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62. 新しい未来
それから、直ぐに。
ロザリア王国では、国王の逝去が知らされ、ヒューベルが国王の座についた。
時を同じくして、シェリルが”世渡り人”であり、”精霊を宿した神の器”である事が公になり。
学園卒業後、二人はすぐに結婚、そしてシェリルは王妃となった。
これに関して国民は反対する者は殆どおらず、国中が祝福ムードに包まれていたという。
それもそうだろう。この国では精霊を讃え信仰しており、国民や神殿から見れば、シェリルは神の化身といった所なのだろうから。
ヒューベルは執務室の椅子に腰掛けて、一枚の報告書を取った。
「陛下、そちらはアロライン辺境伯の所にいる監視からの報告書でしょうか?」
ヒューベルは宰相となったエヴァンの顔を見ると頷いてその紙を彼に手渡した。
「ああ。楽しそうだよ?反吐がでるほどにね」
エヴァンは報告書をに目を通し、顔を歪めるとその報告書をぐしゃぐしゃに丸める。
「ラルクがアロライン様を縛り、檻の中には複数人の男······目の前で彼女を犯させ······「綺麗な言葉への翻訳ご苦労。まあ、アルはドM。元からそれが目当てだったから。とはいえ、彼は生意気な女性がそういう目に合うのを見るのが好き。だからSであるとも言えるよね」
「そこに愛は感じませんが。ちょっと理解が······」
「愛、あるんじゃないかい?ヴァレンティ―ナはアル達の性奴隷になっている様だけど、未だ抵抗していて、それもアルが絶対に離さない理由なんだろう。
まあ、理解できるとかできないじゃないんだ。そういう狂った人間もいる、という事だよ」
「そんなの······殺された方がマシだ······」
「ふふっ、僕もそう思うけどね」
その直後、扉が叩かれて、ヒューベルは嬉々とした声を出した。
「シェリル!入って!」
「ヒュー様!執務中申し訳ございません······ですが、遂に出来たのですっ!!」
”出来たのです!”という言葉に、エヴァンは目を見開く。
「えっ?!御子ですか?!!」
「シェリル様!転んで御身に何かあったらどうするのですかッ!」
後ろから飛ぶように走ってきた大男ライザルの言葉も相まってヒューベルは硬直する。
「いやいや、エヴァンそれはないよ。いくらなんでも早すぎ······って、え、違うよね?シェリル······?」
まあ、ちょっと早い気もするけど、避妊はしていないんだし、シェリルとの子供なら嬉しいけど。
そう思いながら、ヒューベルは彼女を穴が開くほど見つめ、シェリルは顔を真っ赤にして俯いた。
「ち、違います!それは······いつかは欲しいとは思いますが······ってそんな恥ずかしい事言わせないで下さい!」
内心ホッとした自分と、少しガッカリした自分の感情に驚きながらも、ヒューベルは席を立つ。
「シェリル、落ち着いて。何が出来たんだい?魔法かな?」
リルを取り込んだシェリルは、理論上は魔法が使える。
その為、最近ではシェリルは王妃教育以外にも魔法の行使練習をしていたのだ。
「違います······いえ、違わないのですがっ······リルを動物化させる事に成功しました!」
その言葉にヒューベルは腰を浮かせると身体を前のめりにした。
「なんだって?!どこに?また猫になれたのか?」
「そ、それが······今回も猫にしてさしあげようかと何度も挑戦したのですが、未だ私の力が足りず、リルは言葉を発する事ができなくて······」
シェリルが悲しい顔をして、ヒューベルはあまり気負いしないようにと再び椅子に腰掛ける。
「いや、大丈夫だ······ゆっくりで良いんじゃないかい?」
「それで、思ったのです!鳥の中には言葉が喋れる種がいると言うではないですか!」
その言葉に室内が静まり返り、それを聞いていたエヴァンが堪らず吹き出した。
「っふ、はははッ!本当に面白い事を考え付きますね······っはははは!」
それからシェリルは扉を振り返ると嬉々とした表情で名前を呼んだ。
「リル、そこで隠れてないで······来て下さい?」
トボトボと、尻尾を引きずりながら姿を現わしたのは大きな真っ白の鳥で、その瞳にはリルの落胆し恥じらうような魂が見えてヒューベルは口元を抑えて席を立った。
「本当だ······リルだな。っふ、面白い······」
「ワラウナ、フケイ、ダ」
「っひ、ちょっと待って下さい、お腹痛い······」
エヴァンが柄にもなくお腹を抑えて笑い始め、ヒューベルも瞳に涙を溜めた。
「ああ、最高だね······。鳥になったのか······。話せるようになるまでの辛抱だとは思うけど、このままで良い様な気もする······っぷ······くくくく」
クツクツと笑うヒューベルを見て、シェリルは頬を膨らませる。
「リルを笑わないで下さい······私の能力が足りないだけなのですっ」
鳥ことリルは、羽を広げるとシェリルの肩に止まった。
そしてヒューベルを見ると羽を震わせて口を大きく開ける。
「シェリル、ダスゾ、ハラメェ」
その言葉に、シェリルはヒューベルとの昨夜を思い出し赤面し、ヒューベルは妖艶に微笑んだ。
「そうか、そうか。覗き見は健在という事だね?なるほど、大精霊様に変わって躾が必要みたいだ」
「······」
身の危険を察し、直ぐに飛び立とうとしたリルの身体を掴み、ヒューベルはシェリルに微笑んだ。
「シェリル、鳥籠に入れておくというのはどうだい?私たちの使っていない部屋に鳥籠があるだろう?あそこなら広くてリルも喜ぶと思うんだ。世話はそうだな······ロイが向いていそうだ······」
シェリルはそれに目を輝かせて頷いた。
「そうですね!あの鳥籠も使われないよりも使われた方が嬉しいかもしれません!」
『えぇぇ?!本当にそう思うの?!』と出掛かった言葉を飲み込んだエヴァンは、溜め息をつくと二人を見つめた。
ヒューベル、そしてシェリル、どちらも別の意味で自分の慕う二人の人間だ。
これでいい。
二人を支える事が自分の役目だと、元々分かって決めていたことだ。
あの学園の舞踏会演習で最後にすると、彼は気持ちに蹴りをつけた。
「御二方、あまりリルをいじめて、精霊の怒りを買わないように······」
「いや、リルは覗きの趣味があって精霊界を追放された元高位精霊だからね」
「は?」
知らなかったあまりの事実にあんぐりと口を開けたエヴァンの横で、リルは大声を出した。
「ソレハ、イワナイ、ヤクソクデショ!!」
◆
ロザリア王国の新時代は今まさに始まったばかりの様です。
一人の少女が自分の私利私欲の為に創った世界は、全く違う結末を迎え、新しい未来を切り開こうとしております。
悪役令嬢になりきれなかった精霊の愛し子は、これまた精霊に愛されし国王である夫に溺愛され、寝台の上では未だに”悪役令嬢”になりきれずお仕置きをうけているらしいのですが······それは誰も知る所ではありません。
ああ······あの、ワタクシが追放した一匹を除いて、は。
「ヒューサマァ、オシオキ、スキナノォ!タタイテホシイノォ!」
「きゃああああ!恥ずかしい!やめなさい、リル!また覗いていたの?!!」
「ああ、最近はこの国にも大型の獣が頻出しているらしい······この鳥を焼き鳥として進呈しようか?」
「ウアアア!ノゾキ、ダメ、ゼッタイ!!」
ん”ん”っ、本当に懲りないお馬鹿精霊ですこと······!
人間界の皆様、精霊であっても覗きは犯罪でございます故、ほどほど、になさるとよろしいかと思います。
長い期間に渡るお目汚し申し訳ございませんでしたと、大精霊としてお詫び申し上げます。
では、心の澄んだ皆様に、精霊の加護がありますように。
───── 完 ─────
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