FBI連邦捜査官: file 1 Liar FBI連邦捜査官シリーズ Ⅰ

蒼月さわ

文字の大きさ
18 / 23

17

「撃たないで!」

 とっさに引き金を引こうとした瞬間、少年の切迫した叫びが押し止める。

「誰だ!」

 トラヴィスは銃口を下ろさないで、その少年を睨みつけた。

 少年はゆっくりと両手をあげる。金髪、青い瞳、白い肌。まだ幼い顔立ち。どこかで見た覚えがある。

「……レイジー?」

 少年は疲れきった顔で、うんと頷いた。

「……一人か?」

 その時だった。

 トラヴィスは自分の後頭部に、何か硬いものが押しつけられるのを感じた。

「……ごめんなさい」

 レイジーがすまなそうに謝る。

「銃を捨てろ」

 男の緊迫した声。

 トラヴィスは言われたとおりにした。銃は派手な音を立てて、足元に落ちる。

 背後にいた男が、それを足で遠くに蹴った。

「手をあげろ!」

 トラヴィスは無言で両手を頭の高さまであげた。

「そのまま壁まで歩け!」

 後頭部に銃口を感じながら、命じられるままに階段沿いの壁まで進む。

「膝をつけ!」 

 トラヴィスは壁に向かって腰を下ろし、膝をついた。

「レイジー、来い!」
「待って、その人はFBIだよ! 手荒なことはやめて!」
「いいから来い!」

 トラヴィスの後頭部を烈しい一撃が見舞った。さらに、数回、乱暴に殴りつけられる。

 トラヴィスは呻いた。仰向けに倒れそうになるのを、後ろから靴で壁に強く押しつけられる。

「早くしろ!」

 怒鳴りつける言葉に交じり、レイジーの泣き声がした。

 トラヴィスの両手が後ろ手にされ、縄で縛りつけられる。足で激しく蹴られ、その場に崩れ落ちた。

「……ハムザ・アル・アブドュル……だな……」

 切れた唇で呟いた。

 中東系の顔立ちをしている青年は、自分を睨み上げているトラヴィスを、憎悪を込めて見下ろす。

「お前たちは薄汚い連中だ! 大勢のイスラム教徒を殺している犯罪者だ!」

 銃をまっすぐに突きつける。その空っぽの銃口を見つめ、トラヴィスは馬鹿にしたような笑いを浮かべた。

「……その薄汚い国で、自由に育ったんだろうが……」

 トラヴィスは苦しげに仰け反った。ハムザは革靴の踵で、何度もトラヴィスの頭を蹴った。

「やめて! 死んじゃう!」

 レイジーはハムザの足に後ろから抱きついた。

「人を殺せば殺人罪に問われちゃうよ! そうなったら、もう終わりだよ!」
「うるさい! お前は俺の言うとおりにしていればいいんだ!」

 レイジーを振り払って、再び銃を構える。

 トラヴィスはうつ伏せになった状態で、頭の痛みに眩暈がしながら、荒く息をついた。頭の皮膚が切れて出血しているのがわかる。唇も切れた。瞼も切れて、血が目に滲む。全身も痛い。

 くそったれ。トラヴィスは口の中で血を味わいながら、悪態をついた。不注意だった。まさかレイジーがあんな形で自分の前に現れるとは……

「アメリカ人はみんな地獄に堕ちてしまえ!」

 ハムザの絶叫が聞こえる。「やめて!」とレイジーの悲鳴が重なる。 

 突然、銃声が轟いた。

 トラヴィスはぼやける視界で、ハムザが悲鳴をあげて、右肩を押さえながら倒れ込んだのを見た。肩からは、大量の血が吹き出ている。

 その背後で、玄関のドアが開いていた。一瞬ミリアムかと思ったが、銃を向けていたのはジェレミーだった。

 ジェレミーは油断なくハムザに近寄ると、落とした銃を拾う。後から来たヒースに手渡し、うつ伏せに倒れているトラヴィスの傍らで片膝をついて、銃を下ろした。

「大丈夫か」
「……ああ、口は聞けるぜ」

 トラヴィスは口の中に溜まった血を吐き出した。ジェレミーはそれを目にとめる。

「無茶をするな」

 トレンチコートの内側からナイフを取り出し、手際よく縄を切る。手首の内側に食い込んでいた戒めは、すぐに解けた。

 トラヴィスはジェレミーの助けを借りて、ゆっくりと起きあがる。まだ頭はひどく痛み、眩暈がひどい。しかしジェレミーの手がしっかりとトラヴィスの体を支えていて、なんとなく安心した。

「大丈夫か?」

 横からヒースも声をかける。

「ひどい男前になったな。これが自分を助けに来た恋人だったら、首にすがりついてキスしまくるところだ」

 トラヴィスは喉の奥で小さく笑った。まったく、そのとおりだと思った。人目がなかったら、ジェレミーと抱き合って、キスしているところだ。

 前方で甲高い声があがった。ハムザが突入してきた警官と救急隊員らの手で、ストレッチャーに乗せられて連行されてゆく。それを床にへたり込んで見守るレイジー。呆然としている。

「ミリアムが……」

 トラヴィスが言いかけた時、パートナーの急いだ声が聞こえてきた。

「誰か手伝って!」

 ヒースがすぐに奥へと走ってゆく。

「早くこの家から逃げて! 爆発するわ!」

 ジェレミーは素早くトラヴィスの肩に腕をまわして、立ち上がらせた。

「全員、退避しろ! 爆弾が仕掛けられている! 急いで逃げろ!」

 突入してきた警官たちが我先に駆け出す。レイジーも連れて行かれ、ジェレミーもトラヴィスを引きずっていく。

 トラヴィスは肩越しに振り返った。奥から、ヒースとミリアムが走ってくる。ヒースは背中にアンジェラを背負っている。

「早く! もう時間がないわ!」

 四人は、ほぼ同時に家を出た。

 その次の瞬間、爆発した。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。