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第三章
洞窟を渡れその二
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オーク達が闖入者(ちんにゅうしゃ)へと振り返る。
身を包んでいる黒い外套に揺らし、若者がツカツカとオーク達に近づいていく。
「新シイ獲物ガ来タ……報酬ガフエル。今日ハタラフク飯ガ食エルゾ……」
そう呟くとオーク達は手に持った武器を構え、血糊で錆び付いたナタや斧を若者の脳天目掛けて振り下ろす。
セシルは思わず目を閉じた。
だが、洞窟内に木霊(こだま)したのは犠牲者の叫び声ではなく、連続する激しい銃声音だった。
セシルはそっと瞼を開いた。
地面に横たわる四体のオークの亡骸──仲間が殺されたことで、恐慌をきたしたコボルトが、
近くにあった小さな洞穴に逃げ込む。
若者はコボルトには手出しせず、逃げていくその後ろ姿を黙って眺めていた。
ただ、親指を弾くと、穴に逃げていくコボルトの尻に何か豆粒のようなものを取り付けた。
コボルトはそれには気づかず、完全に穴の中へと姿を消した。
安堵したセシルは思わず胸に手を置き、その桃色の唇から小さく溜息を漏らした。
「ありがとう、助かったわ、私はセシル、あなたは?」
抜き放ったマジックガンをホルスターに収め、若者が答える。
「俺はアーヴィンだ、それよりもオタク、怪我はないかい?」
二
洞窟内の暗がりの下、アーヴィンとセシルは並んで歩いていた。
「ねえ、アーヴィンは洞窟の鉱石狙いで来たの?それとも魔物が隠してるっていう財宝目当て?」
「強いて言えば、両方だし、他にもちょっとした目的があるんだ」
「ふうん……」
素っ気なく返事をしながら、セシルが横目でチラリとアーヴィンを見やる。
悪い人間ではなさそうだが、しかし、油断は禁物だ。
オークから助け出してくれたとは言え、もしかしたらこの男だって野盗か何かの類かもしれないのだ。
だが、そんなセシルの胸の内とは裏腹にアーヴィンは、相変わらずモンキーパイプを吹かしている。
甘い香りを漂わせるモンキーパイプの煙が、暗闇の中でたゆたいながら溶け込んでいく。
「それでアーヴィンの仲間はいないの?私は三人で来たんだけど、仲間とはぐれちゃって……」
モンキーパイプに詰め直したハーブに火をつけると、ゆっくりと吸い込みながらアーヴィンは答えた。
「いや、生憎と俺は一人さ。人と組む事もあるけどね。それよりも仲間とはどこではぐれたんだい?」
「それが、洞穴から掛かってるハシゴを登ろうとしたら、急に切れちゃって……
そうしている内に魔物の雄叫びが聞こえてきたから、怖くなって一旦その場から離れたのよ」
「それで道に迷ったってわけかい?」
アーヴィンがセシルに聞き返した。
「ええ、恥ずかしながらね……」
バツが悪そうにセシルが苦笑いを浮かべた。
「まあ、いくら冷静になれと言われても、いざとなれば、人間誰もが慌てるもんさ」
それから一刻(二時間)ほど進み、水場を見つけた二人は一旦、そこで休憩を取ることにした。
水場は小さな地底湖だった。水面は鮮やかなエメラルドグリーンの輝きに満ち、よく見ると魚も泳いでいた。
一口飲むとひんやりと冷たい。
石灰岩で濾過された地底湖の水は、カルシウムなどのミネラルが豊富だ。
その時だった。獣の如き咆哮が、突如として洞窟内に響いてきたのは。
思わずセシルは杖を取って構えた。
「怖がることはないさ。あれは壁や天井の亀裂にできた風が突き抜けた時に鳴る音なんだ。
それより茶でも一杯どうだい。疲れが取れるぜ」
そう言って、茶を沸かしていたアーヴィンが慌てるセシルに微笑む。
「……一杯貰うわ」
アーヴィンが差し出したコップの茶を啜りながら、セシルが決まりの悪そうに俯く。
「セシルは洞窟の探索は不慣れなのかい?」
「……今回が二回目ね。でも、最初の洞窟はこんなに入り込んでなかったし、
全長だって三ガドル(三キロ)くらいだったわ……」
「なるほどな。それだときついかもしれんな。この洞窟は未だに全長がわかってないんだ。
それに迷路のように入り込んでるし、枝分かれしてるからな。
おまけに魔物や盗賊もうようよしてるときてるから厄介なもんさ」
モンキーパイプの煙を吐き出しながら、アーヴィンが首を振って見せる。
「本当は浅い部分しか探索する予定はなかったんだけどね……なんで、こんな事になっちゃったんだか……」
「未来は未定、一寸先は誰にもわからないし、計画だって思い通りにゃ運ばないもんさ」
それから二人はしばしの間、休息を取り続けた。
身を包んでいる黒い外套に揺らし、若者がツカツカとオーク達に近づいていく。
「新シイ獲物ガ来タ……報酬ガフエル。今日ハタラフク飯ガ食エルゾ……」
そう呟くとオーク達は手に持った武器を構え、血糊で錆び付いたナタや斧を若者の脳天目掛けて振り下ろす。
セシルは思わず目を閉じた。
だが、洞窟内に木霊(こだま)したのは犠牲者の叫び声ではなく、連続する激しい銃声音だった。
セシルはそっと瞼を開いた。
地面に横たわる四体のオークの亡骸──仲間が殺されたことで、恐慌をきたしたコボルトが、
近くにあった小さな洞穴に逃げ込む。
若者はコボルトには手出しせず、逃げていくその後ろ姿を黙って眺めていた。
ただ、親指を弾くと、穴に逃げていくコボルトの尻に何か豆粒のようなものを取り付けた。
コボルトはそれには気づかず、完全に穴の中へと姿を消した。
安堵したセシルは思わず胸に手を置き、その桃色の唇から小さく溜息を漏らした。
「ありがとう、助かったわ、私はセシル、あなたは?」
抜き放ったマジックガンをホルスターに収め、若者が答える。
「俺はアーヴィンだ、それよりもオタク、怪我はないかい?」
二
洞窟内の暗がりの下、アーヴィンとセシルは並んで歩いていた。
「ねえ、アーヴィンは洞窟の鉱石狙いで来たの?それとも魔物が隠してるっていう財宝目当て?」
「強いて言えば、両方だし、他にもちょっとした目的があるんだ」
「ふうん……」
素っ気なく返事をしながら、セシルが横目でチラリとアーヴィンを見やる。
悪い人間ではなさそうだが、しかし、油断は禁物だ。
オークから助け出してくれたとは言え、もしかしたらこの男だって野盗か何かの類かもしれないのだ。
だが、そんなセシルの胸の内とは裏腹にアーヴィンは、相変わらずモンキーパイプを吹かしている。
甘い香りを漂わせるモンキーパイプの煙が、暗闇の中でたゆたいながら溶け込んでいく。
「それでアーヴィンの仲間はいないの?私は三人で来たんだけど、仲間とはぐれちゃって……」
モンキーパイプに詰め直したハーブに火をつけると、ゆっくりと吸い込みながらアーヴィンは答えた。
「いや、生憎と俺は一人さ。人と組む事もあるけどね。それよりも仲間とはどこではぐれたんだい?」
「それが、洞穴から掛かってるハシゴを登ろうとしたら、急に切れちゃって……
そうしている内に魔物の雄叫びが聞こえてきたから、怖くなって一旦その場から離れたのよ」
「それで道に迷ったってわけかい?」
アーヴィンがセシルに聞き返した。
「ええ、恥ずかしながらね……」
バツが悪そうにセシルが苦笑いを浮かべた。
「まあ、いくら冷静になれと言われても、いざとなれば、人間誰もが慌てるもんさ」
それから一刻(二時間)ほど進み、水場を見つけた二人は一旦、そこで休憩を取ることにした。
水場は小さな地底湖だった。水面は鮮やかなエメラルドグリーンの輝きに満ち、よく見ると魚も泳いでいた。
一口飲むとひんやりと冷たい。
石灰岩で濾過された地底湖の水は、カルシウムなどのミネラルが豊富だ。
その時だった。獣の如き咆哮が、突如として洞窟内に響いてきたのは。
思わずセシルは杖を取って構えた。
「怖がることはないさ。あれは壁や天井の亀裂にできた風が突き抜けた時に鳴る音なんだ。
それより茶でも一杯どうだい。疲れが取れるぜ」
そう言って、茶を沸かしていたアーヴィンが慌てるセシルに微笑む。
「……一杯貰うわ」
アーヴィンが差し出したコップの茶を啜りながら、セシルが決まりの悪そうに俯く。
「セシルは洞窟の探索は不慣れなのかい?」
「……今回が二回目ね。でも、最初の洞窟はこんなに入り込んでなかったし、
全長だって三ガドル(三キロ)くらいだったわ……」
「なるほどな。それだときついかもしれんな。この洞窟は未だに全長がわかってないんだ。
それに迷路のように入り込んでるし、枝分かれしてるからな。
おまけに魔物や盗賊もうようよしてるときてるから厄介なもんさ」
モンキーパイプの煙を吐き出しながら、アーヴィンが首を振って見せる。
「本当は浅い部分しか探索する予定はなかったんだけどね……なんで、こんな事になっちゃったんだか……」
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