【R18/完結】転生先は親友だと思っていた友人の小説の中でした。- 悪役令嬢になりきれないから、王弟殿下に調教されています -

猫まんじゅう

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60. 神の器で精霊を宿し



 シェリルは、ロイに連れられヒューベルの執務室に向かう。
 ここには以前来た事があるけれど、キスによる媚薬の所為で殆ど記憶がなかった。と部屋の入口を見つめ立ち止まった。

「シェリルかい?入って」

 ヒューベルの声にロイが扉を押し開ければ、見知った顔が見えてシェリルは咄嗟に腰を折った。

「失礼致します」

「おいで、シェリル。彼は、覚えているかい?」
「確か、建国記念日の際にお会いした······店主様?」

 ”彼”と言われた方を見てそう答えながら首を傾げたシェリルにその男が立ち上がった。

「バルモント公爵令嬢、ライザルと申します。昔は騎士団の団長を、現在は辞職ししがないバーを経営しておりました。ですが、今後は貴女様の護衛をさせて頂く事に······「先は僕が説明するよ」

 ヒューベルが背筋を正し、部屋にいる面々に緊張感が走る。
 そして彼は口を開いた。

「昨日、シェリルが襲われた事件。事後処理はエヴァン、そしてロイドはヴァレンティーナ嬢の拘束・監視をしてくれていたね。ご苦労様」
「いえ、護衛としての失態、本当に申し訳ございませんでした」

 エヴァンとロイドがシェリルに頭を下げ、シェリルは頭を振った。

「私が我儘を言い、寮に入ったから、いけないのです······お二人の所為ではありません」

「その件ですが叔父上。小型の爆発物も、誘導もヴァレンティ―ナが準備し行った事だと分かりました。ラルクも直接的ではなくとも、少しは関わっていたようです。本当に、シェリル嬢申し訳なかった······」

 目の前に座っていたアロラインが頭を下げ、シェリルは慌てて立ち上がった。

「で、王太子殿下が私に頭を下げるなどっ!」
「ああ、俺はもう殿下、ではなくなるから」

 その言葉にシェリルは困惑する。

「今日付けでね、アロラインは王位継承権を放棄する事になった。これは元々彼の考えていた事だから、シェリルの所為ではないよ?そして、彼には卒業後、辺境の地を任せる事になる。ヴァレンティ―ナ嬢は彼の監視下で一生を牢で過ごすことになる」
「え?」

 シェリルの視線を感じたヒューベルは直ぐに首を横に振った。

「シェリル、君にはまだ伝えていなかったけどね、昨日、国王がご逝去された」
「へ······?」

 シェリルは驚きに口を手で覆った。

「ヴァレンティーナ嬢はそれを知っていたらしい。それだけでも殺害を疑われかねないのに、君を殺意を持って襲ったんだ」
「それは······」
「アロラインが王位継承権を放棄したという事は、どういう事かわかるかい?」

「そ、それは······ヒューベル様が国王に······?」

 うん、とヒューベルは頷く。

「そして、僕は貴女以外に妻を娶る気はない。要するに、君に王妃になってほしいと思っているんだ。未来の王妃を殺害しようとしたなど、本来は拷問の末、死刑だよ」

 彼はあまりに冷たく、感情の籠らない声で言葉を続けた。

「それを免れただけでも感謝してほしいくらいだ」

 そのヒューベルの残酷な言葉にシェリルは俯いた。

「その拷問の末に死刑······私の結末だった筈なのに······」
「だから言っただろう?もう何もかも変わってしまったと」

「シェリル嬢、これはヴァレンティーナが自分で招いた事だし、加担していた僕にも責任がある······本当にごめん。叔父上の所から監視役を一人つけるという事で漸く合意して貰えたんだ。あれでも、僕は本当に彼女が好きで······失いたくはないんだ······許して欲しい」

 アロラインが申し訳なさそうにそう言って、シェリルは顔をあげる。

「当たり前です······ヴァレンティ―ナさんに死んでほしくなど、ありません」
「アル、次はないよ?」

「はい······国王陛下、寛大なお心に感謝致します」

 ヒューベルが頷いて、シェリルは彼を見つめた。

「ヒューベル様。ですが、やはり私に国母が務まるとは思いません······」
「それなんだけど、神殿長。彼女は、いや、彼女、というべきかな?“世渡り人”なんだ」

 その発言に部屋の皆が息を呑み、シェリルが唯一見た事のなかった神殿長と呼ばれた老人が目を細めた。

「ほう、なるほど。じゃが、他にもあるのでしょうな?」
「ああ、勘がいいな。彼女は······神の······精霊の器を所持している」

「神の······器、じゃと?どれ······拝見してもよろしいですかな?」

 老人は興奮した様に立ちあがるとシェリルに近づき、彼女の掌にそっと聖水をかける。
 真っ白な光がシェリルを覆い、シェリルは体内に温かいぬくもりを感じ瞳を閉じた。

「リル······なの?私の中にリルが······」

 直後、老人が目を輝かせてひれ伏し叫び声をあげてシェリルはびくりと肩を震わせる。

「精霊に愛されし王妃!······私はもう死んでも悔いはない!!」

「精霊に愛される······だと?」
「神の器って?!」

 周りが騒めき、ヒューベルは手を挙げてそれを制した。

「僕の白猫は高位精霊なんだ。アレはたまたま会って、契約をしていたのだけどね、昨日彼は自らの意思でシェリルを庇って消失した。いや······するつもりだったんだ」

 けどね、とヒューベルはシェリルを見つめた。

「シェリルは”神の器”だった。転生者のギフトのようなものだろうね。そして、リルの魂が消失する直前、シェリルはリルの魂を受け入れその身に宿すことに成功した、というわけなんだ」

「······では、リルはもう出てこれないのですか?」

 シェリルの顔が悲しみに染まり、ヒューベルは彼女の髪を撫でた。

「大丈夫だよ、リルは力を使いすぎたんだ。今は昏睡状態で、君がその器を使えるようになれば、また何かの動物になって具現化できるって」

「本当に?!······良かった!」

 ホッと胸を撫でおろしたシェリルの前に、ライザルが歩いてきて傅く。

「このライザル、貴女様のような方の護衛になれる事一生の誇りでございますッ!」

 褐色のやけた肌に筋肉隆々とした大男が涙を流してそういった事にシェリルは少し顔を引き攣らせる。

「えぇ···と」
「シェリル、精霊に愛される人間は国王以外今まで存在していない。本当にあり得ない事なんだ。皆が君を敬い、懇願してしまう程に王妃に相応しい存在なんだけど······僕の妻に······なってくれるかい?」

 ”僕の妻に。そしてこの国を、発展、繁栄させるために力を貸してほしい”

 そう言ってほほ笑みながら手を差し出したヒューベルを見て、シェリルに返す答えは一つしかなかった。

「······戦争のない、平和な国が作れるのであれば。貴方の妻となりこの国の為に尽力したいと思います」
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