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12. 王弟の秘密の部屋
部屋から出たヒューベルは自室に戻ると、バルコニーに備え付けの椅子に腰をおろした。
「リル、でておいで」
透明化の魔法を解いた白猫リルは、彼の隣にちょこんと座る。
「さて、観察してみてどう思った?元、高位精霊様?」
「······なんか本当に刺々しいんだよねえ、言い方がっ!でも、どうって······?」
「ふぅん、高位精霊は詳しく聞かないと推測もできないのか······」
「っ!シャー!ボクだってしっかり見てたよ!あの子は確実にこの国の人間ではない。でも魔力があるって感じはしないから、彼女特有の何かを持っているんだと思うけど」
ヒューベルはメイドが置いていった甘味に手をつけた。
スポンジ状のその甘味をフォークで刺して、甘さの少ない泡立てたクリームとやらと共に口に入れる。そして涎を垂らしている白猫を見下ろした。
「うん、でもそれはさっき聞いたよ。もう少し違った見解が欲しい所だね。オヤツはまだあげられないよ」
ふふっと妖艶に微笑んだヒューベルを見て、リルは皿に乗せられている甘味を見る。
そのフワフワなの······食べたい······そう思った時、ヒューベルがポツリと言葉を零した。
「······でもあれはちょっと、邪悪だな······」
「え、それ、主が言うの?」
ヒューベルはその言葉に、リルを睨みつける。
「どういう意味だい?勘違いして欲しくないのだけど。僕は別に邪悪な人間じゃないよ」
「······あんな部屋があるのに······?」
ヤバッ、口に出てた!とばかりに視線を逸らしたリルだったが、続くヒューベルの言葉に思わず小さく頷いた。
「君、これ以上その話をしたらその声出ない様にしてあげるからね?」
今度こそリルは黙る。言わないで心に留めておいた方がいいものもある、のだから。
ヒューベルはかなり優しい人間だが、その裏には大きな闇が広がっているような気がするのだ。
だから、あんな美しい調教部屋まで······。
そこまで考えて、リルは身体を震わせた。
一体何のためにアレが存在しているのかも、誰のためのものなのかも、今のリルには全く分からない。
でも、それは、最高級の器具や寝具などで作られた、城のどの部屋よりも美しい鳥籠のような部屋。といっても、あの部屋の存在を知るのは、僕の他に後二人だけだ。
人間の情事を覗き見する事が好きで大精霊様の怒りを買ったボクだって、流石にあの部屋で何が行われるのかは知りたくないもんなあ······。
ほんと、人間って色んな人がいて面白いや。
「でもあの女、腕輪の存在も知っている様子だったね。あれは王家の秘宝なのに······。それにロザリアという名前も、偶然にしてはできすぎている」
「か······考えすぎじゃないの······?」
思考を現実に戻したリルがヒューベルを見上げるが、彼は首を横に振った。
「考えすぎ、なんてものはこの世に存在しないんだよ、リル。考えが及ばないとどうなるか分かるかい?直ぐに足元を掬われる。こういうのはね、予測を立てながらやらないといけないのさ」
ヒューベルは瞳を閉じて椅子に凭れ掛かると身体を沈めた。
彼女は、”世渡り人”。
”世渡り人”は、このロザリア王国では保護対象であり、王族と同等の待遇を有する。
”世渡り人”は、その有益性と特異性から基本的には国王もしくは王族との結婚が義務付けられる。そして彼らは、一妻多夫、一夫多妻を許可される。
”世渡り人”の特徴は、その能力だ。
ヴァレンティ―ナの能力は先程見ただけでも”魅了”のような作用があるのだろう。だが、他にも共通する所に複数能力があると考えておいた方がいい。
では直近で自分に降りかかりそうな問題は······。
「僕は、それは絶対に回避しないといけないな」
「······え?主······なにを回避するの?」
ヒューベルは瞳を開けると、体勢を直し、目の前に広がる庭園を見下ろした。
アロラインが、ヴァレンティ―ナを連れて庭園散策をしているのが見えて、目を細める。
甥であるアロラインはもう魅了されているのだろうか······?
いや、彼奴は元々そういう趣味があるから、だとしても問題はないのか······?
でもそれならば、逆に助かる。
「それにしてもさぁ、ほんと良い人だよね、王太子君」
熟考していた隣で、ポツリとそう呟いたリルを見て、ヒューベルはリルの首筋を撫でる。
「ん~、にゃにゃあ、そのカイカイがたまらにゃい~んにゃ!」
「うん、本当に君は能天気だよね。まあ、そこが可愛いんだろうけど?」
その言葉にリルは毛を逆立ててヒューベルを見上げた。
「っえ?!は?ア、アホ?!高位精霊である、ボクの事を······「リル、君はね、もう少し人間の本質を見抜いた方がいい。アロラインがそんな良い人間に見えているなら根本的に、全くもって、分かっていないよ」
そう言われ、リルは遠くにいる王太子と赤髪の女性を見た。
ヒューベルが手を翳し、風魔法を使えば、彼らの声が少し拾われてリルの耳まで届く。
『やあ、皆。今日も美しいな。花が見劣りしてしまう様だ』
赤髪の女をエスコートしながらも、城内ですれ違う他の女性への賛美を忘れない。
そんな彼を良い人間と称して何が悪いのか?
リルは首を傾げた。
「いや、でもさ······王太子君、凄い周りに気を使ってるだろ?いつも皆の顔色見ながら話してるし。若いから怒られたりする事もあって、散歩中によく見るんだけどさ。いつもニコニコしてて凄いなあって」
アロラインは王位をヒューベルに譲りたいと進言しているようだけれど。
でも、あんな心優しい青年が国王になればもっと皆幸せになれるんじゃないか。
ボクはまだ直接見た事はないし、噂にしか聞いたことがないけれど······、少なくとも調教なんて特殊性癖をもっているらしい男よりは······。
「······リル。今考えている事は私にも伝わっているのだけどね?」
ふふっと楽しそうに微笑んだヒューベルを見て、リルは顔を引き攣らせる。
優しく、長い髭をゆっくりと撫でられ、リルの背中が総毛立ち、身体がピリピリとしびれた。
「んにゃ······」
「リル、君の口が軽いのは問題だね。この人間界には軽々しく言って良い事と悪い事があるんだ。分かっているよね?」
「にゃ······にゃい」
「まあ、一つ補足すれば······アルはね。あいつは······少し特殊な性的嗜好の持ち主なんだよ。あれは、国王にはなれる器ではないんだ」
”特殊な性的嗜好”という言葉が······”特殊な性的嗜好”の人の口からでてきた······?と、リルは顔を上げた。
けれど、心の中は読まれるから何も考えないように努める。
努めはするけどさ······でもじゃあ、要するに······”同類”ってこと?
本当に、人間の良く言う『血は争えない』って······この事なんだろうか。
リルを膝の上に乗せ、ゆっくりと撫でながら、ヒューベルは遠くをじっと見つめた。
「さて、今後はアロラインの動向もよく監視する必要があるだろうね。確かもうすぐ新学期がはじまるだろう?みんな同じ学年なんだもんね。アロラインも、ヴァレンティ―ナ嬢も······そして、シェリルも······」
その見つめた先がバルモント公爵家の邸の方角であったなんて。
少し、いや、かなりぬけている白猫リルには分かるはずもなかったのだが。
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