タイムリープミステリー『ルインと人生図書館』

ふるなゆ☆

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プロローグ②

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 ただひたすらに白が続く空間。
 空は無垢な天井、地面は何色にも染まらない真っさらな地平線。前後左右は色を無くした殺風景な白。凪に包まれたこの空間には音という概念はない。
 彼は意味もなくひたすらに歩いていく。
 何も無い。その空間が現実を突きつけていく。鮮明に思い出されるのは爆風の瞬間。その時の熱が不愉快で絶望を感じさせる痛みだったと、冷静に振り返っている。
 残念ながら、その時の痛みは何も感じない。そこに至るまでの後悔や無念、その他諸々の感情がこの無の中へとダダ漏れては消えている。ただ、無の世界をひたすらひた歩くだけ。その歩くという行為すらも疲労を感じさせることはない。 
 そのうち風景が一転した。何処かの部屋へと辿り着いた。いくつもの本棚が置かれている。前後左右上下、見渡せばそこは幻想的な図書館とでも言える景色に変わっていた。
 美しい景色に見とれてしまったのか、周りを見渡しながら、この空間に瞳が釘付けになりそうだ。
 本棚に囲まれたこの空間の真ん中に一人の女性が椅子に座っていた。バターブロンドの長髪が床に垂れている。ふわりとした服装を身にまとう彼女は優しく微笑み「お邪魔しています」と呟いた。
 その言葉を聞いて、ポカンと口を開く。
 それを見た彼女が立ち上がった。
「まあ、状況が読み込めずに混乱するのも仕方ないですよね。今のルインさんに、ここについて私の知っていることを伝えますね。」
 椅子から立ち上がった。するりと伸びる金髪が美しくなびいた。
「ここは信じられないかも知れませんが、あなたの……死後の世界です。この時のあなたは残念ながら死んだのです。」
 脳裏に蘇る豪華客船が爆破する景色。そのイメージがここにいる二人に共有された。
「そしてここは、あなたの人生を刻んだ本が並ぶ場所。ルインさんが産まれた日からあの船での一件までの全てがこの本棚に置かれているみたいです。少しだけ本を取ってみて下さい。ただ、本のページに触らないで下さいね。」
 一冊の本を手に取る。その本は『小学五年生の頃──林間学習』と書かれていた。ペラペラとめくると小学五年生の頃に体験した林間学習の時の記憶が記されていた。
 本を棚に戻す。
 産まれてから死ぬまで、その間に起きた出来事を細かく章立てにし、それぞれを一つの本にまとめていることが分かる。それをこの本棚にざっと置かれているのだ。
「ここかどのような場所か分かりましたか。」
 彼女の質問に「ええ」と頷く。
「ここからが大事な事です。あなたは『二十七歳──豪華客船爆破テロ事件』で一度死にました。ここまではいいですね。実は、この爆破テロ事件を無かったことにできるのです。」
「どういうことです?」と食い気味に聞く。
「この場所は少々特別な場所でして……。本を開き、そのページに触れると、その頃の時代に遡ることができるのです。端的に言えば、過去に戻ることができるのです。」
 先程『ページに触れないで』と強く念を押したのはこういう事かと腑に落ちた頷きをした。
「では、爆破テロの日の本に触れれば、あの事件の日に戻り、爆発を無かったことにすることも可能なのですね。」
 不敵な笑みを浮かべた。
「理論的にはそうなのですが。残念ながら、そう簡単なことじゃないみたいです。」
「どういうことですか。詳しく教えて頂けませんか。」
「ええ。私が聞いている話ですけど、過去は簡単に変えられないみたいです。過去改編で大きく歴史が変わる場合は不思議な力が働いて改変行為が無かったことになるみたいです。些細なことが大きく歴史を変える行為になることもあるみたいです。」
「つまり、"バタフライエフェクト"……か。」
 彼は軽く頷いた。
「はい。だからと言って、些細すぎる歴史改変は、"歴史の修復作用"によって、結局同じ未来になることもあるようで。」
「つまり、大きく変えてもいけない。だからと言って、ほんの少しだけ過去の行動を変えても歴史は変わらない、ということですね。」
「その通りです。」
 彼は少し困り顔を見せた。
「では、爆破テロ事件の結末は変えられないと。」
「いいえ。絶対に変えることができます。」 
「その根拠はあるのかい?」
 彼女はハッとした表情を見せ、すぐに優しく微笑み返した。
「何れ分かります。私に分かるのは、爆破テロ事件だけ変えようとしても何も変わらないことです。」
「つまるところ?」
「爆破テロ事件以前に他の事件についても幾つか変えないといけない過去があるのです。」
「なるほど。それで過去を一つ一つ変えて行けば、最終的には死に繋がるあの事件の結果も変わるということですね。逆に、その過程をすっ飛ばしたら過去を変えることはできない、ということですね。」
 その言葉に満面の笑みを浮かべる。「流石、ルインさんです。物分りが良すぎて助かります。」
「しかし、僕は君に会ったことがあるのかな。君は僕のことを知っているみたいですけど。」
 彼女は優しく微笑み「今はまだ知らない関係です。過去が変われば、何れ知り合うかも知れませんね」と伝えた。すぐに言葉を紡ぐ。「そんなことよりも早く過去を変えに行きたいと思いませんか」
「ここに長居する必要性も無さそうだし、そうすることにしようか。」と独り言を呟いた後、おおとりルインは彼女の近くへと進んだ。
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