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第三章
洞窟を渡れその一
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一
人生はままならないし、物事は自分の思うようには運ばない。
人生も洞窟も一寸先は闇だ。
入り組んだ洞窟内を手探りで歩きながらセシルはそう思った。
セシルは一七歳、華奢で細身な身体と美しい黒髪を持った少女だ。
この<サローヤ>の洞窟で仲間とはぐれてから、すでに半日近くが経過していた。
サローヤの洞窟はいくつもの洞窟が枝分かれしていて、迷路のように入り込んでいる。
この洞窟内では珍しい鉱石や高価な宝石が眠っていて、深部に進めば進むほど、これらの貴重品が採取できた。
だが、危険も多い。
洞窟には危険な魔物が跋扈しており、逃げ込んできた賞金首などが暗闇の中に潜んでいるのだ。
賞金首はこの洞窟に足を踏み入れた人間達を襲い、その持ち物を奪って暮らしている。
ここならば外の世界と比べて、追っ手からも逃れやすいというわけだ。
もっとも、賞金首にとっても洞窟は、完全に安全な場所というわけでもない。
賞金首を探し求めて洞窟内へとやってくる賞金稼ぎもいれば、危険な魔物に襲われる心配もあるからだ。
賞金首に限らず、真の意味で安全な場所など、この世界のどこにも存在しないと言われれば、それまでの話ではあるが。
そして洞窟内での危険性は、魔物や賞金首だけに留まらない。
突然の落石に見舞われて命を落とす場合だってあるし、暗がりの下にある落とし穴にハマって大怪我をすることもある。
又、地面から突き出た先の鋭い石筍などは、転べば容赦なく犠牲者の肉を突き破るだろう。
他にも洞窟の場所によっては硫化水素が発生し、その箇所に充満していることもある。
伝染病や傷口からの感染症にも警戒しなければならない。
言ってみればこれらは、洞窟の内部が作り上げた天然のトラップだ。
そして洞窟に潜むこの数々のトラップは、
警戒心の足りない怠惰(たいだ)な侵入者達の命を無慈悲に刈り取っていく役割を果たしている。
恐怖心を押さえ込むようにセシルはメイジ用の白い杖を握り締めた。
だが、いくら杖を強く握り締めても、一人きりで暗い洞窟内を彷徨う不安や心細さは、完全に拭うことは出来なかった。
それでも握っている内に徐々にだが、恐怖心も和らいできた。
この杖は、メイジが魔術を使用する際のデバイスとしては、もっとも一般的なものだ。
セシルも魔術を習い始めて以来、ずっとこの杖を愛用している。
セシルはライトの魔法で現れた淡い灯りを頼りに、足元に転がった石や石筍に注意しながら奥へと進んだ。
静かな洞窟内にセシルの足音だけが嫌に響く。
その内にセシルは、道の横側が大きなくぼみになっている場所へと出た。
くぼみを横切る前に杖を構えて警戒する。
くぼみの暗がりから、何が飛び出してくるかわからないからだ。
この暗がりに魔物や賞金首が潜んでいる可能性は充分にある。
セシルは洞窟の壁面に背を向けると、杖を前に出して横歩きで通り過ぎようとした。
その時、壁面から両腕が現れたかと思うと、セシルの腰の辺りを掴んだ。
「キャアアアアッッッ」
セシルの悲鳴が洞窟内にこだまする。
その悲鳴を聞きつけたオーク達が、ドスドスと地響きを立てながらセシルの元へと群がる。
セシルの腰を掴んだ者の正体──それは壁面に擬態した洞窟コボルトだった。
魔物の中には、共存して生活や狩りを営む者達もいる。
セシルはコボルトの腕を振りほどくと、目の前に現れた四体のオークと向き合った。
だが、正直言って勝てる気がしない。
メイジとしてのセシルの腕前は、見習いに毛が生えた程度のもので、
四体ものオークを同時に相手取るのは、かなり厳しいと言わざるを得ない。
というよりもセシルはオーク一体と戦って、なんとか勝てるくらいの技量しか持ち合わせていない。
それが四体もいるのだから、この状況は絶望的だ。
オークの八つの赤い眼が、獲物へと降り注がれる。
セシルは生唾を飲み込んだ。もうおしまいだ……心の内でセシルはそう思った。
だが、洞窟内部にいたのは、オークやコボルトだけではなかった。
「悪いがその娘を離してやっちゃくれないか。オタクらも自分の住居を荒らされて腹が立ってるだろうけどな」
加えたモンキーパイプの煙をくゆらせながら、そこに姿を現したのは、一人の若者だった。
人生はままならないし、物事は自分の思うようには運ばない。
人生も洞窟も一寸先は闇だ。
入り組んだ洞窟内を手探りで歩きながらセシルはそう思った。
セシルは一七歳、華奢で細身な身体と美しい黒髪を持った少女だ。
この<サローヤ>の洞窟で仲間とはぐれてから、すでに半日近くが経過していた。
サローヤの洞窟はいくつもの洞窟が枝分かれしていて、迷路のように入り込んでいる。
この洞窟内では珍しい鉱石や高価な宝石が眠っていて、深部に進めば進むほど、これらの貴重品が採取できた。
だが、危険も多い。
洞窟には危険な魔物が跋扈しており、逃げ込んできた賞金首などが暗闇の中に潜んでいるのだ。
賞金首はこの洞窟に足を踏み入れた人間達を襲い、その持ち物を奪って暮らしている。
ここならば外の世界と比べて、追っ手からも逃れやすいというわけだ。
もっとも、賞金首にとっても洞窟は、完全に安全な場所というわけでもない。
賞金首を探し求めて洞窟内へとやってくる賞金稼ぎもいれば、危険な魔物に襲われる心配もあるからだ。
賞金首に限らず、真の意味で安全な場所など、この世界のどこにも存在しないと言われれば、それまでの話ではあるが。
そして洞窟内での危険性は、魔物や賞金首だけに留まらない。
突然の落石に見舞われて命を落とす場合だってあるし、暗がりの下にある落とし穴にハマって大怪我をすることもある。
又、地面から突き出た先の鋭い石筍などは、転べば容赦なく犠牲者の肉を突き破るだろう。
他にも洞窟の場所によっては硫化水素が発生し、その箇所に充満していることもある。
伝染病や傷口からの感染症にも警戒しなければならない。
言ってみればこれらは、洞窟の内部が作り上げた天然のトラップだ。
そして洞窟に潜むこの数々のトラップは、
警戒心の足りない怠惰(たいだ)な侵入者達の命を無慈悲に刈り取っていく役割を果たしている。
恐怖心を押さえ込むようにセシルはメイジ用の白い杖を握り締めた。
だが、いくら杖を強く握り締めても、一人きりで暗い洞窟内を彷徨う不安や心細さは、完全に拭うことは出来なかった。
それでも握っている内に徐々にだが、恐怖心も和らいできた。
この杖は、メイジが魔術を使用する際のデバイスとしては、もっとも一般的なものだ。
セシルも魔術を習い始めて以来、ずっとこの杖を愛用している。
セシルはライトの魔法で現れた淡い灯りを頼りに、足元に転がった石や石筍に注意しながら奥へと進んだ。
静かな洞窟内にセシルの足音だけが嫌に響く。
その内にセシルは、道の横側が大きなくぼみになっている場所へと出た。
くぼみを横切る前に杖を構えて警戒する。
くぼみの暗がりから、何が飛び出してくるかわからないからだ。
この暗がりに魔物や賞金首が潜んでいる可能性は充分にある。
セシルは洞窟の壁面に背を向けると、杖を前に出して横歩きで通り過ぎようとした。
その時、壁面から両腕が現れたかと思うと、セシルの腰の辺りを掴んだ。
「キャアアアアッッッ」
セシルの悲鳴が洞窟内にこだまする。
その悲鳴を聞きつけたオーク達が、ドスドスと地響きを立てながらセシルの元へと群がる。
セシルの腰を掴んだ者の正体──それは壁面に擬態した洞窟コボルトだった。
魔物の中には、共存して生活や狩りを営む者達もいる。
セシルはコボルトの腕を振りほどくと、目の前に現れた四体のオークと向き合った。
だが、正直言って勝てる気がしない。
メイジとしてのセシルの腕前は、見習いに毛が生えた程度のもので、
四体ものオークを同時に相手取るのは、かなり厳しいと言わざるを得ない。
というよりもセシルはオーク一体と戦って、なんとか勝てるくらいの技量しか持ち合わせていない。
それが四体もいるのだから、この状況は絶望的だ。
オークの八つの赤い眼が、獲物へと降り注がれる。
セシルは生唾を飲み込んだ。もうおしまいだ……心の内でセシルはそう思った。
だが、洞窟内部にいたのは、オークやコボルトだけではなかった。
「悪いがその娘を離してやっちゃくれないか。オタクらも自分の住居を荒らされて腹が立ってるだろうけどな」
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