7 / 15
7 白猫セシルと妖精姫
セシルはリリアーナに手を引かれ、彼女の後宮へと足を踏み入れた。勿論、シルフィアも一緒である。
部屋に入り席につくとリリアーナは侍女を下げて、護衛のシャルロッテのみを部屋に入れる。
「リリアーナ様、本当に、大丈夫なのですか?」
「シャル、黙っていてくれてありがとう。でも、大丈夫よ。陛下のお叱りは私が受けますから」
そんなやり取りを聞いていたセシルは申し訳なさそうに声を出した。
「·········陛下の、ごこんやくしゃさまの、リリアーナさま、です、か?」
「そうよ。紹介がまだだったわね。私はリリアーナ。レベロン王国から先日、皇国に嫁いできたの」
「私はシルフィアよ。貴女は、セドリック様のセシル様で合っているかしら?」
「·········もうしわけ、ございません」
どうやら、シルフィアは彼女の事を知っているらしい。リリアーナはシルフィアと顔を見合わせてからセシル嬢に向き直る。
「何故謝るの?あなた、凄く辛そうだわ。私もつい半月前まではそんな顔をしていてね。ヴィクトール様に救って頂いたの。だから、私あなたの事、放っておけなくて········ごめんなさいね?」
「·········っ、なぜ、リリアーナ様が、謝られるのですかっ·········、」
大きな瞳からポロポロと我慢していた涙が零れ落ちていく。それをじっと見つめながらシルフィアは少し斬り込んだ質問をした。
「貴女、獣人の国からきた子よね?セドリック様が匿って誰にも見せず大切にされていると聞いていたけれど。魔導具研究所の研究員なのでしょ?」
「········は、い。獣人の、くに、ドラファルトで、家族みんなころされて、ひとりになって·········。
せどりっく様にかくまっていただいて·········、」
セシルがぽつり、ぽつり、と話す内容にリリアーナとシルフィアは耳を疑った。
家族を目の前で惨殺されて、匿ってもらったとはいえ、一人逃げて此処まで来たのだから。
「ちょっと、貴女、本当に大丈夫?!」
シルフィアがガタンと勢いよく立ちあがり、リリアーナは隣で俯いたままのセシルの肩を抱きしめた。
「もう、大丈夫よ。よくここまで頑張ったわね、」
「···········ほんとうに、せどりっく様には良くしていただいて、いるのです。でも······─────」
その瞬間、セシルの瞳が悲痛の色に染まる。
希望を失って諦めたような表情に二人は息を呑む。
「────······せどりっくさまには、私はもういらない、から·····わたしは、早くでていかないと、、だから、」
「そういえば、貴女。どうしてジョシュア様と一緒にいたの?知り合いではなさそうよね?」
シルフィアの質問に一瞬顔をあげたセシルは目を泳がせて、すぐにまた俯いた。
「········ええと、それは。陛下から、ジョシュア様とけっこんしては、どうかと·········、」
「「「はい?」」」
リリアーナ、シルフィアだけでなく扉の傍に立っていた護衛のシャルロッテの声も被り、セシルは机の下で両手をぎゅっと握りしめた。
「····っ、でも、せどりっくさまは、ご婚約されたようですし············。わたしは要らないのです、よね?」
「でも、セシル様。あなたはセドリック様を慕っているのでしょう?」
リリアーナの穏やかな声がセシルを包み、彼女は顔をあげた。目の前には美しい薄紫色の瞳があり、自分を真っ直ぐに捉えている。
「···········好き、なのか、わかりません。わたしは人を好きになったこともなくて。せどりっくさま、とは、ずっと一緒だったから···········」
「でも、セドリック様が結婚されると聞いてどう思うの?悲しい、辛い、どこか遠くへいってしまうような。そんな気持ちなのではないかしら?
確かに、お兄様にも同じように感じるけれど、それよりも幸せになって欲しいと思うわ。でも、もしヴィクトール様が他の女性を娶ると言ったら、私はきっと素直に喜べないと思うのよね······」
「リリアーナ様··········、」
リリアーナが少し暗い表情をした事に気付いたシルフィアが彼女を心配し声をかけようとするのを気にせずリリアーナは続ける。
「一回、自分の心と向き合うことも大事なことよ?好き、という気持ちは悪い事ではないわ」
「·············わたしは、せどりっくさまが、、好き、なのでしょうか···········?」
セシルが机を見つめそう呟いたタイミングで部屋にノック音が響いた。
シャルロッテが急いで部屋から出ていき、直ぐに戻ってくる。
「リリアーナ様、時間切れでございます。」
「分かったわ。少しは、時間が稼げたかしら、」
ヴィクトールとセドリックが迎えに来たのだろう。
リリアーナは立ち上がるとセシルに手を差し伸べた。
「何かあったら、私を頼って?あなたの力になること位はできると思うし、私、単純にあなたとお友達になりたいのよね、」
リリアーナがふっと優しい笑みでそう言ったので、セシルは涙で濡れた頬をぬぐってほほ笑み返した。
「はいっ、!」
離宮の外に出るとセドリックが物凄い剣幕で怒鳴ってセシルに駆け寄る。
「セシルッ!何故君がこんな所にっ!!!」
その大きな声にびくりと身体を震わせた彼女の前にはだかるようにリリアーナが立つ。
「セシル嬢は悪くないのです。彼女を責めないで下さい。私の独断で連れ込んだのですから。」
「リリアーナ様、どういうお考えか知らないが、今後はこのような事やめて頂きたい。貴女も立場を弁えて───「それは、私に此処で自由に友も作るなと言っているのですか?それで、此処に閉じ込めると?」」
「··········っ、いえ、そうゆう意味では、、」
「セドリック様。貴方のその、人の意思を顧みず、誰かを閉じ込めて自由を奪う考えには同意しかねます」
セドリックは拳をぎゅっと握った。
「では、「リリアーナ、少し話をしないか?」」
セドリックが何かを言いかける前にヴィクトールがそれを遮る。
「セドリック。シルフィア嬢とセシル嬢を頼む。リリィ、私達は少し話そう。」
斯うして、怒りに震えるリリアーナの手をヴィクトールは握り、先導する形で後宮の扉を押し開けた。
立ち去る二人に、シルフィアとセシルは慌てて礼を取ったが、ヴィクトールは全く気にせずに歩を進める。
此時の彼はリリアーナの怒りを遠ざける事を優先にしていた。もし庭園内で彼女が身体に取り入れているヴィクトールの魔力を撒き散らしたりでもしたら、被害が大きくなるからである。
なるべく早く彼女が落ち着くように、そう思いながら優しくリリアーナをエスコートする。
怒りを鎮めてくれ、と心の底から願いながら。
あなたにおすすめの小説
触れられないはずの私が、ただ一人の彼にだけ心も体も許してしまいました
由香
恋愛
男性に触れられると体調を崩す令嬢リリア。
そんな彼女にとって唯一“触れられる”存在は――幼なじみの公爵令息レオンだけだった。
手を取られ、抱き寄せられ、当たり前のように触れられる日々。
それがどれほど特別なことなのか、彼女はまだ知らない。
やがて政略結婚の話が持ち上がり、“触れられない相手との結婚”か、“彼に触れられる人生”かを選ぶことに。
「お前に触れていいのは俺だけだ」
逃げ場のない独占と、甘すぎる溺愛。
これは、触れられないはずの少女が、ただ一人にだけすべてを許していく物語。
好きな人が嬢を身請けするのが辛くて逃げたら捕まりました~黒服の私は執着騎士に囲われる~
こじまき
恋愛
騎士が集う高級酒場「夜香楼」で女性黒服として働くソフィアは、客である寡黙な騎士ゼインに恋していた。けれど彼が指名するのはいつも人気花嬢イサナで、身請けも近いと予想されていた。
ソフィアは、叶わない想いにと嫉妬に耐えきれず、衝動的に店を去る。
もう二度と会うことはないはずだったのに、身請けした嬢と幸せに暮らしているはずの彼が追ってきて――
「お前への愛は焼き印のように刻まれていて、もう消えない」
――失恋したと思い込んで逃げた黒服が、執着系騎士様に捕まって囲われる話。
※小説家になろうにも投稿しています
完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます
星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。
家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。
……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。
“天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、
そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。
これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、
いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。
(完結済ー全8話)
冷酷公爵と呼ばれる彼は、幼なじみの前でだけ笑う
由香
恋愛
“冷酷”“無慈悲”“氷の貴公子”――そう恐れられる公爵アレクシスには、誰も知らない秘密がある。
それは、幼なじみのリリアーナの前でだけ、優しく笑うこと。
貴族社会の頂点に立つ彼と、身分の低い彼女。
決して交わらないはずの二人なのに、彼は彼女を守り、触れ、独占しようとする。
「俺が笑うのは、お前の前だけだ」
無自覚な彼女と、執着を隠しきれない彼。
やがてその歪な関係は周囲を巻き込み、彼の“冷酷”と呼ばれる理由、そして彼女への想いの深さが暴かれていく――
これは、氷のような男が、たった一人にだけ溺れる物語。
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。