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第2章 生贄の月下美人
第9話 風呂屋にて②
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「な、なんだあれ!」
俺は大浴場の隅に佇む黒い影を見やり、声を張り上げた。
湯船の中で、ジンとジゼルは意識がない。
この状況の訳は3分くらい前に遡る。
ー3分前ー
「よーし、そろそろ上がるか」
俺は湯船から上がり、2人に呼びかけた。だが、2人から返事が、ない。
??「おーい、ジン?ジゼル?」再び声をかけるが、やはり返事がない。
不安になった俺は2人の顔を確認するために再び片足を湯船に浸からせた。
ビシッ!
そんな痛さが俺の右足を襲った。痛いのは一瞬で、驚いた俺はすぐ様右足を湯船から抜こうとするが、ピクリとも動かない。
「ウケケケケ!」
不意にそんな感じの奇妙な鳴き声がこの大浴場に響き渡った。
「な、なんだあれ!」
大浴場の隅に佇む黒い影。いや、よく見るとナマズみたいな髭もついてるし、厚い唇だし…
いや、そんな観察している場合じゃない!早くなんとかしないと2人が…!
でも、どうする…足は動かないし、武器は脱衣所だ…大声で呼べば隣の女湯にいるマナとアリスが気づくか……?
いやダメだ!それだけは避けなければ!だって今俺たちは…
素っ裸だ!!
ー女湯ー
「そういえばアリスちゃんってお肌凄く綺麗だね」
「え、そう?」
マナは羨ましい…と思う。スベスベだし、傷1つ付いていない。自分の肌は傷だらけだ。とても17の女の子の肌とは思えない。
「私の肌が綺麗なのは…きっと、櫻木のお陰ね…」
「櫻木ってジゼルさんのこと?」
「うん。櫻木は私専属の執事なの」
「えっ!?アリスちゃんってお嬢様か何かなの!?」
「元……ね」
アリスは一瞬だけ表情を曇らせたが話を続けた。
「いつだって櫻木が私を守ってくれたから…ソーマと出会ってからはソーマも。だから2人にはとても感謝してるの」
少しだけ照れながら、アリスははにかんでみせた。
マナはそのはにかみを見て何故だか自分が嬉しくなった。
ー男湯ー
「お、おい!お前何をするつもりだ!?」
ソーマは焦っていた。その生物は徐々に大きくなっていってバチッバチ!と電撃を帯びていた。
おい、まさかその貯めた電撃を一気に放出する気か……?!
……と。
ジャパアッ!痺れて動かなくなっていた右足が動いた。
痺れの効果が解けたのか!ソーマは急いでジンとジゼルの救出のため、大浴槽に飛び込んだ。
「私は…大丈夫ですので……ジン…君を……」
「ジゼル!」
良かった!ジゼルの意識が戻った!ジンを担ぎ、横目でジゼルが浴槽から脱出したのを確認し、自らも脱出した瞬間だった。
バチイッ…!ビシャアアアアアアンッッ!
電撃が迸り、大浴場の壁が崩れ落ちた!
ガラガラッ…!と音を立て、粉塵が舞う。
ごほっ、ごほっ!とジンとジゼルが噎せていると壊れた壁の向こう側に2人の影が映った。
徐々に粉塵が晴れていき、2人の姿が露わになる。
その2人は……
「なっ、なっ…」
「………」
何も身に纏っていない肌を露わにしたアリスとマナだった。
「み、見るなああああああ!!」
アリスが悲鳴に近い声でソーマに怒鳴る。
「い、いや!違うんだ!!見るつもりなかったんだ………ぐふおっ!」
ソーマの身体がぶっ飛んだ。ソーマをぶっ飛ばしたのは静かに怒りを沸々と滾らかしたマナである。
お得意の階段でぱこおおん!!とぶん殴ったのだ。
「………乙女の肌を見た罪」
冷たい口調、そして冷たい眼差しでソーマを睨んだ。
ソーマは。俺の所為じゃないのに…と小さく呟きながら痛さに蹲る。
「お嬢様!この風呂屋に”ナズーマ”がいます!お気をつけ下さい!」
「何ですって!?何でこんな所にナズーマが!!?」
身体を洗うスペースの壁に身を隠しながらジゼルはアリスに注意を促す。
ナズーマとは魔物だ。この星。イデアには魔物も存在する。
放浪の民では魔物が居なかったのでソーマはこの時初めて魔物の姿を見た。
魔物の存在は昔世話になった人に聞かされていたから知っていたが………
どーりであのナマズがなんなのか分からなかったわけだ。とソーマは徐々に引いていく痛みを抑えて納得する。
………と
浴槽の端がバリィッ!と光った。ナズーマがまだそこにいる。
「ってかあの魔物どんな魔物なんだよ!」
「あれはナズーマ。痺れナマズとも言われていますね。電撃を発電して身体に溜め込み、一気に放出する特性があるので稲妻とナマズが訛ってナズーマという名前が付きました」
いや、聞きたいのはそこじゃないんだけど、とツッコミしそうになったが、ジゼルはちゃんと聞きたいことも言ってくれた。
「普段沼地に生息する大人しい性格の魔物なんですが…何らかの原因で紛れ込んだのでしょう」
「どうやって倒すんだ?!」
「一般的な方法は普通に攻撃して倒すか………或いは」
ガシャァ、ガシャァン!!
ジゼルの声を遮り、そんな音が浴場に響き渡った。
階段だ。階段がナズーマを浴槽から強制的に出し、突き上げていた。
その階段を作り出したのは勿論、マナだ。
ナズーマは浴槽から出され、徐々に乾燥していき、やがて干物の如き姿になってしまう。
ちょっと可哀想な気もした。
「あぁやって、水のない所に出してしまえば勝手に倒れてくれます」
ジゼルも階段を見やり、ホッと胸を撫で下ろした。
事が解決した所でジンが目覚めた。
後でまたアリスとマナに謝っとかないとなのかーと俺は少々気分は良くなかった。
見たくて見た訳じゃないのに殴られたのは心外だ。
でもそれを言うと何故か怒りそうだから言わないでおく。
2人だって俺とジゼルとジンの素っぱ見たくせに…
*
風呂からあがった俺たちは店主にナズーマの件を説明し、各々寛いでいた。
マナとアリスは意外とあっさり許してくれた。「まぁ、ソーマが悪い訳じゃなかったしね」と。それなら一言俺を殴った事を謝って欲しい!と思ったりもしたが、あーもういいや。怒ってないのに怒らせるような真似をするだけ馬鹿というものだし。
「ほらよ!」
ジンがコーヒー牛乳をくれた。俺はありがとうと言い、口に含んだ。あの騒動の後のこのコーヒー牛乳の甘ったるさと、その甘さの中に隠れたほろ苦さが疲れた身体に染み渡る。
その甘さの余韻に浸る…あぁ、こういうの久々に口にするな…美味しい…
「にっげえーーーーーー!!苦ぇよ!!ざっけんなよ!マジで!マジ無理!!」
不意に罵声が室内に響いた…
何事かと思い、罵声のした方をバッ!と見た。
その罵声の先にいた人物は…
「くそ!くそおーー!にげえーーーーーーーー!!!」
ジゼルだった…
第9話 風呂屋にて② ~end~
次回予告は今回お休みです。すみません。
俺は大浴場の隅に佇む黒い影を見やり、声を張り上げた。
湯船の中で、ジンとジゼルは意識がない。
この状況の訳は3分くらい前に遡る。
ー3分前ー
「よーし、そろそろ上がるか」
俺は湯船から上がり、2人に呼びかけた。だが、2人から返事が、ない。
??「おーい、ジン?ジゼル?」再び声をかけるが、やはり返事がない。
不安になった俺は2人の顔を確認するために再び片足を湯船に浸からせた。
ビシッ!
そんな痛さが俺の右足を襲った。痛いのは一瞬で、驚いた俺はすぐ様右足を湯船から抜こうとするが、ピクリとも動かない。
「ウケケケケ!」
不意にそんな感じの奇妙な鳴き声がこの大浴場に響き渡った。
「な、なんだあれ!」
大浴場の隅に佇む黒い影。いや、よく見るとナマズみたいな髭もついてるし、厚い唇だし…
いや、そんな観察している場合じゃない!早くなんとかしないと2人が…!
でも、どうする…足は動かないし、武器は脱衣所だ…大声で呼べば隣の女湯にいるマナとアリスが気づくか……?
いやダメだ!それだけは避けなければ!だって今俺たちは…
素っ裸だ!!
ー女湯ー
「そういえばアリスちゃんってお肌凄く綺麗だね」
「え、そう?」
マナは羨ましい…と思う。スベスベだし、傷1つ付いていない。自分の肌は傷だらけだ。とても17の女の子の肌とは思えない。
「私の肌が綺麗なのは…きっと、櫻木のお陰ね…」
「櫻木ってジゼルさんのこと?」
「うん。櫻木は私専属の執事なの」
「えっ!?アリスちゃんってお嬢様か何かなの!?」
「元……ね」
アリスは一瞬だけ表情を曇らせたが話を続けた。
「いつだって櫻木が私を守ってくれたから…ソーマと出会ってからはソーマも。だから2人にはとても感謝してるの」
少しだけ照れながら、アリスははにかんでみせた。
マナはそのはにかみを見て何故だか自分が嬉しくなった。
ー男湯ー
「お、おい!お前何をするつもりだ!?」
ソーマは焦っていた。その生物は徐々に大きくなっていってバチッバチ!と電撃を帯びていた。
おい、まさかその貯めた電撃を一気に放出する気か……?!
……と。
ジャパアッ!痺れて動かなくなっていた右足が動いた。
痺れの効果が解けたのか!ソーマは急いでジンとジゼルの救出のため、大浴槽に飛び込んだ。
「私は…大丈夫ですので……ジン…君を……」
「ジゼル!」
良かった!ジゼルの意識が戻った!ジンを担ぎ、横目でジゼルが浴槽から脱出したのを確認し、自らも脱出した瞬間だった。
バチイッ…!ビシャアアアアアアンッッ!
電撃が迸り、大浴場の壁が崩れ落ちた!
ガラガラッ…!と音を立て、粉塵が舞う。
ごほっ、ごほっ!とジンとジゼルが噎せていると壊れた壁の向こう側に2人の影が映った。
徐々に粉塵が晴れていき、2人の姿が露わになる。
その2人は……
「なっ、なっ…」
「………」
何も身に纏っていない肌を露わにしたアリスとマナだった。
「み、見るなああああああ!!」
アリスが悲鳴に近い声でソーマに怒鳴る。
「い、いや!違うんだ!!見るつもりなかったんだ………ぐふおっ!」
ソーマの身体がぶっ飛んだ。ソーマをぶっ飛ばしたのは静かに怒りを沸々と滾らかしたマナである。
お得意の階段でぱこおおん!!とぶん殴ったのだ。
「………乙女の肌を見た罪」
冷たい口調、そして冷たい眼差しでソーマを睨んだ。
ソーマは。俺の所為じゃないのに…と小さく呟きながら痛さに蹲る。
「お嬢様!この風呂屋に”ナズーマ”がいます!お気をつけ下さい!」
「何ですって!?何でこんな所にナズーマが!!?」
身体を洗うスペースの壁に身を隠しながらジゼルはアリスに注意を促す。
ナズーマとは魔物だ。この星。イデアには魔物も存在する。
放浪の民では魔物が居なかったのでソーマはこの時初めて魔物の姿を見た。
魔物の存在は昔世話になった人に聞かされていたから知っていたが………
どーりであのナマズがなんなのか分からなかったわけだ。とソーマは徐々に引いていく痛みを抑えて納得する。
………と
浴槽の端がバリィッ!と光った。ナズーマがまだそこにいる。
「ってかあの魔物どんな魔物なんだよ!」
「あれはナズーマ。痺れナマズとも言われていますね。電撃を発電して身体に溜め込み、一気に放出する特性があるので稲妻とナマズが訛ってナズーマという名前が付きました」
いや、聞きたいのはそこじゃないんだけど、とツッコミしそうになったが、ジゼルはちゃんと聞きたいことも言ってくれた。
「普段沼地に生息する大人しい性格の魔物なんですが…何らかの原因で紛れ込んだのでしょう」
「どうやって倒すんだ?!」
「一般的な方法は普通に攻撃して倒すか………或いは」
ガシャァ、ガシャァン!!
ジゼルの声を遮り、そんな音が浴場に響き渡った。
階段だ。階段がナズーマを浴槽から強制的に出し、突き上げていた。
その階段を作り出したのは勿論、マナだ。
ナズーマは浴槽から出され、徐々に乾燥していき、やがて干物の如き姿になってしまう。
ちょっと可哀想な気もした。
「あぁやって、水のない所に出してしまえば勝手に倒れてくれます」
ジゼルも階段を見やり、ホッと胸を撫で下ろした。
事が解決した所でジンが目覚めた。
後でまたアリスとマナに謝っとかないとなのかーと俺は少々気分は良くなかった。
見たくて見た訳じゃないのに殴られたのは心外だ。
でもそれを言うと何故か怒りそうだから言わないでおく。
2人だって俺とジゼルとジンの素っぱ見たくせに…
*
風呂からあがった俺たちは店主にナズーマの件を説明し、各々寛いでいた。
マナとアリスは意外とあっさり許してくれた。「まぁ、ソーマが悪い訳じゃなかったしね」と。それなら一言俺を殴った事を謝って欲しい!と思ったりもしたが、あーもういいや。怒ってないのに怒らせるような真似をするだけ馬鹿というものだし。
「ほらよ!」
ジンがコーヒー牛乳をくれた。俺はありがとうと言い、口に含んだ。あの騒動の後のこのコーヒー牛乳の甘ったるさと、その甘さの中に隠れたほろ苦さが疲れた身体に染み渡る。
その甘さの余韻に浸る…あぁ、こういうの久々に口にするな…美味しい…
「にっげえーーーーーー!!苦ぇよ!!ざっけんなよ!マジで!マジ無理!!」
不意に罵声が室内に響いた…
何事かと思い、罵声のした方をバッ!と見た。
その罵声の先にいた人物は…
「くそ!くそおーー!にげえーーーーーーーー!!!」
ジゼルだった…
第9話 風呂屋にて② ~end~
次回予告は今回お休みです。すみません。
応援ありがとうございます!
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