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24. 白猫は任務を遂行する
「にゃんにゃん、にゃにゃーん!」
リルは王立魔法学園の庭園をご機嫌で歩いていた。
ヒューベルと共にいないときは、魔法が行使できない。
契約主である彼との距離が遠すぎるからだ。
不可能というわけではないのだが、契約主をかえさず力を解放すればそれなりの代償が必要になるから。
リルは普通の、ごく一般的な猫になった気分で、花の周りを飛んでいる蝶を追っていた。
そう、話さなければ普通の猫、なのだから!
「にゃ?」
庭園の茂みの奥で、二人の男女の影が動き、リルは口角を上げる。
『人間はほんと、万年発情期だからにゃ~!だから覗きたくなっちゃうんだよ!こんな学園でいちゃいちゃするにゃんてッ!!』
にゃひひひっ、と心の中で笑みを漏らしながら、リルは茂みの中からその場を覗き込んだ。
「アイザックぅ、ちょっと······ッはぁ······!」
「ヴァレンティ―ナ、キス、させて······」
ちゅっちゅしながら、制服の前ボタンを開けて手を滑り込ませている男と、女をみてリルはニンマリとした。
『おお、やってるやってる!良いねえ、久しぶりに見たな~。城だとメイドさんの自慰とか、メイドさんと騎士の禁断の恋モノしかみれないからなあ······!まあそれも良いんだけど、こういう初々しいのもやっぱり良いよな~!』
リルの今後の保身という意味でも再度言っておこう。
リルはこれでも元高位精霊だ。
あまりに人間の情事を盗み見する癖が酷く、大精霊の怒りを買い、地上に堕とされた、所謂、堕落変態精霊なのだ。
魔法も行使できず、見たり話したりする事もできない形ない魂のまま彷徨っている所をヒューベルに出会って契約して貰った。
だから、今ではこうやって話せるし、ヒューベルを介して魔法だって行使できる。
そして、こうやって大好きな覗きを永遠に出来るのだ!
ヒューベルには感謝しないといけない。と、リルは首を縦に振って頷いた。
高位精霊である自分の魂の器になるなんて、きっとこの国で精霊と魔力への適正が高いとされる王族、その中でもズバぬけて能力の高い彼しか有り得なかっただろうから。
「っふぅん、んっ······!」
「ああ、乳首もこんなに色づいて······可愛らしいな」
「っああッ!つままないでぇ」
「ほら、ピンッと立っていて喜んでいる様だ」
『なんだ······若い年齢にしてはねっとり言葉責め系なのか?うーん、まあこの国はなんか性に奔放だからそうゆうのは仕方ないのかなあ?』
その時、リルはその女性と目が合った······気がした。
「ッ、嫌!何、あれっ!無理無理ッ!」
「ど、どうした?あれ······?猫じゃないか······そっとしておいてあげよう、ほらヴァレンティ―ナ続きだよ「は?無理無理!猫とかアレルギーだし!しっしっ!どっか行ってよ!」
······気じゃなかった。目があったんだな。
リルは咄嗟にその茂みから逃げ出した。
『あの女、高位精霊であるボクに、”しっしっ”とかしていたよな!野良猫じゃあるまいしさ、本当に失礼しちゃうよ!』
あれ······?でも、あの赤い髪に目······それに······ヴァレンティ―ナって名前も······。
ご機嫌で庭園散策をしていて喘ぎ声と覗き見で全く忘れていたけど、アイツ、あの”世渡り人”鑑定して王城に居座っている女では······!?
リルは急いで今見た状況を頭の中で整理した。
あっぶない······!もし今回の調査対象である、あの女の存在に気付いていなかったら······!
そう考えれば、自分の主人を思い出され、リルの背中の毛がゾクゾクと波打つ。しかも、王城で鑑定に立ち会っていたのに、だ。
『君さあ、本当に高位精霊なの?一度会った人の見た目や名前すら忘れるとか······ねえ?』
とか······いや、それ以上にもっと、絶対に罵られる気がする!
でもさ、制服だとまたなんか雰囲気違って分からなかったんだ······よ······。
それにしても、本当にイヤな女だな、あの赤髪女!
リルが歩きながら、そんな言い訳を並べていると、奥まった場所に小さな噴水が現れた。
昔庭園として使われていたと考えた方が良いくらいの年季の入りよう。全体的に古びていて、手入れの全く施されていない場所だ。
そして、リルは、その噴水の淵に腰掛けている女性に目が釘付けになった。
「大精霊······さま······?」
清らかで美しく、その澄んだ心で何時も包み込んでくれる、まさに精霊たちが愛してやまない大精霊様······。
その時、真っ白な髪が靡いて、その青い瞳が驚きに見開かれる。
そして、彼女は愛おしそうに微笑んで手を差し伸べた。
「あら、可愛い猫ちゃん?迷ってしまったのでしょうか?大丈夫?」
リルは直ぐに言葉をしまいこんだ。
「っ、にゃー」
「おいで?お腹が空いているのなら、これくらいしかないのですけれど······食堂の方に分けて頂いたのですよ?」
リルは誘われるように彼女の膝の上に飛び乗った。
土で汚れたリルの肉球の跡が、真っ白な制服について、リルは慌ててそれを叩こうとする。
「ふふっ、貴方、賢いのですね。でも大丈夫よ?私は汚れても気にしませんから」
にっこりと微笑んだ彼女が魚の身を解して手に乗せる。それをリルの前に差し出した。
「にゃおにゃおにゃー!」
「大丈夫よ、ゆっくり食べて。お腹が空いているのね?もっと食べたいなら私のも食べていいのですからね」
リルは彼女の柔らかいな膝の上に丸まりながら魚を頬張り······───
彼は契約主ヒューベルを思い出した。
ヒューベルは、いつも『堕落精霊なのにデブ猫になったら大変だよ?大精霊様が気付いてくれなかったらどうするんだい?』とか言って、猫としての体調面を気遣ってかコントロールしているから······。
だから、こうやってバターたっぷりの魚を、それも解して食べやすいようにして······それもそれも、こんな美女から手で直接食べさせて貰えるなんて······!!!
最高!至福!天国!!
リルは彼女の膝の上にゴロンと横になるとその美しい女性を見上げた。
「あら、懐かれてしまったみたいですね······?お家はあるのかしら?もしないなら、私の寮に······と思ったけれど、それは流石にだめでしょうね······」
『こんな美女と寮に!?彼女の自慰なんかも見れるんだろうか······モグモグモグ』
魚を頬張り無粋な事を考えながらも、リルはこの学園にいる目的を思い出す。
『こんな所で美女に油を売ってたら、主に絶対に怒られるよなあ。早くもう一人の本命の子には会っておきたい所だ······けど······』
そう思った時、リルは、奇跡的にふとある可能性に気付いた。
『でも、その人って······確か真っ白な髪に······青って······彼女······もしかして』
じっと見つめる白猫の視線に、彼女はにっこりと優しく微笑んで、顎を撫で口を開く。
「猫ちゃん······名前が分かれば良いのだけど······私はシェリルよ、よろしくね?」
『やっぱり、この人が······シェリルさまっ······!僕、彼女、とってもすきだ!』
ゴロゴロ、と鳴ってしまう喉音を隠しもせずに、リルはうっとりと彼女を見つめた。
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