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14. 美しき清廉な悪役令嬢
翌日の朝、
シェリルは早朝に目を覚ました。
「悪役令嬢、という重要な役割を得られたという事は身だしなみにも気を使わなければいけませんよね」
身だしなみを整えて、何度も何度もチェックを重ね。
真っ白な制服に身を包み、高位貴族という事が分かるブローチを確認する。
白い髪を綺麗にとかし、彼女はその美しい腰まである髪を靡かせながら、部屋を出た。
時刻はまだ7時前だ。
1限目の授業が始まるのは8時半。生徒が登園してくるにはまだ早い。
だが、シェリルは今日の最大ミッションとも言えるヴァレンティ―ナとアロラインへの嫉妬する演技に緊張していた。
「あら、おはようシェリルちゃん。早いねえ、そんなに早く行っても教室は開いていないと思うよ?」
「お、おはようございます、寮母さま。ええと、緊張して部屋にいれなくて······」
「っ、ふはは!バルモント公爵家の御令嬢が新しい環境にこんなに緊張するものかねえ?まあ、最終学年に飛び入りなんだ······そういうもんかね」
寮母は笑いながらシェリルに手招きした。
「おいで、こっちだよ。昨日は言ってなかったからね。ほれ、この先が食堂だ」
大きな部屋に、机と椅子が並べられており、その奥には厨房があって既に辺りは美味しそうな匂いで充満していて、シェリルのお腹がギュルルルと音を立てる。
「す、すみません······!」
「お腹が減ってはなんとやらってね!」
軽快に笑った寮母の隣に並び、シェリルは食堂を見渡した。
「そ、それにしても······これが、食堂······ですか?」
「そうかそうか、大衆の食堂ってもん自体使った事があるわけないね。皆で座ってご飯を食べるんだよ」
「な······なるほど。わたくしはずっと部屋で食べておりまして」
「ほう!やっぱり良いとこの出は違うねえ!」
シェリルは施設では部屋で一人で与えられた食事を取っていた。
この世界に転生した後も、食事の質や量は全く違えど、メイドが持ってくる大量の料理を部屋で取っていたのだ。
だから、色々な人が集まって食事を取るなんて事をしたこともないし、想像も出来なかった。
「こんなに広い所で、様々な人と食事を頂けるのですね······」
シェリルの言葉に苦笑いを零した寮母はシェリルを連れて厨房の前に向かった。
「ここで、トレーを持って、好きなものを取って食べるんだよ。出来るかい?早く行くとしても朝食くらい取っていきな」
「は、はい。ありがとうございます」
手をヒラヒラと振りながらいなくなった彼女を見送って、シェリルはトレーに手をつけた。
チラチラと視線を感じ、シェリルはにっこりと微笑んでから頭を下げる。
「皆さん、バルモント公爵家がシェリルと申します。朝食、作って下さりありがとうございます。とても美味しそうです。大切に味わって食べさせて頂きますね」
シェリルは一人、席につくと朝食を堪能しながらも、これからやらなくてはいけない演技を頭の中で復習し始めた。
『あれが······本当に噂のバルモント公爵令嬢なのか?』
『ああ、間違いない。見た目はそれこそ精霊の化身と言われるくらい、この世の物とは思えない程美しいけど性格が最悪だって有名なんだ』
『確かにめちゃくちゃ綺麗だけど······性格もすげー良さそうだったけどなぁ?』
厨房ではそんな会話が繰り広げられていたとは、この時のシェリルには知る由もない。
◆
朝食を取り終わり、シェリルは校門へと移動した。
時刻は7時30分。あと半刻も時間があるが、こればっかりは仕方ないだろう。
だって緊張し過ぎていてもたってもいられないのだから。
『アロライン王太子殿下?私というものがおりながら、女性の方と親密にされるのは如何なものでしょう?私と殿下は婚約者······』
”こんなどこの馬とも分からない女と同じ馬車で登園するなど!”
というのが正解のようですが······親友に対してそんな言い方するなんて······できるのでしょうか?
そんな事を考えながら右に左に悩みながら歩き回っていれば、気付いた時にはもう校門は学園の生徒で溢れていた。
そんな時、一台の豪華絢爛な馬車が目の前に止まる。
シェリルはその馬車の前で緊張に身を包み、そして気合いを入れて両頬を叩いた。
さあ、頑張りましょう!
同じ制服を着た男性がシェリルの前を通過し、すぐに馬車の扉を開け、彼の隣で跪く。
「殿下、到着しました」
「ありがとうラルク」
そして、ラルクはアロラインの耳元で耳打ちをした。
「それと······修羅場っぽいっす。殿下の婚約者様いらっしゃいますけど」
アロラインがチラリと下を見れば、制服を身にまとったシェリルがいて、頬をぺちぺちと叩き赤くなっていて彼は顔を顰める。
「······何してるんだ、彼女」
「いや、なんかずっと一人でブツブツ喋りながら頬引っ叩いてちょっと悶絶してましたけど。あれ、本当に殿下の婚約者なんですよね?でも見た目はそのままだし······あの美しさを見間違える事なんかないもんな~」
「あ、ああ······まあ、良い。いつかはこうなるとは分かっていたからな」
アロラインは馬車を降りる。目の前にいるシェリルを一旦無視し、”世渡り人”であるヴァレンティ―ナが馬車を降りるエスコートをした。
ヴァレンティ―ナとアロラインが手を取り合って馬車を降り、それを見た周りの学生がキャアキャアと黄色い歓声をあげる。
そんな中、シェリルは声を振り絞った。
「ア、アロライン王太子殿下······おはようございます!シェリルでございます!!」
「······いや、知っているが······おはよう······?」
シェリルの声に学園の生徒達が野次馬の如く群がってくる。
『あのワガママバルモント公爵令嬢がお怒りだ!』『殿下と仲よろしくしている、平民の女に一泡吹かせるつもりだぞ!』と生徒達が面白みたさ半分、固唾を飲んで見守る中、出始めからしくじったシェリルは焦って次の言葉を紡ぐ。
「はっ······!わ、私というものがおりながら、女性の方と親密にされるのは如何なものでしょうかッ······?!私と殿下は婚約者······なのですよね······?っ······、」
大丈夫······まだ間に合うはずです。シェリル······考えるの······”婚約者”でありながら裏切られ、他の女性と親密にされるなど······怒って当然なのでしょう······っ。
その時、シェリルの純粋な心は怒りより悲しみに支配された。
自分の事とは考えていなかったが、”もし”こんなことがあったら、と想像したら······。
一筋の涙がシェリルの美しい瞳から零れ落ち、真っ白な頬を伝っていく。
その光景を見た瞬間、もう野次馬はいなかった。
皆がその美しい公爵令嬢に見惚れ、息を呑む。
「チッ、何してくれてんのよ······ッ!」
怒りに爪をギシりと噛み、小さな声で呟かれたヴァレンティ―ナの声だけは、その場の誰にも聞かれる事なく消えていった。
この場の誰もがシェリルの美しさに目を奪われていたのだから、至極当然の事だったのだ。
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