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29. 彼女の、魔力は
本日は切れず長めです。
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ぐらり、と視界が揺れ、リリアーナはぐったりとした。ひどい頭痛と、吐き気を催す感覚だ。
『······気持ち悪い······、』
目をあければ、見知った自分の部屋ではない、黒で統一された大人な雰囲気の部屋が広がる。その奥には金色の美しい重厚な扉があって、ヴィクトールがそれを押し開ければ広い豪華な寝台が見えた。
ぐるぐると回る瞳を閉じて、ヴィクトールの腕を必死で掴むと、彼はリリアーナを心配そうに見つめ口を開いた。
「リリィ、大丈夫か? 転移酔いか?」
状態回復のポーションはどこにあったか、とヴィクトールは考える。
こんな時、治癒でもしてあげられれば良いのだが、生憎自分に光魔法による治癒は使えない。闇魔法の治癒は少し危険すぎるだろう、とヴィクトールはその選択肢を消すように首を横にふった。
─────いや、もし使えたとしても······
と、彼は体内の魔力を探知する。
”ルドランテ”は神殿長と皇帝しか使用することが出来ない起源の誓約魔法である。
そして、誓約魔法には合意と媒介となる物が必要で、それは基本的には血液や体液となる。
自分の精液と彼女の破瓜を媒介として行った今回の誓約魔法はあまりにも強大だ。
『無断でこれを破れば、軽くて、機能不全になるか、子を成せなくなるか。相手も詰まるところは同じような事になるだろう······、』と考えて、自分の強すぎる独占欲と支配欲に呆れる。
まあ破る以前に、触れることすらも叶わないだろう。だが、これで他の男に彼女が勝手に奪われる心配はなくなった。
”ルドランテ”の解除や変更には互いの同意と誓約の上書きが必要だ。だから、ヴィクトールが独占欲を剥き出しにしている今、その誓約が切れるのは確実に死を分かつその瞬間までしかないと言える。
相手を選んで誓約を少し緩める例外があるとすれば血縁者に当たるだろう。例えば、リリアーナの兄レイアードが血を媒介としてお互いの同意の元、誓約を緩め彼女に触れたりすることは可能になる。
十分な魔力量を保有しているヴィクトールでも、そんな強大な ”ルドランテ” の発動と転移魔法を使ったのだ。半分以上は魔力を使用したに違いない。
───そして感知した魔力量に思考が停止した。
「───魔力が、完全回復している、だと?」
あり得ない。”ルドランテ”と転移魔法を使って魔力が減らないなど、いくら自分であっても、それは化け物だ。
そして寝台に横たわるリリアーナを見て、彼は一つの仮説に辿り着いた。そして堪らず言葉を零す。
「リリィ、あなたは······、魔力切れ、なのか?」
直ぐに念話を飛ばし、医師のマチルダを部屋に呼び出せば、マチルダは彼女を診てその仮説を肯定するような一言を発した。
「陛下っ、皇后陛下は酷い魔力切れを起こしております! 今すぐに魔力回復薬を処方致します!」
深く熟考の渦の中に入ったヴィクトールの隣で、マチルダは最高級の魔力回復薬を何本も彼女に投与していく。
そして少し経ち、リリアーナの魔力が落ち着いたのを確認するとヴィクトールに向き言葉を発した。
「陛下、これで大丈夫かとは思いますが······かなり体力を消耗しているようです。明日までは目覚めないかと······、」
「分かった」
ヴィクトールは頷くとリリアーナの専属メイドであるイリスを彼女の傍に控えさせて部屋を出る。
そして自分の執務室に入り、椅子に腰掛けるとすぐに筆をとり文を書き始めた。
宛名は勿論、王国のシャルロン公爵、リリアーナの父だ。
「結婚式の日取りと、【シャルロン公爵家の歴代の女性に関する魔力とその能力の開示を求める】で良いか、」
王国も内政が荒れてきているのだから、あまり詳しい内容を書いて誰かに読まれたら、それこそ問題である。
何故なら、自分の仮説が正しければ─────
彼女は最高位の光魔法、大治癒の使い手だ。
───それも、初代女神と同じ完全完治の治癒。
その時、執務室の扉が叩かれた。
「失礼致します」
「セドリック、か」
「陛下の御前、失礼致します」
ヴィクトールは彼を一瞥し、手元にあったシャルロン公爵宛ての文を魔法陣に乗せた。
「陛下、神殿での魔法は······」
「ああ」
「あれ程の魔力の波動、私は戦場での貴方様のもの以外存じ上げません」
「そうか」
「なんだったの、ですか? 」
「─── “ルドランテ”、だ」
その言葉を聞いて、セドリックは目を見開いた。
「っ、あの、危険な起源誓約魔法ですか?!!
どうしてっ! 御身に何かあればっ!!」
「ああ。お前のその忠誠、有難く思う。
だが、俺はリリアーナを失う事はできない」
「だから······初夜の儀······を捧げて、誓約を完成させたのですか······?」
「俺は側室を娶るつもりはない、と言っただろう?
ああ、だがまだ彼女のものは未だ完全に定着していない。公にするのは時を待て、」
側室をとる気は“今は”ない、と言っていたのは、“誓約魔法を施すまでは”、という意味だったのか。と、セドリックはその時初めて納得した。
「承知致しました。本気だったのですね、」
「これで皇妃の問題は片付いたな、本当に心を搔き乱してくれた」
リリアーナとの関係性を危うくした一番の問題 ”皇妃候補実習” などという馬鹿げた物に関してはもう不可能になったので片が付いたと思って良いだろう。ヴィクトールはそれを軽く考え、水に流すことにした。
「それで、ヴィクトール様。何故此処に?」
もう夜の帳は降りて辺りは深い闇に包まれている。神殿での初夜の儀の後なのだから、普通であれば自室での初夜を堪能している所なのだ。
「ああ、リリアーナが転移の魔力酔いで倒れてな」
「······そうでしたか、」
リリアーナの能力に関しては未だ仮定の域であり明らかになっていない事が多い。まだ本当の事は誰にも伝えなくていいだろう。とヴィクトールはそれを隠した。
「セドリック、お前、祖父母は健在だったな?」
「はい。あの時に、彼らは他国へ旅に行くという名目で逃げております。捕えますか?」
「お前なあ、別に我々は殺しをしたくてしているわけではないんだぞ、」
「······そうでしたか?」
にっこり微笑んだセドリックを見てヴィクトールは重々しいため息をつく。
「では、お前の祖母に文を出せるか? 彼女は確か、シャルロン公爵と血が繋がっているだろう?」
「はい。文を出すことは可能ですが?」
「まあ、なんだ。あの時のようにリリアーナと会ってやって欲しいと思ってな。血が繋がっているのだから、会いたいだろう」
「なるほど、そんな理由でしたか。承知致しました。お心のままに、」
シャルロン公爵への文も送ってあるし、セドリックの祖母にも会えば彼女の能力について更に分かる事もあるかもしれない。とヴィクトールは机に目線を落とす。
「ヴィクトール様は蜜月はお取りにならないのですか?」
「ああ、そうだな。婚儀の準備が未だ忙しい。明後日からは他国の要人も集まる頃だろう」
「では、明日くらいはゆっくりなさって下さい。仕事は私が引き受けさせて頂きます。
明後日には王国の一行が参りますしね」
「ああ、」
ヴィクトールはセドリックを見て頷いた。
「王国の媚薬関連や人身売買の件、こちらで黒幕の調べはほぼついております、」
「そうか、では明後日は牽制のみして、本格的な駆除は婚儀の後にしよう、」
「はい、新王太子妃の父レーボック子爵にお会いするのが楽しみですね」
セドリックは、椅子に腰掛けたヴィクトールを見て部屋の奥、高級な酒の並ぶ棚から一つを取り出してグラスに注ぐ。
そしてそれを持って彼の前に立つと、流れるような所作で跪いて祝言と共にグラスを差し出した。
「ヴィクトール陛下、本日は誠におめでとうございます。······あれから約八年ですね、」
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