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20. 悪役令嬢は、タイミングを逃す※
「シェリル······」
匿名で自分の贈ったドレスを着て演習の会場に現れたシェリルを見て、エヴァンは手で口元を覆った。
頬が下がり、ニンマリと顔が緩むのを感じてそれを隠す為だ。
約9年前この学園を主席で卒業し、国の頭脳とも呼ばれている自分がこんな姿を見せられるはずもない。
「エヴァン様、この度はお越し下さりありがとうございます」
後ろから声をかけられ、エヴァンは直ぐに顔を戻して振り返った。
「ああ、学園長。今日はヒューベル殿下が用で来られなかった為の代理です。王族の出席ではなく本当に申し訳ない」
「いえいえ、エヴァン様は社交界でも有名な御方。そんな方に見て頂けるなど生徒達も喜びましょう」
学園長がエヴァンの隣に並び立ち、会場を見下ろした。
「まあ、とはいえ、我々にする事はほぼないのです。ただ、社交性を培うのが目的ですのでね。粗相がないかを監視し、何か気になる生徒がいれば担任に報告するというものですので、ゆっくりとしていって頂ければと思います」
「ああ」
学園長がいなくなったのを確認し、エヴァンは再び会場に目を落とした。
令嬢達に囲まれながら楽しそうに笑っているシェリルは、ついこの間まで噂になっていた”ワガママ令嬢”なんかとは程遠い。ヒューベル殿下の言った通り、昔の自分達の知るシェリル、だ。
やっぱりあのドレスにして正解だった。
自分の瞳よりは少し薄い緑の方が彼女の白い肌になじんでいる。
これをヒューベル殿下に見られたら早速殺されるだろうが······。
でもドレスを贈らなかったのは殿下なのだしな、と適当な理由をつけてそれを眺める。
「本当に美しいな······っ」
あのドレスの大きく開いた胸元から覗く谷間を見ているだけで股間に熱が集中しそうになってエヴァンは頭を抑えた。
「ダメだ、こんな······こんなことを考える為にドレスを贈ったわけじゃないのに」
そんな中、バンッと扉を開ける音が響いてエヴァンは顔を上げる。
「ああ、あの女か。······くそ、あの童貞王太子め」
認めたくもないが、未だシェリルの婚約者という(エヴァンにとっては)最高の立場でいながら、他の女にうつつを抜かす馬鹿。
そしてその女の周りに集まる男達も憑りつかれた様に目をギラギラと輝かせている。
「あの女、明らかに他の男とも関係を持つような女じゃないか。まあ”世渡り人”なんだから良いんだろうが······それにしても飢えすぎている」
明らかに異常。
本当にあの童貞王太子が好きというよりは、ゲーム感覚で多くの男性との恋愛を楽しんでいるようにしか見えない。
「関わりたくないな。けれど、」
シェリルが巻き込まれている事は確実だ。
それならば、しっかり彼女を守らなくてはいけない······。
エヴァンは、彼らの動向に細心の注意を払いながら、情報を集めるべく会場へと歩を進めた。
◆
時刻は夕刻を周り、社交界演習の終了が告げられる。
その後の社交は自由行動という事で各々が友人達と話を楽しむ中、シェリルは初めての演習に疲れ、一休みしようと校内の庭園に向かった。
「流石に疲れましたね······」
一息ついたのも束の間。
「んうっ······はぁっ」と苦しそうな息遣いが聞こえ、シェリルはその方を見た。
茂みの奥で令嬢と令息が逢瀬を楽しみながら、身体を抱き合い、口づけを交わしているらしいそれにシェリルは俯く。
「ああいう口づけは皆、普通にするものなのでしょうか?」
ヴァレンティ―ナとラルクの熱烈な口付けをみてから、それが頭から離れなくて。
恋愛自体したことがないし、男女の睦み合い自体、前世で彼女が物語の話を聞かせてくれた時に聞いたレベルだ。
「でも、ここは愛し合う男女で溢れているようですね······場所を変えましょうか」
隠れる場所の多い庭園は、婚約者や好意を寄せる相手との時間を楽しむ為のもの所らしい。
それを頭の片隅に置きながら、シェリルは席を立った。
その時、視界の端に真っ赤なショートヘアに濃紺と金地の美しいドレスを纏った女性が走り去って行くのが見えて、シェリルはすぐに駆けだした。
「あれは······ヴァレンティ―ナさん!なにか······次のイベントなるものがあるのでしょうか?兎に角、追いかけなければ!」
ヴァレンティ―ナが誰か異性といる所を見たら、必ず追いかけて邪魔をする事。を常日頃から義務付けられているシェリル。
だから、走り去っていったヴァレンティ―ナを追いかけたシェリルは間違っていなかった。
間違ってはいなかったが······シェリルは消えていった彼女を探すのに少し時間がかかった。
だから、その次の”邪魔をする”という行動に移す事ができず、図書室の中で行われるその様子を外から窓越しにじっと見つめる事しか出来なかったのだ。
だって、ヴァレンティ―ナは図書館の中、一角でラルクと濃厚な、シェリルも初めて見るような睦み合いを始めていたのだから。
◆
「っあぁ、ねえ、ラルク、キスして······っんう」
「ヴィヴィ······」
「ヴィヴィって今は公で呼んだらだめだよ?」
「今は二人なんだから良いだろッ!」
図書室の中、一角にあるこの個室は人の使用が少ない、所謂、穴場スポットだ。
ラルクが強引にドレスの胸元をおろせば、ヴァレンティ―ナの上向きの胸が顔を出した。
それらを両手で強く揉みしだくと、待ちきれずに真ん中で主張する突起に吸い付く。
「ねえ、ラルッ······!いっ、強く吸わないでって」
「あ、すまん」
ラルクは騎士でガサツなタイプ。
ベッドでは力強くガンガン攻める感じかな~とヴァレンティ―ナは少し気落ちする。
その間に、ラルクはドレスの下に潜り込むと、彼女の下着を一気に下ろした。
「へ?······ッいやぁぁっ、ン!だめぇっ」
ヴァレンティ―ナはドレス下から直接与えられる秘部への快感に思わず声が漏らした。
「静かにしないと誰かにバレるぞ、それに嫌じゃないんだろうが。ほら、此処、女なら皆、気持ちいいんだろ!」
ベロりと蜜口を舐められ、その上の突起に吸い付かれてヴァレンティ―ナの身体がビクリと跳ねた。
「ッ、やぁ、あぁッ」
ラルクの太い指が割れ目を撫で、ヴァレンティ―ナは咄嗟に身を捩る。
「待って、嫌······ダメなの、初めてだからぁ······」
「こんなに濡れてるのに、か?!ぜってえ入るのに!ああっ、クソッ!」
ラルクは悪態をつきながらスカートから這い出てくる。
アロラインと結婚するだろう彼女の処女は重要だ。今後王妃になるかもしれないのだから。
婚約して結婚前に彼らが一線を超えたとしても、確実に処女だったという診察は必要になる。
だから自分が彼女を犯すわけにはいかない。
そんな事くらいは馬鹿な自分でもわかる。
だからラルクは熱を持て余した欲望の塊をヴァレンティ―ナの前に出した。
「それなら、口でなら慰めてくれんだろ?」
「え?」
「ほら、口開けろよ」
ヴァレンティ―ナが何かを言う隙を与えず、ラルクは彼女の肩を下に押して膝まづかせると口内に肉塊を突っ込んだ。
「な、んん”っ!やあ”······んぐっ」
「ああ、気持ちいい······最高だ」
シェリルは頭が真っ白になり、思考が停止し、窓の前で硬直する。
そう、見るつもりはなかった。
ただ、その様子が図書室の外、個室の中の見える位置から見えてしまっただけだった。
でも、もし今、自分以外の誰かがこの光景を見ていたらどう思うのだろうか?
そう考えれば心臓がバクバクと音を立ててシェリルは必死で胸を抑えた。
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