ノーベル賞受賞屋が乙女ゲームの世界に転生した。

鹿島 ギイチ

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第一部 第二章

第10話 親子と少女

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 〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕王城 後宮 森林

 後宮の建物の背後には、広大な森林が広がっている。この森林は、王国第二代陛下が〔ハルマ―〕を新たな都として決め、城下町を整備し、その次に王城を建て、最後に王宮を建造するにあたり、人工的に作らせた森林である。
 そんな森林の中を、木から木へと飛び移っているのは、僕ことエギル・フォン=パラン=ノルドである。
この森は、王族が六歳になれば立ち入りを許されているので、こうして九我流と魔導の訓練に使っているのである。

 今日は、九我流の訓練の一つである、障害物踏破でこの森に入っている。

「てっ、障害物がえげつないな、毎度毎度。」

 と言っていると、木々の間から石つぶてが、発射された。僕は、発射される前に気を感知して当たる場所から体を大きく右に傾け、手首に着けているワイヤー発射機から、自分が居る木から斜め前に有る木にワイヤーを発射し括りつけるとそこから飛んで、飛んだ勢いを使い、その奥にある木に飛び移った。

「フー、一旦休憩、たっく兄弟子たち、遊んでいるだろう、絶対。」

 木に飛び移り、少し休むために腰を落ち着けた僕は、少しばかり不満を漏らした。実は、先の石つぶても、ここまでの道中で受けた障害も、全て僕の兄弟子たちがこの森に仕掛けた物である。
九我流の訓練で使う障害物とは言っても、直接命の危険がある物は、設置されていないが、非常に厄介な障害物であることは確かである。しかもそれを僕にとって兄弟子にあたる人たちが作っているのだから、「弟弟子を困らせてやろう。」というのが、透けて見えてくる厄介さである。

「さっ、これで半分。あと少しだ、良し行くぞ。」

 僕は、再び気合を入れなおすと、立ち上がり、次の木へと移ろうとした時、それを感じ取った。
森の少し奥まったところに何かが居て助けを求めている様に感じたのであった。僕は、それが気になり、飛び移ろうとしていた木から反対の方角、先程石つぶてが飛んできた方角にワイヤーを発射すると、移動を開始した。

 しばらく木から木へと飛び移り、助けを求めている気配がある方向へと、森の奥に向かっていると、それは見えて来た。
森の中にぽっかりと開いた広場があり、そこには、二頭の馬が居たのである。その内の一頭は、後ろ脚を痛めているのかうまく立つことが出来ないず、座り込んでいる。そしてもう一頭は、仔馬で、大きな馬の方へといきその馬を必死に立たせようとしているのである。

 それを見た僕は、木から飛び降りて、馬たちに近づいた。すると大きな馬が僕に警戒感を露わにして威嚇をしてきた。

「大丈夫、敵じゃないし、この子も取らない。」

と言いながら、蹴られたとしても怪我をしない位置で止まると大きな馬の後ろ脚を確認した。
大きな馬の後ろ脚は、大きく腫れて赤黒くなっており中に血がたまっている状態であることが推察される、どうやら何かから逃げる時に脚を怪我してしまい、逃げ切ったのは良かったが、怪我が酷くなりここで止まらざるをえなくなってしまったようである。

「脚の怪我を応急処置して、王宮で見て貰った方が、いいかもしれないな。」

 僕は、そう言うと、大きな馬に近づこうとしたが、大きな馬が、怪我した後ろ足で攻撃をしてくると、気で感じられたので、まずは馬に向かってこう言った。

「君の後ろの足の手当てをさせてくれ、僕は君を傷つけるために来たんじゃないから。」

 すると大きな馬は、僕をじっと見つめて来た、その言葉が事実か確かめるようにジーっと見つめて来たのである。
僕も大きな馬の顔をジーっと見つめた。しばらくすると大きな馬は、首を縦に振ると、その持ち上げていた首を地面につけ、更に曲げていた前脚も伸ばし、敵意は有りませんの状態になった。僕は、呆気にとられたが、大きな馬に近づいて、後ろ脚に手を翳しこう唱えた。

「治癒<ヒール>」

 すると後ろ脚の腫れは、少し改善したが、まだ赤黒く腫れている状態であった。そこで大きな馬にこう言った。

「君の後ろ脚を治療するには、君を僕の家に運ばないといけない、その為に人を何人か呼ばないといけない、呼んでもいいかい。」

 すると先ほどと同様に首を縦に振ったのである。僕は、それを確認すると懐から魔導笛を取り出すと思いっきり吹いた。
笛を吹いてから少し立った頃、須針師匠と兄弟子たちが僕の元に駆け付けた。

「如何した。エギルよ。なんじゃ、馬。」

 といって須針師匠が、僕に声をかけると、馬が居たことに驚いていた。僕は、須針師匠に事情を話すと、師匠は、兄弟子たちの内二人に、運ぶための台車と台車の上に敷く物を持ってくるように言い、さらに別の兄弟子には、馬小屋の獣医に診察の依頼をしに行くように言った。
そして僕には、「よくやりましたな。」と頭を撫でながら褒めてくれたのであった。

 兄弟子たちも、迅速に動いてくれて、大きな馬を持ってきた台車にゆっくりと慎重に乗せ馬小屋で待機している獣医の元へ運ぶ準備が終わり、運ぼうとした時、僕の道着が後ろから強く引っ張られたのである。

「何だ?」

 と言って後ろを振り返ると、仔馬が僕の道着の袖を噛んでおり、僕の事を引き留めようとしていたのである。

「どうしただよ。放してくれない?」

 しかし仔馬は、袖を噛んだまま放してくれず、僕はさらに引っ張られる状態になった。その時、もしかしてと思い、仔馬にこう聞いてみた。

「もしかして、君のお母さんを連れて行っちゃダメって事?」

 そう聞くと仔馬は、首を激しく縦に振り更に僕を引っ張り出した。それを見た僕は、仔馬にこう言った。

「じゃあ、君も一緒にお母さんと行こう。僕について来てよ。」

 すると仔馬は、母馬が僕にやったように僕の事をジーっと見つめて来た。僕もジーっと見つめ返す。すると仔馬はね僕の道着の袖を放し僕の隣に立ったのである。

「よし、行こう。」

 その掛け声とともに僕が歩き出すと仔馬も歩き出し、須針師匠たちもそれを見てから出発したのであった。
森の広場を出発ししばらくすると森の出口が見えて来た。するとそこには、リウム先生とユナ師匠も来ていて僕たちの戻りを待っていてくれたようである。
 先生たちは、僕たちに合流すると、大きな馬の後ろ脚の状態を魔導を使い診察をしだした。それを一緒に同行してきていた獣医に事細かく伝えながら僕たちと共に馬小屋へと移動していったのである。

 馬小屋に着くと、大きな馬は仔馬と共に小屋の中に収容された。僕たちは、それを見届けると、再び鍛錬のため森の入口へと戻ったのであった。





 これが、エギル・フォン=パラン=ノルドの生涯の愛馬となる二頭の馬との出会いであった。この出会いもまたエギルの全生涯の内、伝説と言われるものの一つとして数えられるものになるのである。





 〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕城下町 貴族居住区

 その日僕は、衛剣の二人、オルティシアとセドイスを連れて、王宮から徒歩で貴族居住区に有るとある場所に向かっていた。

「殿下、やはり馬車で向かうべきです。先方も態々迎えの馬車を用意されていたのですから。」

 とオルティシアが、僕に対して諫言をしてくれていた。僕は、それを聞きながら、目的地に向かって歩いていた。
するとセドイスが、オルティシアに対してこう言いだした。

「オルティシア卿、いくら言っても殿下のお気持ちは変わらないと思うけど。」

「しかし、セドイス卿。これでは……。」

 オルティシアは、セドイスに更に何か言おうとしたが、言うのやめてしまった。オルティシアの言いたかったことは、なんとなく分かるのである。「我々の存在意義が」である。確かに護衛としては、馬車に乗って向かう方が、警備をしやすいというのが、本音であろう。
 しかし僕は、余りよそよそしくしてもらうのは、いやなのであった。実は今日向かっているのは、僕の母方の祖父母である、アルドール公爵夫妻が、公都〔アラスアン〕から〔ハルマ―〕に来ており、挨拶に行くところである。
孫として会いに行くのでお爺様たちが寄越した馬車を返さしてこうして徒歩で向かっているのであった。

 アルドール公爵家別邸に、あと少しで到着する地点に来た時、僕たちの絵の前から侍女を従えた僕と同い年ぐらいの少女が、歩いて来ていた。すると少女は何かに躓いたのか盛大に転んでしまった。
 少女がころんだ拍子に何かが僕の目の前に飛んできた。僕はそれを掴むと、侍女によって助け起こされた少女が何かを探してキョロキョロとしているのを見て、僕が掴んだ物を探しているのだと思い、その少女に声をかけた。

「ね、君が探しているのは、これですか?」

 少女は、僕の声に反応すると、僕の手に握られている物を見て、安堵した表情をすると僕の方に来て、お辞儀をしてこう言った。

「ありがとうございます。これは大切な物でして失くしたらどうしようと思ったのです。拾っていただいて、感謝いたします。」

 僕は、少女にそれを手渡し、こう言った。

「それは、良かったです。大切な物なんですね。」

「はい、宝物です。」

 少女は、嬉しそうに言うと、こう尋ねて来た。

「お礼を差し上げたいのですが、どちらのお家の方でしょうか?」

「いえ、お礼は必要ありません、では、さようなら。」

 僕は、お礼は不要と言うと、衛剣の二人を連れて、その場を後にしたのであった。

 これが僕の生涯の伴侶の一人となる女性との最初の出会いであった。
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