異世界でクズ転生者を導けって言われてもな、そんな俺物語

チリノ

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第二話っ、引きこもりの田代と俺っ!ヒャッハー! その4

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新しく出来たという食堂は、サライ広場の近くにある店舗を借りたものだった。
俺はサンドイッチと野菜スープを子供たちの人数分頼んだ。
店のウエイトレスが飯を運んでくると、腹を空かせた子供達がバクバクと食べ始める。
よっぽど腹が減っていたんだろうな。

俺は注文した紅茶を飲みながら子供達が食べ終わるのを待っていた。
この世界もファンタジー風ではあるが、地球のそれとは異なる。
例えば、俺の飲んでる紅茶は地球だったら、
インド、スリランカ、ケニア、インドネシア、中国辺りから産出されてるな。

ヨーロッパ文明だと、十七世紀初頭にオランダ商人が中国と日本から輸入した茶をドイツ、
イギリス、フランスに売りつけ始めよな。
ヨーロッパに紅茶を飲む習慣が広がり始めたのがこの頃だった。

特にイギリスで紅茶が広まったのが、国王チャールズ二世に嫁いできた、
ポルトガルの王女キャサリン・オブ・ブラガンザが宮殿で茶を嗜んだからだって言われている。
それから歴史が進むにつれて、イギリスが紅茶を嗜むようになって、銀と引き換えに中国からどんどん輸入するようになった。

茶の支払いに銀を使いすぎたせいで、財政に悩み始めたイギリスは、
銀の代わりにインドで栽培したアヘンを使うようになった。
それでイギリスは阿片を茶の支払いに当て始め、あの「アヘン戦争」が勃発した。

これくらいだったら歴史を齧ったことがあるなら知ってるな。
ただ、それはあくまでも地球上の歴史での話だ。

そもそも地理的にも、大陸や国の位置が地球のものとは異なるから、そのまま当てはめて考えるのが難しい。
だから地球の地政学をそのまま転用することができないのさ。
俺は紅茶を飲みながら、食堂内をぐるりと見渡した。

子供達はまだ食べ足りないようだったので、俺は茹でたジャガイモと野菜スープを追加で頼んだ。
そうしている内に店にフラリと浮浪者がやってきた。
その浮浪者がカウンターにいる店主に、何でもいいから食べさせてくれないかと頼み込み始める。

渋い顔をしながらも店主が客の残り物にスープとジャガイモを添えて浮浪者に出してやる。
浮浪者が何度も礼を言いながら、ガツガツと食べ始めた。
そして瞬く間に食事を平らげると、再び店主に頭を深く下げる。

その拍子に浮浪者のほつれた襟首から金貨が落ちた。
店主が金貨を目ざとく拾い上げると浮浪者に向かってこれはなんだと怒鳴る。
「お前、金を持ってる癖にウチの店にタカリに来たのかっ」

浮浪者がしどろもどろになりながら「その金貨は偽物で……」などと店主に弁解する。
だが、その言い訳は店主の怒りに油を注ぐだけだった。
店主が浮浪者から取り上げた金貨から、食事代を差っ引いた残りをカウンターの上に乱暴に置いた。

「そのつり銭取ったら、とっととこの店から出て行けっ」
なおもその金貨は贋金だと食い下がる浮浪者を店主が食堂から追い払ってしまう。
それにしても食事代で銀貨を一枚抜くとは、店主の奴も強欲だな。

せいぜいが、この店の食事代なら銅貨一枚くらいだろう。
おまけに食わせたのも客の残りに付け合せだけだしよ。

さて、さっきの浮浪者の持っていた金貨だが、あれは正真正銘の偽物だ。
だからあの浮浪者が言っていたのは本当のことだったのさ。
所が偽物だと言われ続けたせいで、逆に店主は本物だという思い込みを強めていった。

人間の心理なんてこんなもんよ。
で、あの浮浪者は店主の心理にどう付け込めばいいか、わかってたってわけさ。

後から金貨が贋金だとわかっても、もう後の祭りだ。
大体、浮浪者は嘘を言って店主を騙したわけでもないからな。

だから、例え捕まえても罪に問うのは難しい。
逆に残り物で浮浪者から銀貨一枚を巻き上げたなんて噂が立てば、店主の方がまずくなるだろうな。

どんな人間だって、一つくらいは稼ぐ手段を心得てるもんだ。
この店の店主も良い勉強になっただろうさ。

子供達もどういう風にすれば騙されずに済むのかとか、世の中の仕組みを学べたし、
あの浮浪者も金になったし、これぞ三方三得ってわけだ。
俺達は店を出ると、次にで店の並ぶ市場の方へと歩いて行った。

36

あそこに出ているソーセージの屋台売りは商売上手だ。
なんせ、同じソーセージの片方を高く客に売りつけているからな。
どうやって高く売ってるんだって?

手口は単純なもんだよ。あそこの店の親父は簡単な錯視を利用してるのさ。
「ジャストロー錯視」っていうものがある。
同じ大きさと長さの物体を扇状に曲げて、二つ並べると下に置かれた物が長く見えるって錯覚がある。
その錯覚をあの屋台の親父は、ソーセージを使って、応用してるわけだ。

俺はソーセージを二本とも買うと、子供達の目の前で真っ直ぐになおしてみせた。
すると子供達は目を丸くしていたよ。
それから俺は子供たちにいくつか、錯視の話をしてやった。
切り分けたソーセージを子供たちと一緒に齧りながらな。

それから俺は子供達に福沢諭吉の話を聞かせたよ。
福沢諭吉の『福翁百余話』の話な。
『博識とは知識見聞の博きことにして必ずしも善き事のみを云々……』
と、まあ、こんな堅苦しい話は置いて、俺は子供達に噛み砕いて説明したよ。

博識というのは、知識や見聞が広い事を言うけれど、善い事ばかりじゃなくて、
悪の手口も知り尽くしていることだと。
それが博識だと。
そして、悪事の知識も知り抜いて、それを敢えて行わないのが立派な人物であると。

悪の手口を知っていて、それで悪さをするのは卑しい人間だ。
人のこと言える立場かだって?
いいんだよ、俺は卑しい奴なんだから。

少なくても俺はテメエ自身を立派な奴だとは思ってねえぜ。
それどころか、神からすれば俺は厄介な問題児みたいなもんだろうしよ。

それから一旦、教会に戻って子供達と別れてから、俺は一人で街を出歩いた。
街角に立って、薄暮に沈んでいく空を見上げる。

街の通りでは、あらかた商品を売りさばいた行商人達が、
最後に残った品物をここぞとばかりに通行人に押し付けている。
茜色から少しずつ暗くなっていく空をなお見上げていると、酔っぱらいが俺に声をかけてきた。

俺を立ちんぼと勘違いしたのか、胸や尻を触って来る。
黙っている俺に調子に乗った酔っぱらいがスカートの中に突っ込んできたから、
その横面を思い切り張ってやった。

奴さん、目を回して路上にぶっ倒れたよ。
は、マヌケ野郎め。

それから俺は、マッコイ爺さんがいつも飲んでる酒を酒屋から買って道具屋に戻った。
ああ、マッコイ爺さんっていうのは、俺の祖父の名前な。
初めて爺さんの名前を知って驚いたか?

俺は道具屋の街路樹にある影から、こちらをじっと見ている田代に気づかないふりをした。
あいつ、俺が子供達を連れて歩いてるのを目撃していたからな。
自分の食事の誘いを蹴って、あんな孤児達と出かけるなんてとでも思ってるんじゃないのか?

流石にそれは邪推ってもんかな?
それじゃあ、孤児達の面倒を見てるなんて、なんて優しい娘だろうとでも考えてるのかな?
どっちだと思う?
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