スパダリと異世界に行くことになりました

白川とも

文字の大きさ
3 / 5

第3話

しおりを挟む
 情報の神の声が聞こえなくなり、辺りは静まりかえった。
 沈黙に耐えられなかった俺はとりあえず自己紹介をすることにした。

「えっと、は、はじめまして。白谷雪って言います! お、お願いします!」

「俺は黒澤要だよ。よろしくね。雪くん」

「は、はいっ!」

 し、下の名前~!

「雪くんは異世界のこととか、よく知ってるの? なんか神様と色々話してたけど」

「あぁ、アニメとかゲームで少しは......」

「そっか、俺、全然詳しくないから、わからないことあったら教えてくれる?」

「も、もちろんです! で、でも、なんで神様に転移と転生って聞かれた時、転移って言ったんですか?」

「あぁ、それはね。転生しちゃうと、どこの誰かも分からない人の子どもになるってことでしょ。そうなると、雪くんと出会えるかもわからないし、自由が制限されかねないからだよ」

「なるほど。たしかに、自由が制限されたら世界も変えられないですよね」

「うん。ここにいつまでもいるわけにもいかないし、この世界について調べに行こっか」

「は、はい!」

「ここは洞窟みたいだから、まずは出口見つけないとね。持ち物に地図ってあったけど、それ見ればわかるかな?」

「ちょっとまってくださいねあ。えっと、〈地図〉......おぉ、出てきた」

「さっそく使いこなしてるね。すごい」

「へへ、簡単ですよ。使いたいものを心で唱えればいいだけだから」

「たしかにね。じゃあ俺も、〈地図〉.......お、出てきた。えっと、へぇ、この地図すごいね。現在地がわかるように印ついてる」

「ほんとだ」

 GPSでもあるのかな、この世界。

「ここは四季の洞窟みたいだね」

 四季の洞窟って、神様が言ってた「四季の土地」の近くかな?

「とりあえず、出口向かいましょ」

「うん」

 どうやら、俺たちは洞窟の奥深くに転移したらしく、出口までには距離がある。

「そろそろ行こっか? 歩きながら色々教えて欲しいんだけどいい?」

「あ、はい! 俺もそんなに詳しいわけじゃないから、あんま期待はしないで欲しい......です。」

 異世界とか好きだけど、アニメとかでしか見たことないから、ちゃんと説明できるか不安だ。

「全然いいよ。これから二人でいっぱい知ればいいしね」

 これから? ふたり? プロポーズ......。

「プロポーズ、ですか?」

「えっ、あー」

「あっ、えっ、わ、忘れてください!」

「ははっ、俺の方が変な言い方したからね。ごめんごめん」

 俺のバカ! 何言ってるのんだ。そんなはずないだろ。俺なんか......。きっと、この世界でも前の世界でも要さんはめちゃくちゃモテる。そして、綺麗な女の人と幸せになるんだ。

「雪くん?」

「あっ、ごめんなさい。えっと、歩きながらこれからについて考えましょうか」

 ここからは歩きながら話すことになり、俺たちは出口に向けて色々な話をしながら進んだ。

 30分が経過し、光がようやく見えてきた頃、要さんがふと口を開いた。

「常時発動するスキルって何にしてる?」

「俺は、〈探索・探知〉と〈魔法の創造・操作〉、あとは強化系と回復系ですね」

「前2つは神様に言われてたけど、強化系と回復系は何でつけてるの?」
 
「魔法の使い方とかまだ慣れてないし、突然襲われて死にたくないので。ちょっとした対策です」

「なるほど。俺もしよ」

「はい! そろそろ外見えてきましたね」

「そうだね。まずは外出たら食料と寝床探さないとね」

「あっ、それなんですけど、まずは人族の領地に行きませんか?」

「んー、そうだね。この世界のこととか色々知りたいし」

「はい! あっ、要さん。魔法創造で〈言語翻訳〉作ったんですけど、要さんも作っておくといいと思います! 異世界転生系だと言語が伝わらないってことがよくあるので」

「〈言語翻訳〉か。さすがだね」

「へへっ」

 褒められた褒められた褒められた!

「人族は、地図によると「四季の洞窟」の西側にあるけど、少し遠いね」

「はい」

「あ、これ使えるんじゃない? 〈瞬間移動〉と〈転移〉っていうの」

「そうですね。でも、多分〈転移〉は使えないと思います」

「なんで?」

「おそらく〈転移〉は1度言ったところにしか行けないので」

「なるほど。じゃあ〈瞬間移動〉っていうのは?」

「うーん、多分目で見える範囲に行けるというものだと」

「なるほどね~。じゃ、1回使ってみようかな」

 そう言うと、要さんは俺の横から居なくなった。キョロキョロしていると頭の中に要さんの声が聞こえてきた。

『雪くん、聞こえる? 洞窟の入口にいるんだけど』

 〈念話〉かな?

「は、はい! 聞こえます! 俺もすぐ行きます」

 照準は洞窟の入口。〈瞬間移動〉

「おぉ」

「お、来たね。これ使うと移動も楽だね」

「はい! この調子で人族の土地まで行きましょ!」

 そうして俺たちは人族の土地に向かった。
 地図によると、北は魔族領、南は人族領、東は四季の土地、西は森らしい。色々地名はあるみたいだが、この「王都」と書いてあるところに行けば間違いないだろう。
 そうこうしているうちに人族の土地が見えてきた。

「雪くん、〈瞬間移動〉はここまでにしとこうか。不審がられると困るからね」

「そうですね。検問のようなものもありますし」

 おぉ。あそこで検問係してる人が着てるの甲冑だ。かっこいい。そして異世界っぽい! 
 検問の前には短みな列があり、斧を持った屈強な男たち、荷馬車に乗った偉そうな人と、その荷台に乗った獣耳の子どもたち、旅人らしき人たちがいた。

「ここからは歩こっか」

「はい」

「すごいね。人に耳があるのなんてつけ耳で以外見たことないよ」

「それは俺もですよ」

「それにしても、大丈夫なのかな? あの子たち」

 恐らくあの荷台に乗っているのは、神様の言っていた奴隷にされている子どもたちなのだろう。

「俺、ちょっと行ってくるね」

 え?! 

「ちょっ! 要さん!」

 俺が口を開く前に要さんは瞬間移動を使って行ってしまった。
 
「あの、失礼ですがこの子たちはあなたのお子さんですか?」

 か、要さーん! その人、いかにもって感じの奴隷商人だよ!

「は? 何言ってる。この薄汚いのが私の子どもだと? ふざけるな」

「では、なぜこの子たちを連れているのでしょうか?」

「なんだね君は? この世界じゃ、獣族は我々人族の奴隷だぞ? 私は金にするためにこうして外で狩りをしてきて、今から売りに出すところだ。獣族の子供は金持ち貴族によく売れる」

「奴隷? 狩り? 売る? こんな小さい子どもたちを? 怯えているじゃないですか」

「あぁ、そうだ。何か文句でもあるのか?」

「親御さんから子どもたちを無理やり引き離したと?」

 か、要さん、怒ってる?

「チッ。あぁそうだよ。何が悪い?」

「そうですか。では、今すぐその子たちを返してきてください」

「チッ。おい! お前たち! こいつをどうにかしろ!」

 偉そうな男は、周りにいた屈強な男たちに言い放った。まじですか! もしかして、あの人たち全員あなたの手下ですか!
 男たちは瞬時に要さんの周りを取り囲み武器を向けた。ど、どうしよ! 要さんがピンチ......だ? お、男たちが固まった?
 
「来るな」

 もしかして要さん〈支配〉使ったのか? 

「お、おい! お前ら何をぼーっと突っ立っとる!?」

「申し訳ないですが、部下の方をしばらく動けなくしています。あなたは、どうして欲しいですか?」

「ひっ! お前、特殊スキル持ちか! わ、わかった。こいつらをお前に渡す!」

「そうですか。では、子どもたちを早く解放してください」

 荷台から子どもたちを下ろすと、すぐに男は部下と共に去った。
 
「要さん! 大丈夫ですか?」

 俺はすぐに要さんのところに瞬間移動し、要さんの無事を確認した。

「うん。大丈夫だよ。それより、この子たちを親御さんのところまで送り届けたいと思ってるんだけど、君たちはどこから来たのかな?」

 獣耳の子どもたちは4人いた。その中でも最年長と思われる15歳くらいの男の子が口を開いた。

「僕たちは、ここから東の四季の土地の近くにある巣から連れてこられた。でも、お父さんもお母さんも人族に殺された。巣は焼かれてもう何も残ってない」

 最低だ。攫うだけじゃなく、殺すなんて。

「そっ、か。......雪くん、俺、この子たちをこのままにしておくわけにもいかないし、一緒に連れて行ってもいいかな?」
 
「はい! もちろん! 俺たちで精一杯幸せにしましょ!」 

「ありがと。じゃあ、君たちの名前、教えて貰ってもいいかな?」

「僕はのハウリア・リム。16歳です。こっちは妹のユイ、10歳です」

「私はワイアル・シーナ、12歳。この子は6歳の弟のユノ」

「リムにユイ。シーナにユノ。俺は黒澤要、26歳、よろしくね。ユイとユノは名前少し似てるね」

「ほんとだ。俺は白谷雪、19歳。よろしくな」

 か、要さん26歳だったのか! どうりで落ち着きがあると思った。安心感、半端じゃない。

「あの、要さん、雪さん。俺たち何でもします! だから、どこにも売らないでください!」

「もちろんだよ。あと、名前、さんつけなくていいよ。雪くんもいいよね?」

「はい! 俺もリムたちのこと、呼び捨てにしてもいいか?」

「「「「はい!」」」」

「よし! じゃあ、まずは服とご飯と寝るところを探そっか」

 そうは言いつつも、あの検問は通れるのだろうか。怖い顔して見られてるんだけど。

「要さん、あそこ、通れますかね?」

「んー、ちょっと待っててね」

 そう言うと要さんは1人で検問の方に歩いていった。何をするんだろう? 
 よし。俺はこの子たちの鎖を外すか。多分〈鎖操作〉ってやつでできるよな?
 
「リム、手出して?」

 カチャッ

「お! 外れたな。次、ユイ」

 全員の鎖を外すと要さんも戻ってきた。

「じゃ、行こっか」

「あの、要さん。......な、何かしたんですか?」

「ううん、怪我治してあげたら通してくれるって」

「なら良かったです」

「何? 俺が無理矢理通すようにした思ったの?」

「い、いえ!」

「ふふっ、冗談だよ。さっ、皆も行こっか」

 要さん、子ども好きなのかな? なんか慣れてる。それに、少し要さんとの距離が縮んだような気がする。
 とにかく! 人族の領地にレッツゴー!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

処理中です...