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第2章 生贄の月下美人
第8話 風呂屋にて①
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俺たちは。
食事を済ませ、相変わらず元気いっぱいのジンの後をついて行き、風呂屋に来ている。
先程の食事処”海鮮!うまっうまっ”の店主が飯代を半額にしてくれたのはラッキーだった。なんせ、俺を含めたジゼル、アリスの3人は金をほとんど持っていなかったからだ。
ジンが「金?気にすんなって!オレが奢る奢る!」と言ってくれはしたものの、やはり申し訳ない。
俺はジゼルに小声で耳打ちした。
「サンキュ、ジゼル」
「?」
ジゼルは何の事か分からない。といった様子で首を傾げた。
ジゼルのお陰なのだ。料理が安くなったのは。
ジゼルがあの店主にとびっきり美味い料理のレシピを教えてあげたからこその半額だったのだから。
「それじゃ、また後でね。ソーマ」
「あぁ、ゆっくり浸かれよ。俺たちものんびりしてあがるから」
女湯と男湯にそれぞれ分かれ、入っていった。
ー男湯ー
「ソーマ!ソーマ!背中流してやるぜ!」
「おっ、ありがとう」
ニコニコ顔のジンはゴシゴシ!と背中を洗ってくれる。
「……傷、増えたなぁ。昔見たときはまだそんな無かったのに。相当頑張ってたんだな…」
昔、よく2人で水浴びをしていたから、ジンは知っている。昔に比べ残ってしまう傷が増えたことに。
「次、俺が流してやるよ」
「えっ!マジで!」
ジンの背中を洗っていると、ソーマは気づいた。なんだ、ジンだって沢山傷が残ってるじゃないか。いつも笑顔が絶えないけれど、一緒にいなかった間、何かあったんだろう…と思う。
ザパアアア!とジンの背中を流し終えると、丁度髪を洗い終わったジゼルが視界に入った。
「ジゼル!たまには背中…」
言いかけた所ではっ!とした。ジゼルの背中は……一際目立つ大きな傷痕が残っていた。
「どうかしましたか?」
気づいたジゼルが言葉をかける。俺が返事に困っていると。
「背中流してやるってさ!ソーマが!」
ジン…ここはちょっと察して欲しかったんだが……!と俺は心の中で叫んだ。
「そうですか?ではお願いします」
……あれ?嫌がらない?
ジゼルとアリスには俺に話せない事情を抱え込んでいる。あの背中の傷痕はきっとその事情に関係している。そんな気がしたんだが…俺の思い過ごしか…?
ふとジンを見ると俺を見てにかっ!と笑っていた。……こいつぅ。ほんと頭上がらないなジンには。
「んじゃ、日頃の感謝を込めて、流させて貰うぞ。ジゼル」
「日頃の感謝って何ですか」
ジゼルが笑った。普段淡々としていて、あまり表情が豊かではないなと思っていたが、そうでもないのか?と感じた。
背中を洗っていて気付く。この背中の傷痕…火傷跡だ。
「背中の傷痕のこと、何も聞かないんですね」
その一言に、俺の心臓はドキッ…と弾み、何て返せばいいか分からなくなった。
「…私には弟がいます」
「え?」
「この傷痕はその弟にやられたものです」
ザパアアア……俺が無言でジゼルの背中を流し終えると「いつか……必ずお話します。その時まで待っていて下さい」少し、切なさの面影を残した表情をし「背中ありがとうございました」ジゼルは湯船へと向かった。
固まっている俺の腕を、黙って傍で見守っていたジンが引っ張り、俺たちも湯船へと向かった。
ー女湯ー
うーん、やっぱり大きい…
アリスは隣で並んで身体を洗っているマナを横目で見る。その視線は胸の方へと投げかけられていた。
何を食べればそんなに育つんだろう…身長は私のが高いのに…胸が圧倒的に負けている…
凄い見られてる…
マナはそのアリスの視線に気付いていた。自分の胸をジロジロと見つめるアリスの目が、怖い。
……。
「アリスちゃん」
「へっ!?なっ、なに!?」
「触ってみる?」
アリスの顔がカーーっと赤くなっていく。多分気付かれていないと思っていたのだろう。胸を凝視していた事を。
「い、いいの?」
「女同士だし構わないよ」
そーーっと指を近づけて、ツン。と触ってみた。
おぉ…弾力が凄い……
「ってオヤジか私は!!」
「ど、とうしたの?アリスちゃん…」
「あ、あぁ気にしないで…」
私、女終わってるなぁ…と塞ぎ込む。
ガバァッ!
「うひゃっ!!?」
いきなりマナがアリスの胸をつかむ。
「…うーん、別に小さいって訳じゃないと思うけど」
「ま、マナちゃんって結構積極的なのね…意外だった…」
パッ!と手を離し、マナは湯船へ行こうとアリスに言った。
「私、女の子同士だと普通に話せるの…でも、大人数とか男の子とかちょっと苦手で…」
あぁ…だからか。いつも話したい事を我慢してたのね。この子は。
だから、今私と一緒になって、普通に会話できて、それが楽しくて…
ぷっ、とアリスは笑う。マナは何故アリスが笑ったのか分からない様子だった。
「私で良かったらいつでもお話しましょ!」
「本当!?」
「うん!」
マナとアリスは湯船へと向かった。
ー男湯ー
「んで?アリスとはどこまでいったんだ?ソーマ」
ずいっ!とソーマの顔面近くにジンの顔が来る。近い近い!とソーマは湯船のお湯をジンにかけた。お湯をかけられてジンは少しむせている。
「どこまでって何がだ?アリスと…?何の話だ?」
ソーマは何を言ってるのか分からないらしく困惑している。その姿を見てジンは「マジかよ…」と呆れてしまった。
「ソーマ!お前アリスの気持ちに気付いていねーのか!?」
「アリスの気持ち?」
「いやだから!アリスがお前の事を好きかも知れないって事!」
「俺もアリスの事好きだぞ?」
「!!」
ジンは、お!これって両思いか!!よしきたぁー!と胸を躍らせたが、ソーマの次の言葉で意気消沈する。
「ジゼルもジンもマナもみんな大好きだ!」
違うんだソーマ…そういう好きじゃねーんだ…
ソーマ……顔は良いのにモテない理由がわかった気がするぜ…
その話に興味を持ちながらも、ジゼルは会話に入らず近くでゆったりと湯船に浸かっていた。
ー女湯ー
「んで?ソーマとはどこまでいったの?アリスちゃん」
ずずいっ!とマナがアリスの顔近くに顔を寄せる。アリスは近い近い!と言いながら顔を引いた。
「…え!?今何て言った!?」
アリスがマナに今言った言葉をきき返す。
「いや、だからソーマとはキスしたのかなー?手を繋いだのかなーって聞いてるの」
「なっ、なっ…!!」
顔を真っ赤にして声にならない声をあげる。
「ソーマの事、好きなんだよね?」
「…す、好きというか…」
モジモジとしながらアリスはマナに話してくれた。
「ソーマは…ね。私と櫻木の恩人なの」
「恩人?」
「うん…私とジゼルは元々、放浪の民の人間ではなかったの。色々事情があって放浪の民に来たんだけど、その時にソーマが助けてくれて…」
「ソーマ優しいよね」
「うん、優しい…優しすぎる」
「私とジンとソーマはね。幼馴染だったの。3人とも放浪の民出身」
えっ…?とアリスは少しだけ驚いた。そんな事知らなかった。初めて聞く。
「12年前の事件知ってる?」
12年前の事件。それは有名な事件だった。その事件がきっかけで羽根持ち、羽根なし、見捨て子の差別が出来たのだから。
「その事件がきっかけで見捨て子だったソーマと能力のある私たちは別れざるを得なかったの。私と、特にジンはソーマと絶対に放浪の民に残る!って言ったんだけど…その……ごめんなさい。ちょっと思い出したく…ない」
「だ、大丈夫よ!無理して話さなくても大丈夫!」
「………ソーマはいつも自分より他人優先で、他人を助ける為なら自らを犠牲にする様な危ない人なの」
知ってる。私もそれ、知ってる。門越えの時だって…俺が引き受けるから2人で先に行け!って…。
「だから、5年前に起きた咲間改革を聞いた時に凄く不安になった」
その咲間改革という言葉を耳にした途端、アリスは目を見開く。そしてすぐに平静を取り戻し、「あー、あの咲間改革ねぇー」と誤魔化した。
………咲間改革。
羽根持ちと羽根なしに対する絶対優遇制度。
見捨て子は処分する存在として見られ、能力のある者たちは見捨て子を奴隷に取る事が許される様になった改革。
その改革を行ったのは、この夢見の王国、1ブロック”女神の口付け”に在住する。全ての頂点に立つ女王だ。
丁度5年前に即位し、すぐ咲間改革を行った。
なんでも、その女王の住んでいた城が一度燃え、大きな事件となったのだが、それを乗り越え、健気に頑張る女王を見た民たちは、凄く支持しているらしい。羽根持ちと羽根なしを優遇する制度を出し、見捨て子を奴隷扱いする女王なのに、だ。
第8話 風呂屋にて① ~end~
次回予告。
まだまだお風呂の回続きます!
次回。 第9話 風呂屋にて②
食事を済ませ、相変わらず元気いっぱいのジンの後をついて行き、風呂屋に来ている。
先程の食事処”海鮮!うまっうまっ”の店主が飯代を半額にしてくれたのはラッキーだった。なんせ、俺を含めたジゼル、アリスの3人は金をほとんど持っていなかったからだ。
ジンが「金?気にすんなって!オレが奢る奢る!」と言ってくれはしたものの、やはり申し訳ない。
俺はジゼルに小声で耳打ちした。
「サンキュ、ジゼル」
「?」
ジゼルは何の事か分からない。といった様子で首を傾げた。
ジゼルのお陰なのだ。料理が安くなったのは。
ジゼルがあの店主にとびっきり美味い料理のレシピを教えてあげたからこその半額だったのだから。
「それじゃ、また後でね。ソーマ」
「あぁ、ゆっくり浸かれよ。俺たちものんびりしてあがるから」
女湯と男湯にそれぞれ分かれ、入っていった。
ー男湯ー
「ソーマ!ソーマ!背中流してやるぜ!」
「おっ、ありがとう」
ニコニコ顔のジンはゴシゴシ!と背中を洗ってくれる。
「……傷、増えたなぁ。昔見たときはまだそんな無かったのに。相当頑張ってたんだな…」
昔、よく2人で水浴びをしていたから、ジンは知っている。昔に比べ残ってしまう傷が増えたことに。
「次、俺が流してやるよ」
「えっ!マジで!」
ジンの背中を洗っていると、ソーマは気づいた。なんだ、ジンだって沢山傷が残ってるじゃないか。いつも笑顔が絶えないけれど、一緒にいなかった間、何かあったんだろう…と思う。
ザパアアア!とジンの背中を流し終えると、丁度髪を洗い終わったジゼルが視界に入った。
「ジゼル!たまには背中…」
言いかけた所ではっ!とした。ジゼルの背中は……一際目立つ大きな傷痕が残っていた。
「どうかしましたか?」
気づいたジゼルが言葉をかける。俺が返事に困っていると。
「背中流してやるってさ!ソーマが!」
ジン…ここはちょっと察して欲しかったんだが……!と俺は心の中で叫んだ。
「そうですか?ではお願いします」
……あれ?嫌がらない?
ジゼルとアリスには俺に話せない事情を抱え込んでいる。あの背中の傷痕はきっとその事情に関係している。そんな気がしたんだが…俺の思い過ごしか…?
ふとジンを見ると俺を見てにかっ!と笑っていた。……こいつぅ。ほんと頭上がらないなジンには。
「んじゃ、日頃の感謝を込めて、流させて貰うぞ。ジゼル」
「日頃の感謝って何ですか」
ジゼルが笑った。普段淡々としていて、あまり表情が豊かではないなと思っていたが、そうでもないのか?と感じた。
背中を洗っていて気付く。この背中の傷痕…火傷跡だ。
「背中の傷痕のこと、何も聞かないんですね」
その一言に、俺の心臓はドキッ…と弾み、何て返せばいいか分からなくなった。
「…私には弟がいます」
「え?」
「この傷痕はその弟にやられたものです」
ザパアアア……俺が無言でジゼルの背中を流し終えると「いつか……必ずお話します。その時まで待っていて下さい」少し、切なさの面影を残した表情をし「背中ありがとうございました」ジゼルは湯船へと向かった。
固まっている俺の腕を、黙って傍で見守っていたジンが引っ張り、俺たちも湯船へと向かった。
ー女湯ー
うーん、やっぱり大きい…
アリスは隣で並んで身体を洗っているマナを横目で見る。その視線は胸の方へと投げかけられていた。
何を食べればそんなに育つんだろう…身長は私のが高いのに…胸が圧倒的に負けている…
凄い見られてる…
マナはそのアリスの視線に気付いていた。自分の胸をジロジロと見つめるアリスの目が、怖い。
……。
「アリスちゃん」
「へっ!?なっ、なに!?」
「触ってみる?」
アリスの顔がカーーっと赤くなっていく。多分気付かれていないと思っていたのだろう。胸を凝視していた事を。
「い、いいの?」
「女同士だし構わないよ」
そーーっと指を近づけて、ツン。と触ってみた。
おぉ…弾力が凄い……
「ってオヤジか私は!!」
「ど、とうしたの?アリスちゃん…」
「あ、あぁ気にしないで…」
私、女終わってるなぁ…と塞ぎ込む。
ガバァッ!
「うひゃっ!!?」
いきなりマナがアリスの胸をつかむ。
「…うーん、別に小さいって訳じゃないと思うけど」
「ま、マナちゃんって結構積極的なのね…意外だった…」
パッ!と手を離し、マナは湯船へ行こうとアリスに言った。
「私、女の子同士だと普通に話せるの…でも、大人数とか男の子とかちょっと苦手で…」
あぁ…だからか。いつも話したい事を我慢してたのね。この子は。
だから、今私と一緒になって、普通に会話できて、それが楽しくて…
ぷっ、とアリスは笑う。マナは何故アリスが笑ったのか分からない様子だった。
「私で良かったらいつでもお話しましょ!」
「本当!?」
「うん!」
マナとアリスは湯船へと向かった。
ー男湯ー
「んで?アリスとはどこまでいったんだ?ソーマ」
ずいっ!とソーマの顔面近くにジンの顔が来る。近い近い!とソーマは湯船のお湯をジンにかけた。お湯をかけられてジンは少しむせている。
「どこまでって何がだ?アリスと…?何の話だ?」
ソーマは何を言ってるのか分からないらしく困惑している。その姿を見てジンは「マジかよ…」と呆れてしまった。
「ソーマ!お前アリスの気持ちに気付いていねーのか!?」
「アリスの気持ち?」
「いやだから!アリスがお前の事を好きかも知れないって事!」
「俺もアリスの事好きだぞ?」
「!!」
ジンは、お!これって両思いか!!よしきたぁー!と胸を躍らせたが、ソーマの次の言葉で意気消沈する。
「ジゼルもジンもマナもみんな大好きだ!」
違うんだソーマ…そういう好きじゃねーんだ…
ソーマ……顔は良いのにモテない理由がわかった気がするぜ…
その話に興味を持ちながらも、ジゼルは会話に入らず近くでゆったりと湯船に浸かっていた。
ー女湯ー
「んで?ソーマとはどこまでいったの?アリスちゃん」
ずずいっ!とマナがアリスの顔近くに顔を寄せる。アリスは近い近い!と言いながら顔を引いた。
「…え!?今何て言った!?」
アリスがマナに今言った言葉をきき返す。
「いや、だからソーマとはキスしたのかなー?手を繋いだのかなーって聞いてるの」
「なっ、なっ…!!」
顔を真っ赤にして声にならない声をあげる。
「ソーマの事、好きなんだよね?」
「…す、好きというか…」
モジモジとしながらアリスはマナに話してくれた。
「ソーマは…ね。私と櫻木の恩人なの」
「恩人?」
「うん…私とジゼルは元々、放浪の民の人間ではなかったの。色々事情があって放浪の民に来たんだけど、その時にソーマが助けてくれて…」
「ソーマ優しいよね」
「うん、優しい…優しすぎる」
「私とジンとソーマはね。幼馴染だったの。3人とも放浪の民出身」
えっ…?とアリスは少しだけ驚いた。そんな事知らなかった。初めて聞く。
「12年前の事件知ってる?」
12年前の事件。それは有名な事件だった。その事件がきっかけで羽根持ち、羽根なし、見捨て子の差別が出来たのだから。
「その事件がきっかけで見捨て子だったソーマと能力のある私たちは別れざるを得なかったの。私と、特にジンはソーマと絶対に放浪の民に残る!って言ったんだけど…その……ごめんなさい。ちょっと思い出したく…ない」
「だ、大丈夫よ!無理して話さなくても大丈夫!」
「………ソーマはいつも自分より他人優先で、他人を助ける為なら自らを犠牲にする様な危ない人なの」
知ってる。私もそれ、知ってる。門越えの時だって…俺が引き受けるから2人で先に行け!って…。
「だから、5年前に起きた咲間改革を聞いた時に凄く不安になった」
その咲間改革という言葉を耳にした途端、アリスは目を見開く。そしてすぐに平静を取り戻し、「あー、あの咲間改革ねぇー」と誤魔化した。
………咲間改革。
羽根持ちと羽根なしに対する絶対優遇制度。
見捨て子は処分する存在として見られ、能力のある者たちは見捨て子を奴隷に取る事が許される様になった改革。
その改革を行ったのは、この夢見の王国、1ブロック”女神の口付け”に在住する。全ての頂点に立つ女王だ。
丁度5年前に即位し、すぐ咲間改革を行った。
なんでも、その女王の住んでいた城が一度燃え、大きな事件となったのだが、それを乗り越え、健気に頑張る女王を見た民たちは、凄く支持しているらしい。羽根持ちと羽根なしを優遇する制度を出し、見捨て子を奴隷扱いする女王なのに、だ。
第8話 風呂屋にて① ~end~
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次回。 第9話 風呂屋にて②
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