異世界に降り立った超人──アーヴィンの章

チリノ

文字の大きさ
18 / 30
第三章

洞窟を渡れその一

しおりを挟む


人生はままならないし、物事は自分の思うようには運ばない。

人生も洞窟も一寸先は闇だ。

入り組んだ洞窟内を手探りで歩きながらセシルはそう思った。

セシルは一七歳、華奢で細身な身体と美しい黒髪を持った少女だ。

この<サローヤ>の洞窟で仲間とはぐれてから、すでに半日近くが経過していた。
サローヤの洞窟はいくつもの洞窟が枝分かれしていて、迷路のように入り込んでいる。

この洞窟内では珍しい鉱石や高価な宝石が眠っていて、深部に進めば進むほど、これらの貴重品が採取できた。

だが、危険も多い。
洞窟には危険な魔物が跋扈しており、逃げ込んできた賞金首などが暗闇の中に潜んでいるのだ。

賞金首はこの洞窟に足を踏み入れた人間達を襲い、その持ち物を奪って暮らしている。

ここならば外の世界と比べて、追っ手からも逃れやすいというわけだ。
もっとも、賞金首にとっても洞窟は、完全に安全な場所というわけでもない。

賞金首を探し求めて洞窟内へとやってくる賞金稼ぎもいれば、危険な魔物に襲われる心配もあるからだ。
賞金首に限らず、真の意味で安全な場所など、この世界のどこにも存在しないと言われれば、それまでの話ではあるが。

そして洞窟内での危険性は、魔物や賞金首だけに留まらない。
突然の落石に見舞われて命を落とす場合だってあるし、暗がりの下にある落とし穴にハマって大怪我をすることもある。

又、地面から突き出た先の鋭い石筍などは、転べば容赦なく犠牲者の肉を突き破るだろう。
他にも洞窟の場所によっては硫化水素が発生し、その箇所に充満していることもある。

伝染病や傷口からの感染症にも警戒しなければならない。

言ってみればこれらは、洞窟の内部が作り上げた天然のトラップだ。

そして洞窟に潜むこの数々のトラップは、
警戒心の足りない怠惰(たいだ)な侵入者達の命を無慈悲に刈り取っていく役割を果たしている。

恐怖心を押さえ込むようにセシルはメイジ用の白い杖を握り締めた。

だが、いくら杖を強く握り締めても、一人きりで暗い洞窟内を彷徨う不安や心細さは、完全に拭うことは出来なかった。
それでも握っている内に徐々にだが、恐怖心も和らいできた。

この杖は、メイジが魔術を使用する際のデバイスとしては、もっとも一般的なものだ。
セシルも魔術を習い始めて以来、ずっとこの杖を愛用している。

セシルはライトの魔法で現れた淡い灯りを頼りに、足元に転がった石や石筍に注意しながら奥へと進んだ。
静かな洞窟内にセシルの足音だけが嫌に響く。

その内にセシルは、道の横側が大きなくぼみになっている場所へと出た。
くぼみを横切る前に杖を構えて警戒する。

くぼみの暗がりから、何が飛び出してくるかわからないからだ。
この暗がりに魔物や賞金首が潜んでいる可能性は充分にある。

セシルは洞窟の壁面に背を向けると、杖を前に出して横歩きで通り過ぎようとした。

その時、壁面から両腕が現れたかと思うと、セシルの腰の辺りを掴んだ。
「キャアアアアッッッ」

セシルの悲鳴が洞窟内にこだまする。
その悲鳴を聞きつけたオーク達が、ドスドスと地響きを立てながらセシルの元へと群がる。

セシルの腰を掴んだ者の正体──それは壁面に擬態した洞窟コボルトだった。
魔物の中には、共存して生活や狩りを営む者達もいる。

セシルはコボルトの腕を振りほどくと、目の前に現れた四体のオークと向き合った。
だが、正直言って勝てる気がしない。

メイジとしてのセシルの腕前は、見習いに毛が生えた程度のもので、
四体ものオークを同時に相手取るのは、かなり厳しいと言わざるを得ない。

というよりもセシルはオーク一体と戦って、なんとか勝てるくらいの技量しか持ち合わせていない。
それが四体もいるのだから、この状況は絶望的だ。

オークの八つの赤い眼が、獲物へと降り注がれる。
セシルは生唾を飲み込んだ。もうおしまいだ……心の内でセシルはそう思った。

だが、洞窟内部にいたのは、オークやコボルトだけではなかった。

「悪いがその娘を離してやっちゃくれないか。オタクらも自分の住居を荒らされて腹が立ってるだろうけどな」

加えたモンキーパイプの煙をくゆらせながら、そこに姿を現したのは、一人の若者だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...