霧に消えた約束

N.PROJECT

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エピローグ:星の光の向こう

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霧崎町の朝は、静かな波の音と薄れる霧に包まれていた。2006年3月、私は、佐藤悠真、28歳、漁港近くの海辺に立っていた。春の風がデニムのジャケットを軽く揺らし、ポケットの中で姉・美咲の星のペンダントが温かく感じられた。あの夜、岩場での村上晋の嗚咽、霧島怜奈の震える微笑み、燃え尽きた霧崎邸の残骸――全てが、3か月前の終幕を思い起こさせる。

大石の逮捕後、霧崎町は変わり始めていた。漁協の金の流れが暴かれ、町民の沈黙は徐々に解けた。商店街の老女は私を見ても目を逸らさなくなり、漁師たちは静かに頭を下げた。だが、完全な和解にはまだ遠い。美咲と藤田彩花の死、霧崎町の罪は、町の空気にまだ重く残る。

怜奈は今、漁港近くの平屋で絵を描き続けている。彼女の最新のキャンバスを思い出す――霧崎町の海、星空、岩場に立つ二人の影。彩花の叫び声はなくなり、代わりに穏やかな波の音が描かれていた。「佐藤さん、これ、私たちの絵。」彼女の微笑みが、霧の中の星だった。

私はガラケーを手に、怜奈に電話をかけた。呼び出し音の後、彼女の声が響く。「佐藤さん、朝早くからどうしたの?」声は軽く、絵の具の匂いが漂うようだった。
「海辺にいる。君の絵、思い出した。会えるか?」
「うん、すぐ行く。」怜奈の声に、温もりが宿る。

漁港の防波堤で、怜奈が現れた。薄手のコート、長い黒髪が春風に揺れ、灰色の瞳は穏やかな光を湛える。手に小さなスケッチブック。「佐藤さん、こんな朝に海?」

「姉貴のペンダント、持ってきた。」私はポケットから星のペンダントを取り出し、彼女に渡した。「君が持ってて。美咲も、喜ぶと思う。」

怜奈はペンダントを握り、微笑んだ。「ありがとう。美咲さんの笑顔、彩花さんの叫び、絵に描き続けるよ。忘れないように。」

海を見つめ、二人で沈黙した。波の音が、過去の叫びを静かな囁きに変える。町民の視線はまだ残るが、霧は薄れ、星の光が海に映る。「佐藤さん、これからどうするの?」怜奈が尋ねた。

「東京に戻る。記者として、霧崎町の話を書く。姉貴と彩花の真実、世の中に伝える。」私は彼女を見た。「君は?」

「絵を描く。ここで、霧崎町で。父の罪、町の過去、全部絵で償う。」怜奈の声は強く、瞳は星のようだった。

駅に向かう道、怜奈がスケッチブックを開いた。新しい絵――海辺に立つ二人、星空の下、霧が晴れる。「これ、私たちの未来。」彼女が笑う。

私は頷き、彼女の手を握った。「一緒に、星の光を追いかけよう。」

列車が動き出す。霧崎町の海が遠ざかり、ペンダントの星が朝陽に光る。霧の向こうで、新しい物語が始まる気がした。
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