賢者タイムを知ってしまったことで。

(仮)

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相性(かすみの場合)

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昼間なのに光が遮断された薄暗い部屋。

さっきまではシャワーの音がBGMだったけど、いまは、外の雨音だけがBGM。テレビにも有線にも手が伸びない。私も髙橋さんも。そんなところにも好感が持てる。

ひととおり舌が絡み合い、バスローブをほどかれる。薄手の生地のブラジャーとショーツ。普段は冷えや生理対策もあって厚手の黒やベージュの下着が多いけど、こういう日だけは真っ白で透け感のある下着。スピリチュアル好きな知人から「白を身につけている人は浮気をしない」という話も聞いたことがあり、いやらしさの中にも真面目さを込めている。

ホックを外され、私も彼も喉が動く。

「小さな胸でごめんね」

結婚を意識するようになってから、はじめての人に、なぜか毎回、謝っている。

「キレイな形ですね」

答えになってないけど、淀みなく出た言葉になんだか自己肯定感があがる。乳房を口に含まれ、「あっ」という声と共にビクっと震えた。この日のために禁欲していた私のよがりに、緊張していた髙橋さんもスイッチが入り、剛柔な舌があちこちで踊った。

雨音はもう聞こえない。

―――――――

ふたつ下の彼は、ゴムをティッシュに包み、ゴミ箱にそっと入れた後も、「好きです」「安らぎます」とか言いながら甘く抱きしめてくれている。

賢者タイムのはずなのに…。

賢者タイムという言葉をネットニュースで知ったのは4年前。26歳の時。射精後、急速に性欲が減退し、快感を得られなくなっている状態のことを言うらしい。もっと言えば、煩悩に惑わされることのない時間。

これまでの男性も1回目は優しく抱きしめてくれた。けれど、重ねていくにつれ、すぐに寝てしまったり、背を向けたりと、自分だけの世界に没入。最初、もしくは2回目(1回目は勃たない人の場合)の優しさを越えたことがない。

まじわりが増えれば増えるほど、幸せな夫婦生活を送っている景色が霞んでいった。

相手は、私が非正規社員であることで金銭面的に寄りかかる事ができないと気付いてしまったとき、賢者タイムは永遠になるんじゃないか?とか。

昔から私は恋愛情報ソースを信じ込みやすい。B型と聞くと(私はA型)、「ワガママに違いない」と恋愛対象から外してしまうし、母子家庭で育ったと聞くと「簡単に離婚を切り出す人」と思って距離を取ってしまう。そんな私の結婚対象減点マニュアルの中に4年前から「賢者タイム中の態度」も加わってしまった。

ねえ、私の脳内。もしかして、これまでの人達と同じく、髙橋さんとも別れようとしている?

マッチングアプリで出会い、結婚前提という旨を伝えての交際なのに、このあと、数回セックスをしたらバイバイなの。横にいて、こんなにほっとできる人、もう出逢えないと思うけど。

なのに、自分と対話をし始めると、どうしても悲観的な方向へと進んでいく。


―――――――

和也さんに車の中でプロポーズをされた。

いまは髙橋宅の部屋のベッドの中。私と付き合うようになってから購入したセミダブル。それだけ私に本気だということだし、相手が快適に過ごせることにお金を厭わないのは、一見簡単そうに見えて、実際に行うのは難しい。

プロポーズ後の口と口とのキスが遠い昔のように感じる。

何度も舌を絡め、彼が耳を甘噛みしたら、私も彼の耳を甘噛み。私が彼の乳首を舌でいじくったら、彼も私の乳首を。遮光カーテンが閉められた暗がりの中で貪り、快感を得る度、シーツを濡らした。

初セックスから半年。今日も賢者タイムは心地いい。

「私でよかったら」といったものの本当に結婚していいんだよね?こんなにめでたい日だって、脳内でネガティブが蠢く。ひとりになったら、もっと余計なことを考えてしまうだろう。両親はいまも仲良く暮らしているし、私にだって、たっぷりの愛情を注いでくれたのに。

「終わったあとのほうが優しいね」
乳首をコリコリ触らず、そっと抱きしめてくれる心地よさから、心の声が漏れてしまった。
「優しいかどうかはわからないけど、この時間が好きすぎるんだよね」
「飽きない?」
「飽きるわけないよ。もしかして、この時間、退屈かな?」
「うんうん。私にはもったいないぐらい幸せな時間だと思ってる。あ、ごめんね。私、ネガティブで」
すると彼は、私を抱きしめるのをやめて、自分の枕元へ戻り仰向けになった。
「謝る事ないよ。かすみさんなりの社会への心の防御だと受け止めているから」
「そう言ってくれると救われる」
「大丈夫。近い将来、押し出されるから」
「押し出される?」
「うん。例えば、社会人になると学生時代の悩みは押し出されたでしょ?」
「言われてみれば」確かに、今日を機に、結婚対象減点マニュアルは押し出されそう。
「ボク自身、かすみさんに出逢えて押し出されたことがあるから。本当、ありがとう」

気づくと嘘のように涙が頬を濡らしていた。まだアソコが痛いのに始めちゃいたい。でも、ここは一旦、枕に顔をうずめとく。一旦。


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