんだろ? 深入りしすぎだ、佐藤。」
「彩花が漁協の金を追ってた。高木、あんたも隠蔽に加担したな?」悠真は帳簿を突きつけた。
高木は煙草を灰皿に押し付け、ため息をついた。「当時、俺は若造だった。漁協の圧力、霧島の力――逆らえなかった。家族が人質だったんだ。」
「家族? だから彩花を見殺しにした?」悠真の声が鋭い。
「証拠がなきゃ、ただの噂だ。気をつけろ、佐藤。晋は危険だ。彩花の死を、町全体に復讐してる。」
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夜、悠真は怜奈を海辺に連れ出した。霧が薄れ、星が瞬く。波の音が二人を包む。「佐藤さん、私、父の罪を背負ってる?」怜奈の声は震えた。
「違う。君は被害者だ。姉貴も、彩花も、真相を暴くために俺がいる。」悠真は彼女の手を握った。
怜奈は微笑み、星のペンダントを手に取った。「美咲さんの、これ。持ってて。」彼女の指が、悠真の手に触れる。冷たいが、温かい。
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「霧島隆一と漁協の金、彩花の死。知ってるだろ?」悠真は帳簿のコピーを突きつけた。
男の顔が強張った。「出てけ。次はただじゃ済まねえ。」
事務所を出ると、町民の視線が刺さる。商店街の老女、漁港の男たち――全員が悠真を監視している。霧崎町は、秘密を守るために沈黙していた。
~晋の襲撃
その夜、悠真は宿に戻った。部屋の電気が点かない。懐中電灯で照らすと、机に新たな手紙。「今夜、霧崎邸で待つ。」赤いインクが滴る。
悠真はガラケーで怜奈に連絡した。「晋が動き出した。今夜、霧崎邸に行く。来るな、危険だ。」
「だめ! 一人じゃ危ない!」怜奈の声が叫ぶ。「私も行く。美咲さんのペンダント、持ってるから。」
霧崎邸に着くと、門は開いていた。霧が濃く、洋館は闇に沈む。怜奈が追いつき、息を切らした。「佐藤さん、一緒に。」二人は手をつなぎ、地下室へ向かった。
階段を下りると、晋が待っていた。ナイフを手に、目は狂気を帯びる。「霧崎の娘、佐藤。彩花の仇を、今ここで取る。」
「やめろ! 真相は漁協と隆一だ! 怜奈は関係ない!」悠真は怜奈を庇い、叫んだ。
晋が笑った。「関係ない? 霧崎の血は、罪そのものだ。」彼がナイフを振り上げる。
その瞬間、怜奈が叫んだ。「やめて! 彩花さんの叫び声、全部思い出した! 父が彼女を押さえつけて、血が……でも、父一人じゃなかった! 漁協の男たちがいた!」
晋の動きが止まった。「誰だ? 名前を言え!」
「わからない……でも、高木さんがそこにいた!」怜奈の声が地下室に響く。
突然、ガタンと音。高木刑事が階段に現れた。煙草の匂い、よれよれのスーツ。「佐藤、霧崎。もうやめろ。誰も得しない。」
「高木、あんたも彩花の死に関わったな?」悠真は帳簿を握りしめた。
高木は目を伏せた。「家族を守るためだ。霧島の命令、漁協の圧力――逆らえなかった。」
晋が咆哮し、高木に飛びかかった。「お前も罪人だ!」ナイフが光る。悠真は晋を押し倒し、怜奈を庇った。「逃げろ、怜奈!」
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「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
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