ゴブリンニンジャ大活躍

チリノ

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笑うゴブリン

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 「恋と云ふ其の源を尋ねれば、ゆばり(尿)くそ穴の二つなるべし」という一首がある。
 
 これは江戸時代という、今よりもずっと古い時代に詠まれた唄だと、精霊は教えてくれた。 

 この一首は、恋なんていうものは、結局は小便の穴と糞の穴、この二つの穴の擦り合いだと言っている。

 なるほど、そう考えると人間の言う恋とは、交合のことを指すのだろうか。

 「我が手に触れる彼女の腕と肩の素晴らしさ。我が身に押し付けられる彼女の胸の心地よさ。

 我が目に触れる彼女の下腹のなめらかさ。太い脚と肉感的な太腿、他の部分もどこも素晴らしい。

 彼女の裸体にしがみつくと彼女が横たわる。見るがいい、疲れた彼女が口づけを命じる。

 ユピテル(ジュピター)こんな午後をもっとおくらせてくれ!」

 これは江戸時代よりも更に古い、ローマという国にいたプブリウス・オウィディウス・ナソという詩人の作品だそうだ。

 この詩も愛欲、肉欲を歌い上げている。性欲と恋は一緒か。

 腕を組みながらマイヤーは考えた。恋も性欲も同じだと言われれば、やはり一緒に見えるし、

 違うと言われれば、確かに違うなとも感じるのだ。

 性欲と恋は同じであり、又、同じで無し。

 性欲と恋愛感情は絡まりあった二本の縄のようなものか。絡まりあってはいるが、決して一本の縄ではない。

 恋愛感情がなくても性交したい相手もいれば、恋愛感情もあって性交したい相手もいるし、

 恋愛感情があっても性交に興味を惹かれない相手もいるだろう。

 (まだまだ、世の中はわからんことだらけだな、俺もまだまだ修行の身だァな)

 マイヤーが金貨を親指で弾き飛ばし、首をゴキっと鳴らしてみせる。

 墓地を見下ろすひび割れたガーゴイルの石像、死者たちの濃密な気配、

 冷たい静寂、獣脂で出来た蝋燭の明かりだけが、朽ちた鎧窓から揺らめいている。

 街はずれにある小さな廃寺院の礼拝堂、そこがいまのマイヤーの塒(ねぐら)だった。

 この荒れ果てた寺院に近づく者はめったにいない。近隣に住まう人々が寺院の呪いを恐れているせいだ。

 呪いの噂の真相はこうだった。それまでは廃寺院にやってくる人間なんかもいる事はいた。

 裏の墓場には少ないがゾンビやスケルトンなどのアンデッドが姿を見せることもあってか、

 この廃寺院は駆け出しの冒険者達からすれば度胸と腕試しに丁度いい場所だった。

 そしてある晩に五人ほどの冒険者達が、腕試しにとこの場所に訪れた。

 丁度その時、マイヤーは礼拝堂の片隅で横になって寝ていた。

 冒険者の一人がそんなマイヤーを見つけ、ちょっかいを出した。まだ冒険者になりたての血気盛んな若者達だった。

 冒険者達にとって、ゴブリンであるマイヤーは肩慣らしには格好の標的だった。そのはずだった。

 冒険者のひとりがスローイングナイフを構え、もうひとりが鞘から引き抜いた長剣をマイヤーの頭上目掛けて振り下ろし、

 マイヤーに襲い掛かった。冒険者達の気配に気づいていたマイヤーは、すぐさま相手に反撃した。

 勝負にもならなかった。

 五人の冒険者達は、自分が殺されたとも気付くことなく、胴体から切り離された首を宙に浮かせていた。

 そしてマイヤーは、五人の冒険者の生首を寺院の門前に並べた。警告である。

 そんな出来事があってから、滅多なことでは、誰も近寄ろうとはしなくなった。この廃寺院に。

 自殺志願者でもない限り、何者かに首を跳ね飛ばされるのは、誰だって嫌だからだ。

 屋敷からかっぱらってきたブランデーをラッパ飲みしながら、キャシーの溜め込んでいた金貨をマイヤーが数える。

 七宝細工のネックレスに真珠の耳飾り、大粒のエメラルドが輝く指輪、それからダブローン金貨が百枚ばかり。

 これだけあれば当分は、うまい酒と食い物、それに葉巻にも不自由しなくて済む。

 マイヤーはキャシーに故郷と仲間を奪われ、キャシーはマイヤーに金と宝石と自らの命を奪われた。

 因果応報、それだけだ。キャシーはこれまでのツケを払ったに過ぎない。

 遅かれ早かれ、キャシーはツケを払わなければならなかった。

 奪った金貨と宝石を皮袋の中に押し込み、蝋燭の火を息で吹き消すと、マイヤーは朽ちた木の床から立ち上がり、

 寺院を出て、街へと降りていった。

 4

 デザルボの街は、夜にもなれば、濃い霧が溢れ出す。

 だから九時の鐘がなると、夜間の外出は原則禁じられる。

 泥棒や押し込み強盗を防止するためだ。

 酒場の壁に背中をもたれかけながら、マイヤーは咥えた葉巻の先端を火で炙っていた。

 その仕草が何やら面白いのか、街の守備隊の兵士達が、マイヤーを指差して嘲笑っている。

 「あのゴブリン、器用に葉巻を吸いやがるな。この前、パイプを吹かす猿の芸を見たことがあったが、あれとそっくりだ」

 その同僚の言葉に隣にいた男が笑い声を上げた。

 ワインの染みが滲むテーブルを何度も派手に叩き、さもおかしそうにゲラゲラと笑い続ける。

 テーブルの真ん中に陣取っていた守備兵の女隊長が、隣に座る背の高い隊員に耳打ちした。

 耳打ちされた隊員が、底意地の悪そうな笑みを浮かべ、マイヤーへと近づいていく。

 「おい、そこのゴブリン、俺たちの目の前で偉そうに葉巻を吹かすなんて何様だと思ってやがんだ。

 守備隊長殿はお前のせいで、酒が不味くなったと言ってるんだぞ。

 守備隊長殿はお前のような醜く、ちっぽけで卑しいゴブリンが、ゴキブリと同じくらい大嫌いなのだ。

 わかったらさっさと財布を置いて出て行け。お前みたいなのが金を持っててもしょうがないだろう。

 我々がありがたく使ってやるから光栄に思うんだな。ほら、どうした、さっさとよこせ、グズグズするな」

 息継ぎをすることもなく、早口で隊員が一気にまくし立てる。中々出来ることではない。

 並の人間であれば、最後まで言い切ることはできないだろう。

 隊員の傲慢な態度にマイヤーがわざとらしく怯えたフリをしてみせる。

 「おお、おっかねえ、おっかねえ、オラ、守備隊長様のことは常々尊敬してただよ。

 街の治安を守ってくれてるお方だから、

 足を向けちゃ寝れねえし、今日も守備隊長を称える歌を作っていたとこでさ」

 隊員が値踏みするようにマイヤーを見下ろし、守備隊長のほうへと目配せする。

 「面白そうだ。そのゴブリンに歌わせてみろ」

 守備隊長が許可すると、身長の高い隊員がマイヤーに歌ってみろと命じた。

 ただし、つまらなければ首を刎ねるぞと付け加えて。

 「それじゃあ、お一つ」

 もったいぶってコホンとセキを一つして、マイヤーが歌いだす。



 雌犬が雄犬の股座嗅いでると、一緒に嗅いでる守備隊長

 八百屋の荷台にゃ、赤いカブ、一緒に売られる守備隊長

 恥をかくなぞなんのその、それが我らの守備隊長

 男日照りに身も乾き、鬱憤溜まるよ守備隊長

 守備隊長、相手にするのは、ああ、しんど

 奴隷に背負われ、くたびれた、そこの青菜が守備隊長

 硬くて食えない氷砂糖、甘くもないよ、守備隊長

 青い柿には渋い皮、渋くて食えない守備隊長

 女ヤモメに花が咲き、男ヤモメにウジが沸く、若い男を漁らなきゃ、女の股間はカビだらけ、

 その股間の持ち主が、ここにおられる守備隊長

 
 守備隊長の顔色が、見る見る内に青白く退色していった。立ち上がった隊員達が何も言わずに鞘から剣を引き抜く。

 その光景にマイヤーは不敵な笑みを浮かべていた。

 
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