タイムリープミステリー『ルインと人生図書館』

ふるなゆ☆

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2章~燃焼(もえ)る事件~

燃焼る④

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 名古屋駅から一人で歩いていく。
 アパートの中に一角。そこのレンタルスペースの一つは『龍の宮』が貸し切っていただった。
 白い机。それを囲むキャスター付きの椅子。
 その椅子に座るのは七人の男女であった。
 会議室と化したその場は荘厳な雰囲気が漂う。置かれていたホワイトボードには「幹部会」と書かれており、その下に目次が書かれていた。
 一、神喰らいについての報告
 一、新幹部の認定
 一、今後の方針について
 この三つを中心にして話していくようだ。
 机の前に立つ乙坂姫華。それを机を挟んで囲んでいる六人は彼女を見つめている。
「まず『龍の宮』を裏切り、団体の利益などを乗っ取ろうと企てたズゥトンシャは"神の加護"により、焼失しました。これからズゥトンシャはいなかったものとして扱っていきますので、ご了承ください。」
 横から「裏切り者、神の天罰、ざまぁみろ」と五七五調の言葉が聞こえた。
 この件について横にいた女性に「神の加護とはなんですか?」と聞いたが、「詮索すな、この件については、詮索すな夏」と返された。
 議題の一つは終わり、次の議題となる。
 その議題は新幹部の紹介がメインとなる。その場で一人起立をする。「【鳳ルイン】です。今は辞めましたがホストをやっていました。が気になって入教を決意しました。よろしくお願いします。」
 実際は依頼人の依頼で『龍の宮』を壊滅させに来たのだが、それを言う訳にはいかないため、このような理由に変えることにした。
 他の人達についても紹介があるようだ。
 初めは教祖からだった。
「教祖の【乙坂姫華】です。『龍の宮』の拡大のために共に努力していきましょう。」
 彼女はそのままゆっくりと椅子に腰掛けた。
 次に立ったのは白髪混じりのお婆さんだった。少しだけ背骨が曲がっているせいで背が小さく見える。しかし、ハキハキとした表情が若く見せている。
「幹部の【鳩平コハク】だよ。入ったからには尽くして貰うからな」とキツめな口調で言い放っていた。
 次に立つのは眼鏡をかけた男性だった。固めた髪はピシッとした印象を与える。キリッとした面立ちが真面目な雰囲気を出していた。
「【八木やぎ剛人ごうと】です。何か困ったことがあれば遠慮なく仰って下さい。答えられる範囲で答えますので。」言葉にも真面目さが滲み出ていた。
 続いて立ったのは横にいる女性。重めの髪と寒色の眼鏡が暗めの印象を与えているクロネだった。
「うちは幹部の【烏森クロネ】や。こん中じゃ、教祖様とコハクさん、そしてうちが古参なんやで。うち、趣味は俳句なんよ。好きな俳句は尾崎放哉の「咳をしても、一人」や。もし俳句好きならお話しよや。じゃなくても、お話しよーな。これからよろしくな。」
 相変わらず見た目とは逆に元気な声が大きなギャップを与えている。
 続いて立ったのは長身の男だった。二メートルはいかないまでも百九十はあるのではないだろうか。だが、すぐに猫背になった。少しばかし顔はやつれていて、目にはクマがある。瞳は美しく輝いていて不思議な印象を与えている。全体的にミステリアスな雰囲気だ。
「僕は『龍の宮』唯一の研究員、幹部の【嘴平はしひらがい】だよ。ははっ、よろしく。」
 その声すら怪しさが滲み出ていた。
 最後に立ったのは相変わらず黒いジャージを着ている男だった。
「【猿渡驚輝】だ。一応、右も左も分からねぇだろうから、俺の下で身の振り方教えてやるよ。ひとまず明日からよろしくな。」
 これにて自己紹介が一通り終わった。
 最後の議題はこれからの『龍の宮』についてだった。訪問と電話を増やすことになったみたいだ。今まではコハクが中心に見ていたが、時折、驚輝やクロネも勧誘の仕事の手伝いをすることになったようだ。ルインは驚輝に着いて仕事を覚えていくことになった。


 夕焼け小焼け。
 モタローと落ち合い、定食屋へと移動した。彼に幹部会での出来事を説明する。
「なるほど。中心メンバーに近づいた訳だね。」
 豚の生姜焼き定食がやって来た。
「実言うと、俺は火事について探し回ったたんだ。けれども、事件の真相については掴めなかったよ。やはり、ルイン君の言ってた油を塗った縄入り袋が気になるけど、分からないことだらけだねぇ。」
 細切りキャベツを肉で包んで口に運んだ。
 今度はホカホカのご飯を肉で包んで口に運んだ。
「実は、警察に伺ってね。そしたら、火の不始末じゃないかと言われたよ。だけどね、実は違うと俺は思うんだ。例えば、袋の中に発火装置が入ってたとか……ね。そういうのを入れてたかどうかは分かるかい?」
「いえ。そこまで詳しくは見れていないので。その線も捨てられないですね。」
 柔らかい肉が口の中で解ける。
「ひとまずルイン君は敵の中枢で情報を集めてくれ。俺は別ルートで火事について探ってみるとするよ。」
 外は暗闇に落ちた。
 テーブルの上は食べ終わった食器が乗っていた。


 *


 プルルルルルル。
 電話口から自らの招待を明かす。しかし、宗教勧誘の電話と分かるとすぐにガチャリと通話は切られる。
「まっ、電話勧誘なんてこんなもんだよな。」
 そう言いながら粘って電話をかけ始めて二時間は経っただろう。成果という成果はあげられなかった。
 彼は幹部として電話勧誘の指示をしながら、自らも勧誘作業を行っていた。見習い幹部はそれを覚えるためにすぐ近くで待機している。時折、電話をかけるが残念ながら繋がらない。
「電話勧誘なんて餌を付けない釣りと同じもんだよな。大量に垂らして一本でも釣れれば良し。正直、割に合わないよな、仕事量と結果がな。」
 ダラダラと文句を放ちながら「一緒にメシでも行こうぜ」と、彼はお気に入りと評する店へと連れていった。
 名古屋市から外れていく。
 少し古びたランチのある店だった。手馴れた雰囲気で暖簾をかき分けて行く。厨房のおばさんの「驚輝君いらっしゃい」に対して、「あの席使ってもいいか」と返す。「ああ、いいさ、使いな」とさらに返ってくる。
 彼に連れられて個室の席へと来た。
 おばさんが水を持ってくる。
 彼はその水を思いっきり口の中へと入れた。飲み終わった後のプハーが響き渡った。
「この店は俺の昔からのお気に入りなんだ。」
 そう言いつつ料理を頼む。彼は「いつもの」という四文字だけを言い放った。
 メニュー表を見て何にするかを決める。そして、ケチャップオムライスを注文した。
 オムライスが届く。反対側の席に届けられたのはカツ丼だった。いただきます。二人はまず一口食べる。
「さて、仕事については大抵覚えてきたな。」
「ええ。もちろんですよ。」
「アンタ元ホストなんだってな。」
「ええ。」
「新入りの癖に幹部になった理由が分かったぜ。」
「どういうことです?」
「噂で聞いたんだが、ホストでも地元じゃ相当有名らしいじゃねぇか。そんな奴が下っ端じゃもったいないってもんだ。幹部なら、少なからずファン的な要素がそこに生まれる。幹部のアンタに近づくにはそれなりに献金や献身しなきゃならねぇ、となればこっちに利得が発生するだろ。そうなりゃ願ったり叶ったりってこったな。」
「そんなもんでしょうか?」
「そんなもんだろうよ。」
 そんな話の流れはここでばっさりと止まってしまった。
 何秒かの合いの手の間。
 彼は両肘を着いて手を組む。その組んだ腕に体重を乗せていった。
「まっ、そんな話をするためにここに呼んだ訳じゃねぇんだよな。ずばり言うぞ。お前、何を企んでいるんだ?」
 惚けてみる。「なんの事でしょう?」
 しかし、彼は鼻で笑っていた。
「惚けても無駄だ。アンタが来た時にもう一人付き添いがいたよな? 今そいつが何してるのか知ってるか?」
 間が空いた。
「図星だな。確かモ……」「モタローさんですかね」「そうだモタローだ。そいつが昨日から、いや一昨日から何してるか知ってるか。コソコソと『龍の宮』の闇の部分を嗅ぎ回ってる。お互い、見つかった方はただではすまねぇ程のな。」
 食べかけの料理に手が付かない。徐々に冷めていく。
「この話はまだ俺しか気付いちゃいねぇはずだ。アンタは手作業の仕事がしたいってことでコハクに委ねたが、モタローは俺が預かった。俺ら以外は、アンタらが二人で来たことも気付いちゃいねぇ。まっ、俺の目下になったからこそ、俺が気付けたんだけどな……。」
 彼は片手に持った箸を一膳、顔に向けて指差した。
「で、だ。アンタら何企んでるんだ?」
 涼し気な顔をしていた。「さあ?」
「惚ける気か。じゃあ、一つ付け加えて置こう。条件次第では俺はアンタらの味方になってやろう。」
「条件?」
「そうだ。俺はな、自分で言って何なんだが、『龍の宮』一と言っても過言ではない程の守銭奴だ。金次第ではアンタらを助けてやってもいい。それどころかアンタら側に着いてやってもいいってんだ。」
 しかし、間が空いた。
「信じられねぇか。じゃあ、こうしよう。俺の過去を開示する。そうすりゃ何故俺が守銭奴なのかも分かるはずだ。それに納得すりゃ、アンタも情報を開示してくれりゃいい。とりあえず冷めないうちにご飯を食べちゃおうぜ。」
 彼は半分残されたカツ丼を食べていった。それを見て、残されたオムライスを食べていく。無言で食べていくと、すぐに皿は空になった。
 飲み干された水。コップの中の氷がカランコロンと音を鳴らしていた。
「俺が『龍の宮』に入教したのは一年前満たないぐらいの時だ。それまでは高卒後、ずっと町工場で働いてたんだ。鏡の製造工場だった。それなりに不都合なく働いてきた。けどな、悲劇が起こっちまった。その日は小雨の降る天気の悪い最悪な日だった。」
 コップに水を入れては、すぐに飲み干していた。
「ちょっと急いでたんだ。信号のない町角から大通りに出ようとしたんだ……。俺が悪いのは分かってる。不注意だったんだ。車を確認せずに、というか止まりもせずに左折しようとしてしまった。」
 しんみりとした雰囲気が広がる。
 彼の声はどこか悲しい音色を響かせていた。
「事故ったんだよ。俺は軽傷で済んだ。だが、助手席に座ってた妹は……」
 彼は吸っていいかと聞いた。それに頷くと、そのまま煙草を取り出してすぅっと吸っていった。
「意識不明の重体さ。今も意識は戻らない。何とか延命しているが、意識はもう戻らないかも知れない。そんなレベルだ。だけどな――」
 吐かれた白い煙が換気扇の中へと吸い込まれていく。トンっと灰皿に叩かれた煙草は、カスを灰皿の中へと落としていった。
「アメリカには、そんな状態からでも救える手術があるかも知れないと言うんだ。今のアイツを……アイツの意識を取り戻す手術が出来るんだ。だけど、金がねぇんだ。親は先立たっちまっていねぇ。身寄りはあんま期待できねぇ。その手術をするためには俺が金を貯めるしか道はねぇんだ。何しろアメリカは保険が効かねぇし、手術はバカ高いからな。」
 彼は肩肘を机に置いた。ゆらりゆらりと白い煙が上へと上っている。
「いいか。俺は妹のためなら何でもする。妹が意識を取り戻すんなら何だってしてやる。どんな手を使ったって、金を貯めてやる。ある日、俺は『龍の宮』に出会ったんだ。きっかけはお前と同じ「過去を変える」ことに興味があったからだが、すぐに考えが変わった。そんな非現実的な方法じゃなくて、現実的な方法を見つけたんだ。それが『龍の宮』で金を稼ぐことだ。」
 煙草を灰皿に押し付ける。煙草は虚しくもぐしゃりと灰皿の上に置かれていた。
「俺は信者Aとなった。そして、俺の町工場で身に付けたスキルを活かし、宗教用具の製作に携わった。卓上ミラーは十八番だ。勧誘とやらも頑張った。悪徳商法だろうが何だってやった。まだまだ目標金額には満たないが、相当金を貯めた。すぐに俺は稼ぐ力に秀た人物として幹部となった。幹部となった今でも俺の考えは変わらない。稼いで稼いで、手術費用を稼ぐんだ。それが俺が守銭奴である理由だ。」
 彼はコップに水を入れては飲んだ。
「最近までは軌道に乗ってたが、今後は停滞するのは目に見えてる。ここでの報奨金が多けりゃ、損はしねぇんだ。つまり、金次第では裏切ってもいいんだ。損はしねぇからな。」
 それを見て、コップの中の水を飲んで、氷だけになったコップに水を入れ直した。入れ直した水を少しだけ飲む。
「僕はモタロー探偵事務所の見習い探偵兼探偵助手さ。それでどれぐらいで手を打ってくれんですかい。」
 指で合図をする。人差し指……はバッテンを示される。人差し指と中指、間を開けた後にゆっくりゆっくりと薬指を上げる。彼はそれに対して了承の意を示した。
「三十万で手を打とう。」
「了解しましたよ。」
 残った水を飲み干した。
「僕は信者のお子さんから依頼を貰ったのですよ。信者の方はあまりにものめり込みすぎて身を滅ぼしかねないとね。それで『龍の宮』を調査することにしたんですよ。その間に起きた火事の事件から、『龍の宮』を怪しいと踏んでるんですよ。」
「ビンゴだろうな。火事の件についちゃ俺も原理は分からねぇ。が、一枚絡んでるのは幹部らの態度で理解してる。じゃあ、俺はアンタとのパイプになってやろう。」
「パイプ?」
「そうだ。俺のコネで、幹部だろうが連絡を取って話合える機会を作ってやる。それを生かすも殺すもアンタ次第だ。下手すりゃアンタらの計画がバレてズゥトンシャみたいに殺されるかもな。そんときは、俺はお前を裏切るがな。」
「分かりました。その案に乗りましょう。そう言えばですが、ズゥトンシャは何故殺されたんですか?」
「それも興味無かったから知らねぇな。基本、興味ねぇことは知らねぇからな。ただ、裏切りを企てたのは知ってる。そう幹部会で言ってたからな。」


 外は明るく眩い。
 彼が繋げてくれる人物は限られていた。
 まず教祖は候補から外した。また彼曰く、コハクは非常に強い『龍の宮』サイドのため、彼女の近くで嗅ぎ回るのは危険だということで除外。剛人は県外におり、戻ってくるのは一週間後になるだろうとのことだった。時間がないため除外。
 繋げてくれる幹部は次の二人。一人はクロネ。ただまあまあ強めの『龍の宮』サイドのようだが、コハクと比べれば危険度はまだ低い方とのこと。もう一人は亥。いけ好かない男だと言うが、危険度は低いみたいだ。
 彼はスマホを取り出して電話をした。
「連絡は取れた。今すぐにでも会ってくれるらしい。」
 車に乗り込んで、目的地に向かった走っていった。


*


 扉を開くとそのは少し薄暗い研究室だった。物が乱雑に置かれている。
 終わったら連絡をくれ、と言って彼は去っていった。
 亥は椅子から立ち上がる。背が高いが、すぐに猫背になった。そのせいで背の高さの強みが薄まっている。
「ようこそ。僕の研究室へ。」
 客をもてなすようにインスタントのコーヒーが用意された。
「ここでは何を研究しているんですか?」
「気になるかい。ここでは化学ばけがくを取り扱っている。特に、爆弾を……ね。ここは海が近くて助かるよ。」
 難しそうな本が乱雑に散らかっている。
「話は聞いてるよ。火事について知りたいってね。」
「はい。可能な限りでいいです。」
 座りながら右手でカップを持ち、飲まないまま話を進めていった。ただ、お世辞にも上手な持ち方ではなく、カップから液が零れてしまいそうだ。
「袋の中に機械が入っている。その機械を遠隔で発火させるんだ。……簡単だろう。ただ、違うかも知れない。」
 彼は零しそうなカップを独特な飲み方で飲んでいく。啜る音が響いている。
「もし違う場合はプラズマかも知れないね。アンタはプラズマについて知っているかい?」
「プラズマ……電気のことですか?」
「そうだね。近くに電気を発生させて火をつけたんだと思うよ。」
 飲み終わったカップは置き皿へと置かれる。
「これで話はどうだい? 満足したかい?」
「ええ。貴重なお話ありがとうございました。」
 研究室を後にする。
 用意された車で道徳駅近くの工場へと向かった。車の中、移りゆく景色の中、頭の中で一週間の流れを思い出していく。濃い一週間だった。
 次の日は来ることはなく、図書館へと戻っていった。
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