【R18/完結】転生先は親友だと思っていた友人の小説の中でした。- 悪役令嬢になりきれないから、王弟殿下に調教されています -

猫まんじゅう

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33. キス、できるのしょうか?



「はぁ······ヒュー様、いつになったらキス、してくれるのでしょうか?早くしなくてはいけないのに······」

 シェリルはヒューとの面会から帰寮し、制服のまま寝台の上に腰掛けた。枕をぎゅっと抱き抱え、ボスんッとそのまま横に倒れる。

 あの日、”僕にキスの練習の相手をさせて”と言われた日から、シェリルは何回かヒューと顔を合わせていた。

「でも······」

 でも、彼は話をするだけで、ソレを教えてくれる気配さえない。

 彼の隣に座って、シェリルの一日の学園での出来事や知られてしまっている過去の話を少しして。
 彼が楽しそうに笑うのを隣で見ていると自分も楽しくなってしまって、気づけばもう帰る時間になっているのだ。

 純粋に彼といて、とても安心するし、落ち着く。
 彼といる時間は自分のやらなくてはいけない使命を考えなくても良い気がして。

 でも、やはりふと思い出してしまうのは、ヴァレンティ―ナの言葉だった。

『キスの練習、一人や二人とくらいしなさいよ!媚薬をフル活用して篭絡させるようになってくれないと話にならないわ!』

 それができなければ、自分は彼女の”踏み台”にもなれず、見放されて友人をやめられてしまうかもしれない。彼女のおかげで、第二の人生を歩んでいるシェリルにとっては、親友の為に”踏み台”になるのは当然の事なのに。

 なら、どうしたらいい?どうしたらヒューは自分とキスの練習を始めてくれるだろう?

 そう考えて焦っても、勿論シェリルがどうにかできる事ではなかった。

 最初は早く練習を開始してもらわないと!と焦って、今日こそは自分から彼に頼もうと意気込んでいた気持ちも、何回も彼と会って話をすれば変わるわけで······。

「だって······ヒュー様を見ていると呼吸ができなくなるのです······キスして欲しいなんて頼むのも恥ずかしくなって······もう、今はどうやったら私にしてくれるのかも······」

 ”分からないの······”シェリルは自分の顔の隣に丸まっていたリルを引き寄せた。
 そして、リルを抱きしめながらその真っ白な毛に顔を埋める。

 そう、ヒューの事を知れば知るほど。
 彼と仲良くなればなるほど。
 逆にソレが段々と特別なものになってきてしまっているのかも······。

「リルにならキス、できるのですけどね······」

 目頭から耳にかけてマッサージするように撫でられて、リルはその心地よさにゴロゴロと喉を鳴らし目を閉じる。
 そして、直後、チュッと音を立てて唇がおでこにくっついた感触がして、リルは硬直した。

 キス······された?
 シェリルに?僕が?マ、マジかっ?!

 リルは顔をあげると、パチクリと目を瞬かせてシェリルを凝視する。

「ふふふ······猫でも驚くのね?お目目がまん丸っ。可愛いわ······私も貴方のようになれたら良いのに」
「っ······にゃー」

 リルがふいっと顔を背け窓を向いて、シェリルはそれを微笑みながら見て、寝台に座りなおす。
 そして、制服のポケットからヴァレンティ―ナから渡されている紙を取り出した。

「次の大きな行事は······中間舞踏会でしたね」

 ヴァレンティ―ナに叱責された王城の庭園での演習の後、キスの練習の為に何人か男性の名前を教えて貰っていたシェリル。けれど、シェリルはその男性達に自分から何か行動を起こす事はなかった。

 それは、あの日、ヒューが協力してくれると言ってくれたから、という理由があったからなのだけれど······。

「やはり、そろそろ問題だと思うのです······舞踏会まではもう······」

 時間がない。舞踏会はもう二週間を切っている。

 でも、同時にヒューに言われた言葉も気になっていた。今まで幾度となく見てきたヴァレンティ―ナと異性とのソレが本当のキス、だとして······。

「ヒュー様と······だけでなく······他の男性方とも、できる······のでしょうか?」

 沢山の方と唇を重ねる······。それは······、いや······。
 そう思ってしまってシェリルは顔を両手で抑える。

「はぁ······本当に、どうしましょうね」

 何人もと唇を重ね合わせるかも、という心配をする前に、自分に触れてすらくれないヒューとの今の現状はキス以前の問題だ。距離も適度にあり、何も発展しない事に焦りを感じつつも、今は本当に彼とキスができるのかを考えるだけで胸がドキドキして。

 顔を真っ赤にさせ、一人俯くシェリルに近寄ったリルは、ポケットを手でカリカリと触る。
 それに気付いたシェリルは、その中に入っているもう一つの紙を取り出した。

【ロザリア王国建国記念日、灯籠祭り】

 そう書かれた紙面に二人で目を落とせば、リルがシェリルを見上げた。

「にゃ~」
「これは······確か、今日ヒュー様が誘ってくださった、このロザリア王国の建国記念日、ですよね?」

 ロザリア王国の建国日を祝って年に一度行われるその祭りは、城下町もかなりの賑やかさをみせると今日ヒューが話していたばかりだった。

「とても、楽しそうですが······」

 そんな祭り、自分がいってもいいのでしょうか?
 一瞬顔を曇らせたシェリルを見て、リルはシェリルの身体に顔を擦り付ける。

「みゃああ!」
「なんですか、リル?ちょっと、くすぐったいわ!っふふふ!」

 グリグリと顔を摺り寄せられ、シェリルは笑った。

「でも、そうですね······その日は何かやるようにという指示はありませんから······」

 少し城下町に行って祭りを楽しむくらい、きっと大丈夫。
 前世では行った事も見たこともない祭りにワクワクしながら、シェリルは零れる笑みを隠さずに窓の外を見つめた。

「城下町デート······と言っていましたね。ヒューと······。とても······楽しみですっ」
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