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6. ヴァレンティ―ナ・ロザリア
時は遡り、シェリルが意識を取り戻して少し経った頃。
ロザリア王国、王城。
真っ白く高く聳え立つ美しい城は、おとぎ話にでてくる典型的な城を彷彿とさせる様な出で立ち。
それもそうだろう。この国、そして、この城も、一人の女性の理想によって創られた物なのだから。
「ヴァレンティ―ナ嬢」
肩にかかる位の髪とその瞳は燃える様に情熱的な深紅。
振り返った彼女は椅子に脚を上げ、メイドにマッサージをされたままの状態で振り返った。
「あっ、アロライン王太子殿下······ごきげんようっ!」
化粧がしっかりと施された目が細められ、赤くぽってりとした唇が妖艶に弧を描く。
彼女は、ヴァレンティ―ナ・ロザリア。
何故か平民からの特待生として3ヵ月前に突然王立学園に入学してきた。
そんな彼女の姓はロザリア、だ。それは、この国のものと同じで、王族の血縁である事を意味するのに······。
「それで、ヴァレンティ―ナ嬢。貴女の姓がロザリアである事と、先日から主張している内容には繋がりがあるのか?貴族位も有していないのに?」
「え?貴族位を持ってないから、ですよ?殿下、私は何度も言っている通り、転生者なの。要するに”世渡り人”なんです。この名前だって、転生前の名前を使っているだけですよ~?
”世渡り人”は貴族には殆ど転生してこないんでしょう?私の知識でほぼ全ての事が解決できるんだから、この国の人間は喉から手が出る程欲しい筈なんじゃない?それに······」
ふふっと笑った彼女の顔があまりにも邪悪で、アロラインは背筋にゾクゾクと悪寒を感じた。
「”世渡り人”はこの国では保護対象。加えて、王族との婚姻が確定し、一妻多夫!ふふふっ、どうせ同じ姓になるんですよねえ?何か問題があるんです?」
「それは······、その情報は王族しか知らない筈······「私は”世渡り人”。なんでも知っていますよお?」
彼女はアロラインや彼の父である国王すらも把握していなかった存在だった。
特待生にもなれば、その有能さから平民でも話題になっていた筈なのに······だ。となれば、3ヵ月前頃に突然世を渡ってこのロザリア王国に来たと考えるのが打倒。
特待生として受かった入学試験なども”世渡り人”としての特殊能力を駆使したと考えれば辻褄は合う。
「貴女はこの王城に滞在するつもり、だというのか?」
「え?当たりまえじゃないですか。あんな汚い寮に居られるわけないし!」
彼女は3ヵ月前、2年生の終わる直前に王立学園に入学し、王族やそれに連なる高位貴族、将来有望な者などが集められた特別なクラスにやってきた。
それは、入学試験の結果に加えて、彼女が自分を”世渡り人”である。と公言したからに他ならない。
この国の”世渡り人”所謂”転生者”の概念はほぼ王族と同じ尊さを持つからだ。
その豊富な知識と、特別な能力を有する彼らは、国への発展を齎すと言われ、彼らに限っては希望があれば一夫多妻・一妻多夫等をとれるようにまで自由が与えられていた。
とはいえ、ヴァレンティ―ナは平民出身の特待生。
彼女は家からの登校ではなく、寮を選択したと聞いていたのだが······。
「寮は、貴女自身が選択したと聞いているが?それにかなり自分で手を加えたのではなかったか?」
「え?ああ、そうなのよねえ。最上階に広い部屋があってね、もっと綺麗で豪華な部屋の設定だったんだけど~。少し作りが甘かったのかな?自分の想像以上に汚かったの。だからもっていたお金を使って色々部屋の作り変えをしたんだけど······あそこなんか埃っぽくって、やっぱり無理だなってなって!」
ケラケラと笑うヴァレンティ―ナを見て、アロラインは頭を抱えた。
「だが、あそこは高位貴族向けに作られた部屋なんだぞ。そんな筈があるまい」
「っもう~、頭かたいなあ。だ~か~ら~、それは”所詮”高位貴族だったらって事でしょ?私は高位貴族ではないもん~。私は創造主だからねっ」
ふふっ、と楽しそうに話すヴァレンティ―ナの最後の言葉の意味は分からなかったが、アロラインはそれを気にもせずに目の前で寛ぐ彼女を見つめた。
脚のマッサージを終え、鏡を覗き込み化粧で美しく整えられた顔を見て満足気な表情を見せる彼女は、徐に立ち上がる。
この国ではあまり見ない短い丈のドレスからは彼女の肉付きの良い脚が膝上まで露出し、アロラインは思わず目を逸らした。
「アロライン殿下······、アル様は······いつ私のダンナ様になってくれるのかなあ?」
”アル”という身内しか呼ばない愛称を軽々しく呼び、ゆっくりと近づいてきた彼女のその言葉にアロラインはごくりと唾をのみこみ、一歩、二歩と下がる。
なんとなく身の危険を感じ、慌てて周りを見渡せばもう誰も人が部屋にいない事に気付き、アロラインは舌打ちをした。
「っくそ、ラルクを連れてくれば良かった!」
「ふふっ、そうだ、私とアル様の子供はどんな感じになるんだろう?別に良いんですよ~?嫌なら嫌って言えば?でも、アル様って、王位継承権1位でしょ?国王のお父さんは病気でもう出てこれないから~、あともう少しで王位継承するんじゃないんだっけえ?」
「お前······それは······」
「だからきっと私の一番目の夫は殿下なんでしょうね······!だって、私は王妃になるんだから」
ドンッと肩を押され、アロラインはソファに尻もちをついた。
柔らかいソファに身体が沈み、次の瞬間膝の上に重さを感じ······。
見上げれば、彼女が自分の上に跨って妖艶に微笑んでいて······彼は息を呑む。
「待て······俺には婚約者の······シェ······んっ」
”シェリル”という名前は彼の塞がれた唇が紡ぐ事のない音だった。
彼女の舌が積極的に唇を割り、アロラインの口内を蹂躙する。
アロラインも閨教育の済んでいる年頃の男だ。
彼は口内に入って来た彼女の舌に僅かに自分の舌を絡めかけ······咄嗟にそれを止めた。
「っ······待て······これ以上は······!」
彼がヴァレンティ―ナを押しのけて立ち上げる直前、彼女は彼の股間にそっと触れた。
形を為し、熱を帯びたその塊を衣服越しに感じ、ヴァレンティ―ナは赤面しながら微笑む。
「ふふっ······こんなになっちゃって。いつでも私は殿下の心が移るのを待ってますよ?私なら······貴方を幸せにできますからね~。苦しい王位継承権争いなど、直ぐに終わらせて、国王にさせてさしあげましょう」
「······ッ!失礼する······」
アロラインが頬を染めながら退出し、取り残されたヴァレンティ―ナは優雅にソファに腰を下した。
そして果実水に手を伸ばすと、先程とは全く異なる低い声を出す。
「ああ、もうすぐあの子、学園に来る設定だったよねえ?っていうか、本当に来るのかな?心配だなあ、あの子いないと私の踏み台になってくれる存在がいないのよねえ~。
早く会いたいね、私の親友······シェリル」
そう、この国は、ロザリア王国。
ヴァレンティ―ナ・ロザリアが創り出した、彼女がヒロインとして君臨し、王妃となり、愛される為だけに存在する国。
「あっはははっ!皆、私の為に頑張りなさいよね?この国の全部ッ、全部が私のモノなの。今回の人生では絶対に沢山の男達に愛されて、前世では出来なかった私の理想の世界を創るんだから!」
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