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10. リルヴァルト・デドゥーンハ(長い、以下略!)
王城の庭園をゆっくり歩くヒューベルは、花の咲き乱れた中にあるガセボの前で立ち止まった。
彼の視線の先には花壇の前で蹲る3人の年若いメイド。
「っ、やあ······可愛いッ!」
「みゃあ~······みゃ」
「ねえ、見て······私の胸にスリスリしてくる!やっ、擽ったいわあ」
「この子、この間も女の子のスカートの中で寝てたって!ふふ、変態さんね!」
「でも本当に綺麗な白猫よね······どこから来たのかしら?」
「確か最近噂のヒューベル殿下の猫ではなかった?名前は······」
「”リル”、というんだ」
突然聞こえた声と共に、にっこりと微笑むヒューベルを見て、メイド達は咄嗟に立ち上がった。
「「「ヒュ、ヒューベル王弟殿下ッ!御前失礼致します······っ」」」
ヒューベルの”リル”という言葉に、不機嫌になったらしい白猫が、頭を下げているメイドのうち一人の腕の中から毛を逆立てる。
「シャーッ!」
「シャー、じゃないよ、リル。今すぐに来るんだ。僕は忙しいんだよ」
白猫はもう一度そのメイドの胸に顔を摺り寄せ柔らかいその感覚を堪能するような顔をしてから、仕方なさそうに飛び降りた。
「皆、彼を保護してくれてありがとう。助かったよ」
もう一度にっこりと笑ったヒューベルは、未だメイド達をチラチラと振り返り、名残惜しそうにしている白猫を連れて歩き始めた。
庭園から角を曲がり、人目のつかない場所に差し掛かったタイミングで、ヒューベルはリルを見下ろす。
「リル?君には今日やる事があるって伝えたろう?良い子にできないなら首輪を付けるよ?」
「っ、ちょっと待ってって!リルはやめてって言ったろう!?ボクには神聖な大精霊様から頂いた、んんっ、コホンッ。”リルヴァルト・デドゥーンハ「その名前長いんだよ、もういいよ。それにその大精霊様からも勘当されたんだろう」
感情の籠らない冷たい紫色の瞳に見下ろされ、白猫”リル”はびくりと肩を揺らす。
だが、彼も一応、かなり高位の精霊なのだ。
いや、”だった”といった方が正確なのかもしれないけれど。
「ひ、ひどい!この国では精霊は”神”のようなものだろう?信仰対象に向かって「一つ言っておくが、”神”として信仰対象なのは、キミの言うところの”大精霊”様、であって、”勘当されたキミ”、ではないよ」
「し、辛辣ッ!もうお前の為に魔法なんか使ってやらないから!!」
「はは、今、契約しているのは僕だぞ?いいのかい?僕の力を失ったら君、もう猫の形態は取れずに女の子達にキャアキャア言われて撫でられることもないんだよ」
元々高位精霊だったリルは、大精霊の怒りを買い精霊界からこの地上に堕とされた。
所謂、異端児だ。
その後、ロザリア王国の王族として魔力適正の高いヒューベルと出会い契約を交わした。
それもそうだろう。このロザリア王国の信仰は目に見る事のできない”精霊”その中でもその頂点に君臨すると考えられている”大精霊”である。
ロザリア王国の王族は精霊、魔力との相性が良いとされており、彼はヒューベルに魔力を捧げる代わりに、こうやって猫形態を器としてもらっていたのだ。
リルはこの猫形態をかなり気に入っていた。ヒューベルと契約している為、元々持っていた膨大な魔力は制限されるけれど、大好きな女性達に抱っこされて可愛がって貰えるなんて······ホント至福!!なのに······主は······それを奪おうなんて!
「本当にイヤな奴!!ボクの憩いの瞬間をそうやって奪おうとするなんて!ドS!変態調教野郎!こんなんなら、王太子の方に契約を申し込めば良かったよ。彼、主と違って優しそうだし!」
リルはヒューベルを見て、ベーッと舌を出す。
そんなリルを一瞥して、ヒューベルは馬鹿にした様に笑った。
「へえ、僕としたことが見誤ったな。キミは高位精霊なのにアルの本質の見極めすら出来ないのか······」
「······はあっ?っほんと、生意気なんだよなぁ、人間の癖にいぃっ」
くそっ、くそぉぅ。
いつも口論ではヒューベルには勝てない······。
まあ、このドS男に勝とうという自体が無駄な事なのかもしれないけどさあ。
そう思ったリルの上から続いて振ってきた言葉に、リルは動きを止める。
「その人間の情事を見たくて精霊界から堕とされたのはキミだろ?なあ、変態覗き見猫野郎殿?」
リルが大精霊の怒りを買った理由。
それは、魔力を使って、人間界の閨に忍び込み人間達の情事を観察(覗きともいう)する事が好きだったから。
そう。確かに、”変態覗き見猫野郎”というのは合ってはいる。
合ってはいるんだけどさぁ······それ言わない約束だったじゃん!!?
「っな······!なっ······それを公共の面前で言わないって約束だろう!!」
涙目になったリルを見て、ヒューベルは彼の前にしゃがみ込んだ。
白猫の美しい毛並みを指の腹で撫でられ、耳と耳の間、頭をカリカリと指をたてて強く掻いてもらうだけでリルの喉が不覚にもゴロゴロと鳴る。
ヒューベルの細く美しい指がリルの頬を優しく撫で、そっと髭の生え際に触れ。
周りから見れば、国一番の美男子が白猫を可愛がっている画ずらだろう。
だが、その口から発せられる言葉はイメージとは全く異なるものであることを一体どの位の人間が知っているのだろう?
「······やはり躾をきちんとするべきだったかな?変態覗き見猫ごとき、僕にシャーシャー生意気言うなんてね。この長くて美しい髭、引っぱってあげてもいいんだよ?敏感だったよね、ここ?それに首輪もやっぱり必要かな?」
「······はっ、喉が鳴って······。最低だ······っ、猫にとって髭がどんなに大切か知っててそんな事言うんだな······!っくぅ、ゴロゴロゴロ······」
「ははっ、まだ無意識に喉が鳴っているよ?ま、キミが良い子にしていれば僕はそんな事はしないよ」
「······ほんとかなあ······」
僕は動物が好きだからね、と言いながらヒューベルは立ち上がった。
城勤めの女性達が遠目からキャアキャアと黄色い声をあげているのを横目に、彼は真っすぐ城の中に入っていく。
「で、主。今日は何をするの?」
「今日は”世渡り人”の鑑定を頼まれていてね。あの噂の女性を見極めるかなり重要な仕事だよ、」
”世渡り人”、異世界から突然この世界にくる人間という意味では、精霊界からこの世界に来た自分と似たようなものなのかもしれない。
それに、彼らは相応にして魔法や精霊すら知らない未知なる知識など、特殊な能力を持っているという。
「ボクは見たことないけど······波長は似ているのかもしれないよな。分かるといいんだけど」
「そうだね。でも、なんだか嫌な予感がするんだ。だから、防御系の結界は常時展開しておこうと思う。気を抜かないでね?出来なかったら本当に首輪つけるから」
にこっと笑ったヒューベルを見て、リルは直ぐに防御魔法を展開する。
高位精霊に魔法で叶うものはリルの知る中では大精霊様しかいないはず······。
「······でも一応······物理、魔法、精神攻撃に対する防御結界も展開しておこっ······これで大丈夫かなあ······」
そしてリルは、ピタリと立ち止まったヒューベルの横で直ぐに透明化の魔法を発動した。
「うん、よく察したね。今日は個室だから猫がいるとバレるんだ。ありがとう。っじゃ、行こうか。精霊の加護がありますように」
ロザリア王国での大事な時に言われるマジナイの様な言葉を呟いて、ヒューベルは目の前の扉を叩く。
アロラインと自称”世渡り人”にして、この国の”ロザリア”という名前を姓に持っている女性、ヴァレンティ―ナ・ロザリアに会うために。
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