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36. 王国の、決断①
「───以上が王国で起こっていた事です。皇国にも多大な迷惑をおかけしたかと思います、」
人身売買、媚薬、錠剤、レーボック子爵の逃亡、ルリナの投獄、と順を追って話していく王太子クリストファーの話をヴィクトールは驚く様子もなくただ淡々と聞いていた。
まるで知っていたかのような、あまりにも淡泊な反応。それに、一切変わらないその表情も感情が読めずに不安になるほどだ。
ただ一度だけ、白い錠剤の話題が出た際に隣に立つ宰相セドリックがヴィクトールに耳打ちをした。
「その錠剤、物はあるか?」
「はい、本日持ってまいりました」
「それは後ほど見せて貰おう。それ以外の件についてはこちらでもほぼ調査が終わっている。貴殿の話と相違はなさそうだ。王国への沙汰は追って出そう、」
やはり情報の精査が早すぎる、とアレクセイは舌を巻く。
そして、隣に立っていたクリストファーがリリアーナに向かって頭を下げた。
「皇后陛下、本当に申し訳ない事をした。貴女を傷つけ、人生を狂わせてしまった罪、この我が一生を持って償おうと思っている」
「いえっ、クリストファーでん······「もう良い。貴殿に償ってもらう事はもうなにもない」」
”クリストファー殿下”と言おうとして、隣にいるヴィクトールに手で制され口を噤む。
「それと、もう一つ謝らなければならない事が 」
クリストファーは悲壮感に塗れた表情でぎゅっと拳を握りしめながら俯いた。その重い沈黙の後に発せられた一言に、謁見の間は凍り付く。
「 ───······シャルロン公爵が暗殺されました」
”シャルロン公爵が暗殺された”
という言葉が部屋に響き、リリアーナは目を見開き両手で口を抑えて席を立った。
「お、お父さま・・・が・・・?い、いやあぁ・・・っうぅ、、」
大粒の涙を流して崩れ落ちるリリアーナを、ヴィクトールが席を立つよりも早く、風魔法を駆使しながら飛んできたレイアードが抱き留める。
「っ、リリアっ! 僕の大切なリリアーナ、、、!」
横に立っていたセドリックがレイアードを止めようと身体を動かしたのをヴィクトールは制した。
レイアードは怒りを露わにして剣を抜き、リリアーナを抱きしめたまま真っすぐクリストファーとアレクセイを見据えると、剣先(それ)を向ける。
レイアードのアルカナを纏った銀色に輝く剣がパキパキと音を立て氷に覆われ姿を変えていく。
「 犯人は誰かな? 本当に無能な王国の騎士団が、英雄一人も守れないなんて。
······あれ? という事は、、父上を暗殺できたんだから、王国じゃないか。他国の、それも相当な······」
顎に手を当てて考え込んでから、すぐ興味を失いどうでも良さそうな表情をしたレイアードは静かに涙を流すリリアーナを優しく抱きしめた。
「まあ、どうでもいいか。王国なんてもうどうでもいいもんね、リリア?」
そしてその零れ落ちる涙を指で拭うと、しっとりと濡れた頬に口づけを落とす─────────
と同時に、ビリビリと全身が痺れて硬直する。直後、目の前が真っ暗になり闇の中に引きづりこまれそうになって、レイアードは反射的に彼女から距離を取った。
そして再び崩れ落ちる彼女の身体を抱きとめたのはヴィクトールだった。
「げ、げんかく、かっ? 何が······、、」
強大な雷魔法が絡みついたように全身がビリビリと帯電し未だ身体を動かす事もできずレイアードは蹲って両手を見つめる。確かにいま、真っ暗な闇に捕われ引きずり込まれそうになった。
「ほう、やはり近しい血縁だとそこまで効力はないのだな。普通であれば彼女に触れた時点で闇に引き摺り込まれているぞ?」
「······な、なんのこと、、です、かっ······」
「それを話す前に。まず一人で怒り任せに動くな。
戦場であれば死ぬぞ?」
重みのあるその言葉にレイアードは息を切らしながらも黙って頷いた。
「······申し訳、ございま、、せん。」
「とりあえず、王太子殿下、シャルロン公爵の暗殺は貴国の者ではないのだな?」
「っ、はい······。私の父上、現国王陛下も、既に薬漬けにされておりました。もう先はないでしょう。
その現場を公爵が見たのかと思われます。口封じとして暗殺されたと、私達は考えております」
ヴィクトールは頷き、メイドにリリアーナを自室に連れて行くように指示を出す。彼女が退出したところで椅子に腰かけレイアードを見た。
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